深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

『三びきのやぎのがらがらどん』迫力ある絵を楽しもう

きっと絵本は保育園や幼稚園に通っている子なら必ず知っている絵本です。

園でも必ずといっていいほど置いてありますね。

小学校の入学間もない1年生によく読みましたが、この絵本を持って教室に入ると

「知ってるー!」

と嬉しい声があちらこちらから飛んできます。

子どもたちにとって知っている絵本を読んでもらうことも、大きな楽しみのひとつなのですね。

 

三びきのやぎのがらがらどん

マーシャ・ブラウン え

せた ていじ やく

ページ: 32

サイズ: 25.4x20.2cm

出版社: 福音館書店

出版年: 1965年

トロルがいる世界と北欧の民話世界、畏怖できる存在があること

ノルウェー 村

三びきのやぎが踊るように橋を渡っている表紙がの、落ち着いた青色の背景が目を惹きます。

アスビョルンセンとモーの北欧民話とあります。

アスビョルンセンは大学で植物学を学んでいましたが、グリム童話に触発されて、知人のヨルゲン・モーとともにノルウェー各地を巡り伝説や民話を集めたと人です。

『三びきのやぎのがらがらどん』は『ノルウェー民話集』に収められているお話です。

北欧のおはなしには、よくトロル(Troll)が登場します。

呼び方もトロール、トロールド、トロルド、トウラ、トゥローと様々。

一般的には、巨大な体躯、怪力、鼻や耳が大きく見にくいモノとして描かれることが多いようです。

絵本『トロールものがたり』では頭が複数あるトロールが描かれていました。

また北欧の国々によってもその姿や伝承が違っています。

ノルウェーでは白く長いあごひげのある老人として、赤い帽子、川のエプロン姿で描かれるようです。

スカンジナビア半島では小人の妖精、アイスランドでは邪悪な巨人、フィンランドでは池に棲む邪悪なシェートロールなどその姿は千差万別です。

日本でいうところの妖怪に近いように思えますが、やはり国が違うのでイメージも異なります。

ですがちょっとおそろしいけれど憎めない、そんなところは似ている…

また、正体はわからないけど不思議な生き物を身のまわりにおいたまま、生活に入り込んでいる生きものがいるところは似ていますね。

理屈無しに畏怖できる生きものがいるということは、自分たちが絶対ではないことを自然に理解できるありがたい存在に思えます。

 

色によってかわる「がらがらどん」たち

ノルウェー 山

なんといっても、マーシャ・ブラウンの挿絵の素晴らしい。

小さいやぎ、2番目のやぎ、大きいやぎのそれぞれが魅力的です。

山の草場で太ろうと向かう途中の谷川で、そこにすむトロルと対峙します。

黄金に輝く山に目をやる3びきのやぎたち。

この絵本はカラーで描かれていますが、じつは色は「青、黒、茶、黄、白」5色しか使われていません。

白は紙の色なので4色です。

わずか4色描かれたとは思えないほど表現が豊かです。

 

小さながらがらどんが橋を渡るときは、「青と黒」で描かれ、トロルとのやりとりに緊張感と不安が伝わってきます。

二番めのがらがらどんは「茶と青」、大きな「茶と黒」で描かれるトロルと同じ色です。臆するところがなく対等な印象を絵から受けます。

大きいがらがらどんにいたっては「黒」がいちばん多用されて迫力満点です。トロルに食いかかろうとするときは全身が「青と黒」、異形のモノに変身しているかのようです。

 

場面によって、わずか4色で、同じやぎでもこんなに多彩に描け、その心情を視覚化しています。

最後の草を嬉しそうにたらふく食べる「白」い、やぎたちに安心するのです。

大きな見せ場である大きいやぎのがらがらどんが、トロルに見栄をはるページは何度見ても見事です。

見開きに首から上が大きく描かれ、その角の迫力、髭や毛並みの勢い、鋭い眼差し、大きく開かれた口、これらは子どもたちに迫っていく絵なのでしょう。(私も驚きました!)

「おれだ! おおきいやぎの がらがらどんだ!」

この文字も大きく描かれています。思わず読む声も張り上げてしまいそうになるクライマックスなのです。

 

3びきいる「がらがらどん」は成長する子どもたちそのもの

むかし、三びきの やぎが いました。なまえは、どれも がらがらどん と いいました。

とおはなしは、はじまります。

3びきいるのに名前は同じ…

昔話では固有名詞を持つことが少なく名前は物語のための記号なのです。

(『シナの五にんきょうだい』も一番目のにいさん、二番目のにいさん…でした)

おはなしは、3つパターンでトロルとのやりとりを楽しむことができるようになっています。

 

最初の小さいがらがらどん。

軽やかですが決して弱々しくありません。弱々しそうに見えて、トロルに対峙した時には凛とした眼差しで、しっかり自分の意見をトロルに伝えています。

「ああ どうか たべないでください。ぼくは こんなに ちいさいんだもの」

最初に橋を渡るその姿がとても美しい!

 

2番目のがらがらどんは、頭脳派

トロルを挑発するような風体(あご髭とか)、目が横長(本当のヤギも黒目は横長です!)、トロルを挑発するようなしぐさで、小さいやぎとセリフはほぼ同じなのに全く違う印象を受けます。

 

最後の大きいがらがらどんの迫力たるや

トロルが可愛らしく見えるほどです。

 

 

かたこと かたこと

がたごと がたごと

がたん、 ごとん がたん、ごとん

 

さて、3びきは相談の上で橋を渡ったのでしょうか。

おはなしには描かれていませんが、大きいやぎが先に渡ってトロルをやっつけてしまえばもっと安心なのでは。

それではおはなしになりませんね(笑)

物事には順番があります。成長には時間がかかります。いきなり大きくなることはできませんね。

同じ名前の「がらがらどん」は、成長していく子どもたちそのものなのではないでしょうか。

小さいうちは恐るおそる、少し大きくなれば駆け引きできるようになり、成長のあかつきには恐れることなく対峙していく。

とそんなふうにみることもできるのかも…とこの名作を読んで思います。

 

〆のことばが物語世界を閉じる

 

山でたらふく草を食べて太ったやぎたちはからだがとても重そうです。

描いた最後の場面は、昔話特有の〆方、

チョキン、バチン、ストン。 はなしは おしまい。

この魔法の言葉で、子どもたちはちゃんと物語の世界から現実の世界に戻ってこれる気がします。

 

ご訪問ありがとうございます。

絵本選びのきっかけになればうれしいです。

海の雄大さを感じる絵本◆『沖釣り漁師のバードダウじいさん』の海は七変化

住んでいるこの町は、海を見るのに1時間以上車を走らせなければなりません。

海の持つ開放感と浪漫、未知への憧れや挑戦を飲み込まれそうな広大さ…

「海好きは詩人」というのが、うなづけます。

ちなみに、「山好きは哲学者」なのだとか。

(「海好き~山好き~」は昔、脚本家倉本聰のドラマのなかの台詞にありました)

海といえば…

  • 海水浴
  • 空が広いところ
  • その先に陸がある
  • 深い
  • 星がよく見えそう
  • 大きい波
  • 生物が棲む
  • 底に沈むもの

想像力貧困な私の発想はこんなものですが、この絵本の作者マックロスキーの想像力たるや痛快なものです。

海の平穏さ、壮大さ、荒々しさ、多様さ、優しさ、美しさ、が楽しく描かれています。

 

沖釣り漁師のバートダウじいさん

~昔ふうの海の物語

ロバート・マックロスキー さく

わたなべ しげお やく

ページ: 59

サイズ: 28.8x23

出版社: 童話館出版

出版年: 1976年

鮮やかな色彩に彩られた物語と海のと空の色の見事な表現を楽しむ

濃いピンク、レモンイエロー、落ち着く緑、優しい青、元気の出る赤、光る白、真っ黒な黒、 色彩の豊かな絵本です。

また舞台となる海の表現がとびきり見事です。

遠くに見える海は穏やかで、

カラフルな舟・潮まかせにぶつかる波は勢いがあって舟に揺られているよう。

くじらが現れる海の荒々しさは大迫力、

嵐に変化していく空と海の色の変化や波の様子が有機的に描かれ、

騒ぎが一段落する海の薄桃色の空と海の色。

海と空の変化を見るだけでも、その多彩さに驚きます。

海の七変化と迫力のストーリー

タイトルどおり「沖釣り漁師」である「バートダウじいさん」は、海へ漁に出かけます。

相棒となるカモメ、海で遭遇するクジラ。

マックロスキーの生き物は、生き生きして表情豊かです。

彼らの表情はとてもユニークで、いまにもしゃべりだしそうです。

もちろんおはなしも飛び切り面白い。

~気まぐれエンジンのついた、潮まかせという名の こいつもふるい両船首の舟だった。 ~潮まかせは バート・ダウじいさんの埃だし喜びだった。

舟への愛着を感じます。

ペンキ塗りの仕事で残ったペンキをもらってきては、潮まかせにぬってやります。

~「あのピンクの外板は、ジニー・プーアさんとこの食器部屋の色だし……、 みどりのは、おいしゃのウォルトン先生の待合室の床と戸の色だ。 黄色は、パスケル船長さんの家のポーチのかざりの色」というわけだった。

細かな設定がリアリティを引き出しています。

仲良しのカモメが「おしゃべりかもめ」、舟が「潮まかせ」、調子の悪いエンジンを「気まぐれエンジン」と、ネーミングが楽しい。

さて、おはなしは、年とったバート・ダウじいさんがひとりで海に出て、なんとクジラのしっぽを引き当ててしまいます。

そうこうするうち、海が荒れてきて、なんとクジラのの中へ避難することに。

クジラの胃のなかの綺麗なこと。

非難したはいいが、今度は出なくてはいけません。

吐き出してもらうために、胃のなかでペンキをぶちまけたり棒でつついたり、クジラにとってはいい迷惑ですね。

「だばーッ!」とくじらばき!潮まかせは、 がっしりした手で かじ棒にぎったじいさんのせて おしゃべりかもめをしたがえ、気まぐれエンジン 全開のまま おっぴらいたくじらの口から チャカチャカバンと とびだした。~

こんな具合に脱出したのはいいけれど、そこはくじらの群れのど真ん中。

くじらたちは最初に釣りあげられて、しっぽにカラフルな”ばんそうこう”を、つけてもらったくじらよろしく、自分たちもばんそうこうをつけてもらいたいと、バート・ダウじいさんに催促します。

満足げに隊列をなしてゆく、くじらたち。

茜色の海の空のもと悠々と帰途につく潮まかせ。

こんな海と空をみてみたい、と思わせる心に残る景色です。

思わず、ヘミングウェイの『老人と海』のよう、と思いました。

海の広さ、くじらの大きさを感じる

この絵本を開いていると、海は広くて深くて、くじらは大きくて、重くて、悠々としているんだなぁ、と思います。

版が大きめ(28.8x23)で見開くとA3よりやや大きめでしょうか。

子どもたちの目にもきっと大きく映ることでしょうね。

時にはアップでくじらの口が描かれ、時にはひいた構図で海の大きさやまわりの状況が、うまく描かれています。

くじらの口の中に避難しようとする舟(バートダウじいさん)の覚悟がみえます。

大きなクジラが、バートダウじいさんにしっぽを釣り上げられたときに、カラフルな絆創膏を貼ってもらいます。

描かれる絵にもかならずしっぽの片隅に絆創膏が描かれていますが、その対比が面白いですね。

巨大なものと小指ほどの大きさのもの。

それをくじらは気に入っているわけです。

最後に隊列をなしてうれしそうに去っていくカラフルなくじらたちの様子に、海の懐の深さを感じました。

『老人と海』を子どもと読む

小学3年生の時息子とこの絵本を読んだ後『老人と海』を勧めてみました。

面白く読んだようで、夏の読書感想文を書いていました。

海という場、人間とそれに対する生きもの(魚)。

これしかない、という状況での人間の生命力や自然を感じることができる作品です。

 

ご訪問ありがとうございます。

絵本選びのきっかけになればうれしいです。

素直な心と目で見ることの大切さ『ロバのおうじ』のやさしい眼差し

桜が散って、しばらくたつと山々に明るく鮮やかな緑色が見えはじめます。

霞かかる春の空に、鮮やかな若緑色が目に飛び込んでくる新緑は、儚くも心躍る季節です。

そんな新緑色の表紙が目を引く絵本が『ロバのおうじ』です。

グリム童話の代表作でもあるこのおはなしは、読むと25分以上かかります。

小学校の朝読書では2日に分けて読んでいました。

5年生、6年生にじっくり読むことが多かったですね。

色のもつイメージから5月、6月に読みたい絵本です。

ロバのおうじ

グリム童話より M.ジーン・クレイグ さいわ

バーバラ・クーニー え

もき かずこ やく

ページ: 48

サイズ: 26x18.4cm

出版社: ぽるぷ出版

出版年: 1979年

王子なのにロバであること、先入観がある時

グリム童話の代表作のひとつ。 おはなしは、

平和な国を治めていた王と王妃がおりました。

子どもがいないことがただひとつの悩みでした。

そこで、魔法使いと取引し、子どもを授かるよう約束したのです。

ですが、おうさまは約束を守らなかったために、魔法使いは怒り生まれた王子をロバの姿にしたのです。

その姿はロバの姿のままでも真に愛してくれる人が現れるまで呪いはとけません。(それをおうさまたちもロバの王子も知りません)

立派な教育を受けて、他の王子とひけをとらない能力を持ち合わせていながら、その姿から両親に愛してもらえないのです。

お城で王子らしく振舞っても

「ロバにしてはね!」

と蔑みの目で見られてしまいます。

ある日、お城にリュート弾きがやってきて、ロバのおうじは弾き方を習います。

終いには先生だったリュート弾きのお墨付きをもらうほど上達したのです。

その腕前をおかあさまやおとうさまに披露しても、なんの関心ももってもらえません。

ひとり自分の姿を鏡に映して、服を脱ぎ捨てリュートをかついでお城を出る決心をするのです。

「ぼくは もう ロバっこのおうじさまでいうのには うんざりだ。~」 「どこかに いってしまおう。ロバっこのおうじさまなんかでいなくても すむ どこか とおいところへ……」

 

旅の風景とロバのおうじ

この絵本でとても好きな場面です。

お城を出たロバの王子はあてどもなくさすらいます。

人にも合わず、声をきくこともなく、それまで中傷の中で暮らしていたロバのおうじには、自然の風の音や川のせせらぎ、新月の輝きがリュートを奏でるエネルギーになったのでしょう。

この場面から新たな展開がはじまります。

 

リュートが上手で博識なロバの人、先入観がない時

長い間の旅の後、リュートの見事な演奏に、あるお城でおひめさまに大層気に入られそこで暮らすことになります。

夢にように過ぎてゆく日々。

新しく出会ったお城のおうさまやおひめさまは、ロバのおうじに対する先入観がありません。

リュートを素晴らしく弾きこなす歌い手の名人、

物知りで博識がある人、

親切で辛抱強い人、

お城で開かれるパーティーでは、ご婦人方にこう噂されます。

「あのかた すてきじゃない? とても ほがらかで」

同じことをしても、先のお城では王子なのにロバの姿なために「ロバにしてはね」といわれます。別のお城では、ただのリュートのうまい博識な人として尊敬を集めるのです。

幸せな時を過ごしていましたが、ある日おひめさまに縁談がある話を耳にします。

お姫様を思って暇乞いするロバの王子は、おひめさまから告白を受けます。

おひめさまは心からロバの王子を思っていました。

「さびしいのは うたが きけなくなることじゃないわ」 ~ 「あなたが いなくなることよ!」 「あなたは みっともなくなんかないわ! あなたの うたと おなじくらい うつくしいわ!」 「でも ぼくは ロバみたいだ!」 「あなたが なんだろうと きにするものですか!あなたが すきなの。あなたに ずっと そばに いてもらいたいの!」

そして、奇跡が起きます。

ロバの王子は人の姿になれたのです。

おひめさまは驚くでもなく、はじめから知っていたといいます。

本質を見る目を持っていたということでしょう。

その後二人は結婚し、何年か後6人の子どもを授かります。

そして どのこにも はいいろの けや ながい みみ しょぼしょぼの けのついた しっぽなんか ありませんでした

とおはなしはしめくくられます。

最後の見開きページには家族でボートに乗った幸せが、みどりの景色と共に描かれています。

 

昔話・童話の身勝手な親

ここで描かれるロバのおうじの親であるおうさまは、財産好きで、おきさきは綺麗なお召し物好き。

子どもを望みますが、金貨をごまかしその結果生まれたロバの姿の自分の子を愛することができません。

こうした成り行きは過剰のように思われますが、存外いつの時代にもあるもののように思われます。もちろんおはなしを作るうえでこうした親である必然性は必要です。 (ロバの姿だけれど愛されました。ではおはなしがつづきませんからね)

愛されないロバのおうじは、自ら愛し愛される存在を求めることはできたのです。

その姿から愛してもらえないことに落胆はしていますが、絶望はしていません。

旅によって新しい自分となり、自分の居場所を自らの特技と性質で探し当てたともいえるでしょう。

グリム童話をはじめとする古今東西の昔話には、生きぬく知恵が描かれているのですね。

絵本になると、切なさが少し緩和されるように思います。

 

透明感のあるクーニーの挿絵

なによりも色が若々しいと感じます。黒や濃い緑も軽いのです。

王子のときに着ていた爽やかな青い服の姿もお似合いです。

ロバのおうじの優しい眼差しは最初から最後まで変わることがありません。

描かれるロバのおうじの表情にも、ちゃんと人としての表情も読み取れます。

おひめさまとロバのおうじが庭の木の下でリュートを奏でている場面が大好きです。

庭の木々や花々、鳥や庭師もなんて楽しそう。

おひめさまは本当に優しそうに描かれています。

この人ならロバのおうじの本質を見抜いていたとしても全く不思議ではない、そんな風にちゃんと見えます。

本質を見抜く目を持ったおひめさまの凛とした姿や確固たる意志が見事に描かれていて敬服します。

絵本で「きちんとそう見える」のはとても大切なことですね。おはなしを聞きながら子どもたちは絵の隅々までみていますから。

クーニーさんの端正な品格のある絵に、ロバの王子のプライドがみえます。

柔らかで透明感ある色彩が目と心に優しい、そして若い緑色が平和を感じさせるラストシーンになっていると思います。

 

ご訪問ありがとうございます。

絵本選びのきっかけになればうれしいです。

舟に乗りたくなる『ガンピーさんのふなあそび』は非日常を楽しむ

舟に乗りたいなぁ、とこの絵本を読んで思いました。

この絵本に登場するような船頭さんがいるふねに乗ったことがあったっけ…

最後に舟に乗ったのはいつだったかしら…

子どもの頃にふねに乗ったことはあったかなぁ…

そんなことをふと考えてしまいました。

陽ざしが強くなる5月あたりから小学校の読み聞かせでよく読みました。

水の風景がある絵本は涼しさや心地よさを感じるように思います。

 

ガンピーさんのふなあそび

ジョン・バーニンガム さく

みつよし なつや やく

ページ: 34

サイズ: 25.4x25.4cm

出版社: 福音館書店

出版年: 1976年

 

みんなが乗せてとやってくる、舟に乗る楽しみは

 

これは ガンピーさんです。

おはなしの最初のページにはガンピーさんがこちらを向いて立っています。

右手にはじょうろ、黄色のジャケットと帽子をかぶり、青いズボン、長靴をはいています。

ガンピーさんの左右に芝のひかれた庭が広がっています。その奥に赤い家がみえます。

ページをめくると

ガンピーさんは ふねを いっそう もっていました。 いえは かわの そばに ありました。

と続きます。

そして、ある日ガンピーさんは小舟にのって出かけます。

途中で、子どもたち(男の子と女の子)、うさぎ、ねこ、いぬ、ぶた、ひつじ、にわとり、こうし、やぎ、が次々に「乗せてください」と乗り込んできました。

そのたび、ガンピーさんは言います。

子どもたちには「けんかさえ しなけりゃね」 うさぎには「いいとも。とんだり はねたり しなけりゃね」 ねこには「うさぎを おいまわしたり しなけりゃね」 いぬには「ねこを いじめたり しなけりゃね」 ぶたには「うろちょろするんじゃないよ」 ひつじには「めいめい なくんじゃないよ」 にわとりには「はねを ぱたぱた やるんじゃないよ」 こうしには「どしんどしん あるきまわるんじゃないよ」 やぎには「けったりするんじゃないよ」

それぞれに、舟に乗るための禁止事項を提示して舟に乗せるのです。

小さな小舟に乗り込んだ子どもたちと動物たちは、ガンピーさんが船頭する舟に揺られて、とても楽しそうです。

女の子は川面に手をつけて水の流れを楽しみ、明るい陽ざしが照り付けています。

舟は乗るだけでとても楽しい乗り物です。

いつもとは違う目線が持てますね。

遠くから見る川とは違う、流れを間近に見ることができる体感できる川です。

早さもきっと違います。

歩くでもなく走るでもなく、ガタガタするでもなく。

滑らかですべるように過ぎる自分と風景を感じることができますね。

舟に乗る、ことはどこか日常から離れることができる場、であるように思われます。

大勢が乗り込んだ舟という場は

おはなしの続きです。

しばらくは川を下っていきましたが、そのうち

やぎがけとばし、 こうしが としんどしん あるきまわり にわとりたちが はねを ぱたぱた やり ひつじが めいめい いい、 ぶたが うろちょろし、 いぬが ねこを いじめ、 ねこが うさぎを おいかけ、 うさぎが ぴょんぴょん とびまわり、 こどもたちが けんかをし

結果、舟はひっくり返ってみんな川の中に落ちてしまいます。

みんな岸まで泳ぎ着いて、おひさまで身体をかわかし、野原を歩いて、ガンピーさんの家に行き、みんなでお茶の時間を過ごします。

そして月のでる夜、

「じゃ、さようなら」と、ガンピーさんは いいました。 「また いつか のりにおいでよ」

おはなしはこれで終わります。

舟に乗り込んだ子どもたちと動物たちはしばらくは楽しそうで平穏でした。

ですが、なにが原因というわけでなくそれぞれが「やってはいけないこと」をやりだすのです。

ですが、考えてみれば当たり前のことでもあります。

ヒツジはメイメイいうものだし、ウサギはピョンピョンはねるもの。

もちろん舟といういつもとは違う場だからこそ、ガンピーさんは注意したのでしょう。

けれど長続きはしない、ということをガンピーさんはわかっていたようにも思います。

しばしの舟の楽しみをみんなで味わえれば、舟はひっくり返ってもよかったのでしょう。

だからこそ、「また いつか のりにおいでよ」と。

いつもと同じは安心できます。ですがたまには違ったこともしてみたいものです。(そうしてみんな乗り込んだ舟です) 見えるものも変わって、なんだか新鮮に思えるものです。

舟がひっくり返って、それもおしまいです。舟に乗るためにちょっとムリしていましたからね。でも舟の楽しさは存分に味わえた子どもたちと動物たちです。

やさしい絵と穏やかな表情

この絵本には、小舟を操るガンピーさんと男の子と女の子、そして動物たちがたくさん登場します。

それぞれの登場シーンには1ページに、どーんと、生き生きとした姿が描かれています。

ジョン・バーニンガムの絵は線も色も儚い。

どこか夢の景色のようでもあります。

動物たちの表情はユーモラスで、彼独特の絵、という気がします。

描かれる人や動物は楽し気ではあるけれど笑っているわけではなく、微笑んでいるというより口角が上がっているくらいの表情なのです。

過剰さが描かれることがない絵本で、それは船頭であるガンピーさんもです。

クライマックスで舟はひっくりかえりますが、でも、なんだかみんな慌てていないのです。

なんだかみんな、落ち着いて川に落ちています、人も動物たちも。

舟がひっくり返るところと、お茶をしているところは見開きで描かれています。

なんとも落ち着いたクライマックスです。

ガンピーさんの役割は? 落ち着いた大人がいること

ガンピーさんという落ち着いた大人がいることで、成立している舟ねあそび、なのです。

川に落ちるまで十分みんな楽しい時間を過ごしていました。でも大勢集まればドタバタはつきもの。

大丈夫だよ、とガンピーさんの存在が物語っています。

そして舟の上ではガンピーさんが実に大きな姿で描かれています。その存在を示すかのように。

大きな絵本と透明感のある色

大判の絵本で絵も線画細かくひかれて柔らかなタッチ。

線画が黒では、こげ茶色が使われているからでしょうか。

色は中間色が多く使われていて、むしろ大人な雰囲気です。

水彩(だと思うのですが)水辺、叢の緑が透明感があって清清しい。

右ページがカラーで左のページはこげ茶1色で描かれています。

彩色がない絵は線画で銅版画のような細かな短い線で丁寧に描かれています。

石橋をくぐったり、乗り込んで増えていく船の上の様子と舟の下る景色の変化が楽しいです。

こんなふうに舟遊びしてみたい、とやっぱり読むたびに思うのです。

 

ご訪問ありがとうございます。

あなたの絵本選びのきっかけになれば嬉しいです。

『もりのなか』◆柔らかさと畏れを体験できる絵本

エッツの代表作ともいえるこの絵本は、墨一色で描かれた絵本です。

紙の三角帽子をかぶった男の子が森の中を歩いていきます。

裏表紙には「よんであげるなら2才から」とあります。

息子にも2才半のころ読み始めました。

読むたびに色々なことを発見できる絵本です。

登場する動物たちの姿を見るだけでも楽しいです。

かれらを引き連れて先頭を歩く男の子の気持ちになってみてもワクワクします。

そこは「もりのなか」、開かれていながら閉じている世界。

息子はどんな風に楽しんでいたのでしょう。

この頃の子どもは丸ごと受け止める度量があるということです。

穏やかさと少しの怖さをあわせもつ不思議な絵本です。

小学校の朝読書の時間、1年生、2年生によく読みました。

文が簡潔でほどよい分量なので、ゆっくりゆっくり読むことができました。

 

もりのなか

マリー・ホール・エッツ ぶん/え

まさき るりこ やく

ページ: 40

サイズ: 25.7x18.3cm

出版社: 福音館書店

出版年: 1963年

 

墨色の森の中の特別な世界~絵本の構成から受ける印象

モノクロのパステル(?)で描かれている挿絵は、律儀にすべてのページにあります。

横長の絵本で左右に絵が配置され、絵の下に文があります。

文もすべて(当然なのですが)ひらがなで書かれています。

絵のサイズはすべて同じです。

絵本にはいくつかの定型ともいえるパターンがあります。

見開きにした時に、

片側に全面の絵があり、もう片側は文だけの絵本。

モノクロページとカラーページが開くたびに交互にあらわれる絵本。

見開き全体に絵があり文がそえられている絵本。

オールカラーの絵本。

全部モノクロの絵本。

文が多い絵本、文が少ない絵本。

コマ割りのような絵本。

・ ・ ・ 視覚的に絵の量と文の量から、どのような絵本なのか感じことができます。

「もりのなか」は、1ページに決まったサイズに絵が4分の3、文が4分の1で下に1行~3行。

最初から最後まで変わることはありません。

使われている色は紙の色(灰色がかった白)と墨色(ベタの黒ではない)です。

色や絵、全体のサイズから、淡々としたリズムが開いたページ全体から感じられます。

劇的なことは起こらない… それがこの絵本の第一印象でした。

 

もりのなかを行く少年と動物たちの行進の不思議

大きな木の根元に紙の帽子をかぶった少年がラッパを口にして立っています。

ぼくは、かみの ぼうしを かぶり、あたらしい らっぱをもって、

これがおはなしの1ページ目です。

もりへ、 さんぽに でかけました。

少年は森で次々に動物たちと出会います。

ライオン、ゾウ、クマ、カンガルー、コウノトリ、サル、ウサギと次々出会い、長い行列となってもりのなかを行進するのです。

紙を梳かすライオン、セーターに着替えるゾウ、ジャムとピーナッツを抱えるクマ、おなかに赤ちゃんカンガルーを連れてのカンガルーの親子は太鼓を持って、老獪なコウノトリは黙ってあとに続き、よそ行きの服に着替えたサルたち。

動物たちはいろいろと身支度して少年のあとに続きます。どの動物たちも微笑んでいます。

 

洋服や二本足で歩いても不思議と違和感がありません

擬人化され過ぎない動物たちが静かに少年とやりとりをしていると、意思の疎通ははかれるものだと、納得できるのです。

ライオンもクマもゾウもサルもみな、同じような背丈で描かれています

物語世界である記号なのではないでしょうか。

 

最後に出会うウサギだけはちょっと特別

それまでは少年から声をかけることはありませんでしたが、ウサギには少年から声をかけています。

「こわがらなくって いいんだよ」、 ~ 「きたけりゃ、ぼくと ならんで くれば いいよ」

そうして、ウサギは少年のちょっと後ろの横について歩き出します。黒い森を背景に動物たちが微笑みながら行進。

誰かが残したピクニックのあとのテーブルで一休み。ハンカチ落とし、ロンドン橋落ちた、かくれんぼをして遊びます。

かくれんぼでウサギだけがかくれずにじっと座っていました。

「もういいかい!」

といって目をあけると動物たちは1ぴきもいなくなっています

そして少年のおとうさんが探しにきていました。

少年はおとうさんに肩車にのってかえります。

「さようならぁ。みんな まっててね。また こんど さんぽに きたとき、さがすからね!」

という言葉でおはなしはおわります。

 

ウサギだけは実物と同じような大きさで描かれています。

ウサギだけがリアルなのでしょうか。

大きな動物も小さな動物も一様に描かれた世界。

ウサギだけが少年とともにリアルな大きさであることが逆に目を引きます。

ウサギだけが少年にとって特別ななにかであることがわかります。

 

「もりのなか」はどこか

動物たちと粛々と遊ぶページが、最初に読んだ時から不思議でした。

淡々と整列しながら遊ぶ少年と動物たち。

どちらかというと無表情に「遊び」をこなす動物たちと少年

かくれんぼのオニになった少年は気に顔をふせています。

おとうさんが少年をみつけてから森を去ろうとするまで、少年はこちらを向きません。

ずっと後ろ姿です。

つまり動物たちといた時だけ、あるいは最初のひとりでいたときは表情がみえています。

動物たちがいなくなった(消えた)ときから、少年の表情をエッツ(作者)は描いていないのですね。

おとうさんは現実の人です。少年の現実の人なのですが、「もりのなか」ではむしろ動物たちといる時が顔の見える人でした。

夢の中、空想の世界、

といってしまうのは簡単ですが、少年(この絵本の主人公は3歳?)の年頃はそれが混然一体となっている年頃なのだ、と絵本を読んでいて感じました。

「3歳までは夢の中」…そんなふうに子ども時代をたとえたのを読んだことがあります。

まさにこの絵本の少年のよう、それが日常なのです。

もしかしたら、現実と空想の世界のはざまに唯一いられるのが3才なのかもしれませんね。

 

ふと子どもを見ると中空を見て笑って楽しそうにしていたり、

シャボン玉をふきながら、キリなくずっとやりつづけたり、

タンポポの綿毛を飛ばしながら綿毛だらけの中に姿がぼんやりしたり、

ブナ林の森を延々と走り回ったり、

そんな息子の3才の頃を思い出します。

 

できるだけ、その邪魔をしないようにとこの「もりのなか」を読むと思います。

そうした時期はそう長くはないのです。ですがとても大切な時期でもあります。

よりよい空想を持つことができる子どもは自ら問題を解決できる人であり、まわりの人の気持ちをわかる人になれると思うのです。

 

だれもが持つ「もりのなか」

 

深い森の静けさとゆったりとした時間、子どもの漠然とした期待と不安をうまく表現しているように思います。

森の中を歩く未知なる冒険心、共に歩く動物たちは、これからの少年の人生を映すかのようです。

孤独に思われるウサギは少年でしょうか。

かくれんぼで今、に戻った少年は、動物たちに声をかけました。

「まっててね」と。

これから先で合うであろう人たちに声かけているようにも聞こえるのです。

 

マリー・ホール・エッツの代表作「もりのなか」は、 一言でいうなら、静謐。

子どもの頃、小山の鬱蒼とした木々のある神社にいると、不思議な気分になったことを思い出す絵本です。

読むたびに深い思索の迷宮に迷い込む感覚があります。

 

ご訪問ありがとうございます。

絵本選びの参考になれば嬉しいです。

夢をかなえる絵本『栄光への大飛行』ひたすらにひたむきなチャレンジ精神

イギリスとフランスを隔てているドーバー海峡を、 飛行機ではじめて渡った人のおはなしです。

小学校では5年生、6年生によく読みました。

実話だということを読み終わった後に話すと、 「へぇ~」といった風です。

最初の挑戦から6年め、11回目の飛行で成功します。

これからいろんなことにチャレンジしていくであろう 子どもたちに「やってみようね」という思いで読んでいました。

栄光への大飛行

アリス&マーティン・プロヴェンセン 作 今江祥智 訳
ページ: 40 サイズ: 22x26cm 出版社: BL出版 出版年: 2009年(1983年)
 

夢とあこがれと試行錯誤

おはなしは1901年。 絵本で〇〇年と記すのは珍しいことですが、 このおはなしは実話をもとにしているからです。

イギリスとフランスを隔てているドーバー海峡は、 直線距離にしておよそ34キロメートルです。

現代では遠泳のコースとしても語られています。 肉眼でも遠くに見えるそこまでを、まだ開発が始まってまもない時代に 飛行機で渡ったのが絵本の主人公ルイ・ブレリオさんです。

空を飛ぶことへの憧れ、 そして成し遂げるための試行錯誤を描いています。

絵のトーンは渋めで、どちらかといえば表情も大仰ではありません。 ですが、このお話にはとても合っていると感じます。

大人が主人公のせいでしょうか。 端正な絵柄が、本当の話なのだと淡々と語っているようです。

 

飛行機の美しさを絵本で知る

そして、飛行機の美しいこと。 柔らかい色合いといい、木や布の質感、 空を飛んでいる姿を見てみたくなります。

フランスのカンブレエという町に5人の子どもと奥さん、ネコにイヌにオウムと暮らす、ブレリオさん。

みなでドライブに出かけたある日、 空にぽっかり浮かぶ飛行船を目にします。

たった一つの思いだけでむねがいっぱい。   「わたしも 空飛ぶ機械を作るとも。 大きな白い鳥のようなのをね。 みんなでがんばりにがんばって、ツバメのように つーいつーいと飛べるようになるんだ!」  

はじめてちゃんと飛べるヒコーキを作ったのが 6年後の「ブレリオ7号」機。

それまでは少し浮いては壊れ、 数分舞い上がっては壊れ、 原っぱの端まで飛んでは壊れ、 そのたびに、骨は折るくじく、 目の周りはあざだらけ・・・ を繰り返して慣れっこになったブレリオさん。

成功の飛行機に乗り込むのも松葉杖をつきながら乗り込みました。

そして1909年7月25日、

パパの飛行機「ブレリオ11号」は、みごと37分の大飛行を成し遂げるのです。

この絵本の醍醐味は、なんども何度も作られる飛行機の姿の美しいこと!

あー、木と布でつくられた飛行機もあったのか、と思うのです。

悠々と回るプロペラや自転車のような車輪、白い羽のような翼は見ていてわくわくします。

みると後ろと前の見返しには、どんよりとしたイギリスらしい空に小さな飛行機が飛んでいます。 (描かれている飛行機がちゃんと違います。前がブレリオ1号、後ろがブレリオ11号)

空を飛ぶこと、飛行機に憧れる気持ちが伝わってくる絵です。

 

それと、擬音がちょっと変わっていて面白い。

ずびぃん! これはパパの車が荷車にぶつかった時の音です。

クワラン クワラン グワラン グワラン これは白い飛行船がくもの中から現れた時です。

 

実話を語る絵本の魅力

航空界の先駆者であるルイ・ブレリオさんは、 自動車のライトについての発明で身代を築き、 飛行機の開発と製作に注ぎ込みました。

はじめてドーバー海峡を飛行機で越えた人が、 失礼ながら"おじさん"だったことに勇気をもらえました。

 

□憧れるものがあり、そのために行動を起こす □根気よく失敗を恐れない □いくつになっても挑戦できる

 

いつまでの「こうありたい」と絵本を読んで思います。

失敗のたびにパパが口にする時の文がこちらです。

パパにはまたひとつ「勉強になった」。

ちなみに「栄光への大飛行」は復刊してのちの表題です。

最初は「パパの大飛行」。(残念ながら廃刊)

個人的にはこちらの方が好みです。 パパ、が大飛行するなんて、わくわくします。

ひとりのパパとして始まった挑戦でしたからね。 パパが挑戦する姿の側にはいつも家族が描かれています。 ママが子どもたちの手を引いてパパと共にいるのです。

危険な挑戦ですが応援する家族がいたからこそできたのかもしれませんね。 最後のページは無事フランスに降り立ったパパとママ、子どもたちが微笑んでこちらを見ています。

だから「パパの大飛行」だったのです。

 

ご訪問ありがとうございます。 絵本選びのきっかけになればうれしいです。

拡がる世界を体験する子どもたちが描かれる『げんきなマドレーヌ』

春のイメージカラーは、桜のうすいピンクと黄色。 黄色は菜の花やレンギョウ、ラッパスイセン、 ワーッと咲きほこる姿が印象に残ります。

新学期を迎える子どもたちにも 明るい色は元気のでる色です。

大きな絵本で教室で30名を前に開いても見劣りしない大きさです。

女の子たちの並んで歩く姿の愛らしさは1年生に重なり、 入学する時に読んでほしい絵本です。

子どもたちに読む大人も、 書き込まれたフランスの風景を楽しめますよ。

ルードウィッヒ・ベーメルマンンス 作

瀬田貞二 訳

ページ: 48

サイズ: 30.8x22.8cm

出版社: 福音館書店

出版年: 1972年

色の持つ力が自然と伝わる

背景がカラーページ以外は、いつも黄色、イエローが使われています。

色の力でしょうか、黄色は元気がでる色。 春、いろんな始まりを迎える季節に、タイトルどおり元気をもらえる絵本です。

絵本の舞台はフランス。 一緒に暮らす12人の女の子たちが元気な姿で街中を闊歩していて爽快。 マドレーヌは一番のおちびさんで、 12人の面倒をみてくれるのが、ミス・クラベルです。 不思議にこのふたりのほか、名前が登場しません。 こうすることで、誰もがマドレーヌとしての視線をもてるように思います。

 

拡がっていく世界の元になる場所

気のあう仲間と、食べて、眠って、散歩して、遊んで、励ましあって。 絵本のマドレーヌは何歳でしょう。 親元を離れて暮らしている彼女たちにとって 仲間とミス・クラベル(先生)が世界のすべてです。

子どもたちにとって世界は少しづつ広がっていくものです。 家の中、家の周り、町内、学校のまわり、市内へと。

マドレーヌの話を読んでいると、 仲間と町に出て自らの世界を広げていく様子がよくわかります。

子どもの頃は知らない町や場所に行く場所に、 少しのおそれを感じていたように思います。

なんだか小学1年生をみるように感じてしまいました。

読む時期や環境が変わると、また感じ方も変わるものだと、つくづく思います。

絵画的な絵とアニメーション的な絵

絵本にしては地味なおさえた色彩が使われていますし、 暗い色調で鬱蒼とした感じ。

はじめて読んだときは、絵の巧みさには驚きました。 フランスの名所が描かれているのですが、絵画をみるようです。

ところが、景色を描いた絵の中に、マドレーヌたちをみつけると、 はめ込まれたアニメーションのようにも見え、 不思議とそこがパーッと浮き立つよう。 服のラインが鋭角的で12人の女の子たちが動くと、

場面にスピード感が生まれるようです。 パースの取り方が上手いのでしょうか。
マドレーヌたちの姿はむしろ記号化されたようなかわいらしさです。 ページ構成がカラーの絵画的ページとイエローと線のページで、 ランダムにあらわれることで、読んでいてもリズミカル。

マドレーヌはシリーズになっていますが、 描かれる人物もとてもチャーミングです。 ミス・クラベルはもちろん看護婦さんやおまわりさん。

エッフェル塔、オペラ座、リュクサンブール公園など フランスの名所が美しく描かれており、 マドレーヌシリーズ、みていると、フランスに行きたくなりますね。

ご訪問ありがとうございます。 絵本選びのきっかけになればうれしいです。

見た目は大切!『どろんこハリー』やさしい人々が暮らす街

見事な毛並み、ぬいぐるみが歩いているかのよう 全身ふわふわもこもこ、見惚れる様な そんな犬を見かけることがありました。 飼い主のことをしっかりみています。 ワタシたちのことも、物凄い目力で見ていましたよ。 なんだか人みたいに思えました。

 

犬を主人公にした絵本はたくさんありますが、 持っているのはさほど多くはありません。

この絵本は、 犬のハリーとその家族である男の子と女の子、おかあさんとおとうさん、 の様子をほほえましく描いたものです。

どろんこハリー

エゴン・マーチセン 作

松岡 享子 訳

ページ: 49

サイズ: 20.6x19cm

出版社: 福音館書店

出版年: 1998年

 

どろんこになる楽しさ

ハリーは、くろいぶちのある しろいいぬです。

こうしてはじまるおはなし。 ブラシをくわえたハリーが勢いよく階段から、 降りてくる姿が絵が描かれています。

お風呂が大嫌いなハリーです。 そのブラシを裏庭に埋めて、外へと抜け出します。

ハリーは街中を奔放に駆けまわります。

道路工事現場では泥だらけに、 鉄道線路の箸の上ですすだらけに、 空き地で他の犬たちと鬼ごっこで土まみれに、 石炭トラックの滑り台でまっくろに、

しまいには、白いぶちのある黒いいぬになって家に戻ってきます。 (黒いぶちのある白い犬だったんですがね)

 

自然とたわむれることは楽しいこと

「どろんこ」になるって子どもでなくても、なんだか楽しいことです。 愛媛や高崎などで「どろんこ祭」があります。 水田で五穀豊穣を願う祭のようですが、大人も楽しそうで、みんな笑顔です。 中途半端はいけません。 思いっきり、がいいですよね。

雨の中のサッカーをしている大人(選手)は どこか楽し気。

大雨の時に傘がなくて、びしょぬれに、 これもちょっと濡れると気持ち悪いけれど びしょぬれなら何だか笑ってしまします。

子どもが4歳くらいの時、 大雨の中、裸足で家の前の道を走り回って それはそれは楽しそうだったことを思い出しました。

いつだったか、 風が吹き荒れる中、濡れ落ち葉を集めるバイトをしたことがありました。 集めてシートでトラックに積み込むというもの。 吹き飛ばされそうな強風の中、なんでこんな時に… と思いながらも、 こんな風に、大風に立ち向かうなんて中々ないな、 なんて心の中でちょっと笑っていました。 どろんこになったり、雨にぬれたり、暴風に立ち向かったり、 カンカン照りの下、汗だくになったり…

自然が相手だと、不思議にいい気分になれるのですね。

 

見た目が違うと気づかない?!

「うらにわに へんないぬが いるよ。 そういえば うちのハリーは、いったい どこへ いったのかしら?」

家の庭に戻ったハリーですが、 見た目が白黒逆転しており、 家の人たちに気づいてもらえません。

ハリーは一生懸命に、 自分がハリーだと気がついてもらおうと 知っている芸当をやってみせます。

すっとんと ちゅうがえり ころりところげて しんだまね。

白いぶちのある黒いハリーは必死です。ですが、

「なんだか ハリーみたいだけど、これは ハリーじゃないよ」

がっかりするハリー。

そしてふと思いついたのです。 急いで埋めたブラシを掘り出し、 それくわえて家の中へ。

二階のお風呂へ一目散に駆け上がると、家族も後を追います。

お風呂に飛び込み、洗って欲しいとアピール、 子どもたちは犬を石けんだらけ、 汚れが魔法のように落ちていきます。

「ママ、パパ!みてよ みてよ! はやくきてよ!」 「ハリーだ! ハリーだ! やっぱりハリーだ!」

元の黒いいぶちのある白い犬に戻り、みんなに気づいてもらうのです。 見た目が逆転して、ハリーは家族に気がついてもらえませんでした。 家族と自分だけが知る”ブラシ”によって 嫌いだったお風呂でもとの自分に戻ることができたのですね。

”見た目”は思ったよりも大事なのかもしれません。 相手が常に目にするのは、その姿だからです。

姿にはその人が現れる、ということでもあります。 それはいつもの暮らしからにじみ出ることだったり、 自ら気を使って整えたりするものです。

過剰になる必要はありませんが、 自然にありのままでいながら自分らしくありたいものですし、 そうしたものが”見た目”になっていくように思います。

このおはなしで、人が見る者に対して 一定のイメージを持って見ていることに気づかされました。 嫌いだったお風呂に入って元に戻らなければ、 ハリーは家族に気づいてもらえなかったかもしれませんね。

 

街の微笑む人たちと描かれたハリー

この絵本はパステルカラーの4色使いです。

  • ちょっと濃い目の灰色(薄い黒)
  • 薄いみかん色
  • くすんだ緑色
  • 肌色

ハリーは黒くなっていきますが、 ベタな黒ではないので、画面が暗くなる感じはありません。

線もふと目でかすれています。 色も線も柔らかさを感じます。

ハリーが街を巡って黒い犬になっていく中で ハリーを見ている町の人々も皆、優し気です。

そして、ほとんどの人が微笑んでいます。 だからなのでしょうか、 見ているだけで優しい気持ちになれる絵本です。

表と裏表紙には白いぶちのハリーと黒いぶちのハリーが 向かい合わせに描かれています。

あなたはどっちのハリーがお好きですか。

 

匿名性が自分を投影する場になる

この絵本の登場人物に名前はありません。 あくまでハリー目線ということでしょうか。 また絵本では、「おかあさん、おとうさん、ママ、パパ」という順で書かれています。 日本とは逆なんですよね。

さいごのページには、

じぶんのうちって なんて いいんでしょう。 ほんとに すてきな きもちです。ばんごはんが すむと、 ハリーは、おきにいりのばしょで ぐっすり ねむりました。

心から安心して安らげる場所のある幸福が描かれています。

 

ご訪問ありがとうございます。 絵本選びのきっかけになればうれしいです。

 

仲間ができたら読みたい『さるのオズワルド』は声をあげる勇気がでる絵本

ここに登場するのはサルたちです。 小さいサルが数匹、大きなサルが一匹。

カラフルな線で描かれたおはなしです。

小学校では1年生から3年生くらいまで、 よく読みました。

文章に特長があって、子どもたちはマネしあったりしていました。

さるのオズワルド

 
エゴン・マーチセン 作
松岡 享子 訳
ページ: 49
サイズ: 20.6x19cm
出版社: 福音館書店
出版年: 1998年(1947年)

 

この絵本の特徴は、"おっと まちがい"
必ず見開きの左の文中に、この文が登場します。

 

1語の時間で考えることは

はじまりは、
あるところに、いっぴきの ちっちゃな つるが いて
おっと まちがいさるが いて
といった具合なのです。 この”おっとまちがい”は最初の文が必ず間違えたものになっていて
それを訂正してはじまるのです。
どのページをめくってもそうなっており、最終頁まで続くのです。

 

なぜなんでしょうね~?

 

間違えたって大丈夫、ってことでしょうか。

 

新しい場面になるたびに繰り返される、この言葉は
予定調和になって、
聞いている子どもたちも
 
おはなしの中程過ぎてからは、
「きっと次も間違えるぞ!」
いう期待感を持つことでしょう。
絵を見ながら聞いている子どもたちは
”おっとまちがい”の部分を、
 何かな? 
”おっとまちがい”の間に考えていることでしょう。
絵の中にそのヒントがありますからね。

 

ですからページが進むにつれて、
絵をよ~くみるようになっていくんでしょう。
ふってきて ⇒ やってきて
しりとりするとき ⇒ のみとりするとき
おっこったか ⇒ おこったか
とまらない ⇒ つまらない
みあげて ⇒ みおろして
似たような言葉ですから、ちょっとした連想ゲームのようにもなっています。
言葉のバリエーション、1文字違うと違った意味になる
そんなことにも気づきます。

 

子どもたちは、”そんな言いまつがい
おっとまちがい言いまちがえ が大好きですからね。
(笑)

 

声をあげるタイミングはいつ

リンゴが大好きなオズワルド。
仲間と楽しく過ごしていたのですが、
そこへ身体も大きないばりやの ボスザルがやってきて
オズワルドたちにあれこれ命令します。
大好きなリンゴも食べさせなければならなかったりと、
仲間たちと散々な目にあいます。
あるとき、オズワルドは叫ぶのです。
 
「いやだ!」
 
びっくりするほど大きな声で。
すると、ほかのさるたちも、大声で叫び出しました。
 
いばりやのオオザルは、火のように怒りますが、
身軽なさるたちは細い枝の木に登ります。
でっかいいばりやは登ることができず、手持ち無沙汰。
 
そして、木の上のさるたちに呼びかけるのです。
「もう これからは、じぶんで のみを とる。
じぶんで たべるものをさがす。
ねるときも、じぶんでねる。
だから みんな、おりてきてくれよう」
これを聞いてさるたちは、
「あいよ、まがった」ー
おっと まちがい「いいよ、わかった
みんあで好きなことをして遊びます。
 
最後に夢に見ていた、大きなリンゴをもらったオズワルド、
それは、真っ先に大きな声をあげたから。
だって、いばりやが いばるのを やめて、
いいさるに なったのは、
オズワルドの おかげだったから。
とおはなしは終ります。
みんなが思っていることだけど、
最初に声を上げるにはちょっと勇気がいります。
でもその一声がまわりにも伝わるんですね。
 

絵本における芸術的な質

作者のエゴン・マチーセンはデンマークの絵本作家で画家。
絵本の著者紹介には、
絵本に関して、常に画家の目で見た「芸術的な質」を大切にし、
また
「(本が)子どもに真実として受け取られるためには、
(本の)全体が作者にとって深い真実でなければならない」
 
「青い目のこねこ」も彼の作です。
絵は同様に手書きに線がやわらかく、色彩は明快。
この『さるおオズワルド』のいばりやも嫌なサルにはみえません。
ちゃんと謝りましたしね。

 

聞き手と読み手と想像力

そもそも絵本の絵は、文章の一部を描いたものです。
読み聞かせの時は、文を聞きながら
描かれた絵の前後を、子どもたちそれぞれが想像しながら
おはなしをつないでいるといえますね。
 
子どもたちが自由に考える前後を、
読み手側は淡々と丁寧に読むことを心がけたいと思います。
 
想像の翼を広げている子どもたちの邪魔にならないように、
と思いながら。
 
ご訪問ありがとうございます。
絵本選びのきっかけになればうれしいです。

 

冬と雪の絵本『はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー』働くことはどういうことか

冬になると決まって読む絵本がありました。

鮮やかな緑のがかった水色と ピンクのひらがなでタイトル「けいてぃー」とかかれた絵本です。

 

表紙には電信柱がたくさん描かれ それが青に縁どられた額縁のようになっていて 真っ白な背景に真っ赤な除雪車が描いてあります。

 

主人公のけいてぃーです。

 

小学校の3年生くらいまでの子どもたちに よく読みました。

 

ここは雪国。

 

除雪車は見慣れたものですが、 絵本の除雪車のチャーミングなこと!!

 

その活躍とともに、笑顔になれる絵本です。

 

はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー

 

バージニア・リー・バートン 文/絵 いしいももこ 訳

ページ: 40ページ

サイズ: 24.6x22.6

出版社: 福音館書店

出版年: 1978年  

 バートンさんの遊び心

作者のバートンさんは「せいめいのれきし」や「ちいさいおうち」、 「いたずらきかんしゃちゅうちゅう」など描いたアメリカを代表する絵本作家です。
この絵本にはちょっとした仕掛けがあります。
 
ページを2枚めくると
けいてぃー、
「ちいさなおうち」のおうち、
「名馬キャリコ」のキャリコ、
「マイクマリガンとスチームショベル」のショベルカー、
「いたずらきかんしゃちゅうちゅう」のちゅうちゅう、
が描かれています。
 
すべてバートンさんが手がけた絵本ですが、 彼女の遊び心が垣間見えますね。
 
そのおはなしの構成力、絵のデザイン性、場面の使い方など どれをとっても、ため息がでるほど素敵です。
とくにこの「けいてぃー」は、とても色鮮やかです。
灰色に包まれる雪国に暮らす子どもたちには 明るい雪の表現が、目に新しく映るのではないかしら、 と読むたびに思いました。

 

擬人化された除雪車の活躍ぶりを描く

絵をみてワクワクできるっていいですよね。
真っ赤なけいてぃーの機能が 冒頭からきちんと解説されます。
 
けいてぃーは、きゃたぴらの ついている、あかい りっぱな とらくたーです。とても つよくて、 おおきくて、いろいろな しごとが できました。
けいてぃーには、いろいろな ぶぶんひんが ついていました。ぶるとーざーを つけると、 つちを おしていくことが できました。
 
じょせつきを つける、ゆきを かきのけることが できました。
 
じょせつきの前をかき分ける部品が ハート型で愛らしいけいてぃーです。 (目~ライト~もついているんですよ)
 
けいてぃーのいるじぇおぽりすという町が見開きで 詳細に俯瞰図で描かれており、施設も事細かに記されています。
 

ある日、大雪になって町は雪に埋もれて機能マヒ状態になります。
すべてのものが動けなくなって、
だれもかれも、なにもかも、じっとしていなければなりませんでした。
 
このことばの後に
けいてぃーは うごいていました。
 
真っ白な雪の中を、真っ赤なけいてぃーが勢いよく走り回ります。
 
埋もれた町を縦横無尽に走り回るけいてぃーのっカッコいいこと!!
 
「たのみます!」
「よろしい。わたしに ついて いらっしゃい」
 
次から次へと町中を走り回り、町は機能を取り戻すのです。
 
そして、全部仕事を済ませて、 家(じぇおぽりす どうろ かんりぶ)へかえります。
 
自分の仕事を淡々とする、
自分のできることを全力でする、
いつもと同じように仕事をする、
町を大雪からひとりで救ったけいてぃーですが、 それは当たり前のこと、といった様子なのです。
 
さすがに途中、けいてぃーの疲れた様子も描かれています。
 
すこし くたびれていました。けれども しごとを とちゅうで やめたりなんか、けっしてしません・・・・・ やめるもんですか。
 
ん~強い意志!!
 

雪国に景色を極彩色に変える

見返しに吹雪の中をけいてぃーが進む姿が描かれています。
 
水色のバックに白い大小の雪が吹雪く、 この雪の表現を見た時は驚嘆しました。
 
雪の背景にこの色を使うセンス。
この色で、一気に雪の世界は心躍るものとなるのです。
 
最初のけいてぃーの説明が描かれている場面は、 バートンさんお得意の額縁仕立て(とでもいうのでしょうか)で けいてぃーの所属する道路管理部の仲間たち(重機やトラック)が 小さな絵がひとつひとつに丁寧に楽し気に描かれています。
 
その数は26台!!
 
子どもを膝にして、この絵本を読んだなら きっとすべての乗物を指で差しながら 見ることでしょう。
 
同様に、町の施設も30の建物や場所が描かれています。
 
細かく描かれた場所や建物は、ちゃんと大雪の時に けいてぃーが助けに行く場所なのですよ。
 
手書き文字で、けいてぃーの動く音が 「ちゃっ!ちゃっ!ちゃっ!」とあるのが息子のいちばんのお気に入りでした。

 

ご訪問ありがとうございます。

絵本選びのきっかけになれば幸いです。

 

いたずら盛りの子どもに読みたい『ひとまねこざるときいろいぼうし』子どもの好奇心の源は?

さるのじょーじの腕白ぶりが描かれる絵本です。

 

てんやわんやの出来事が次々に 繰り広げられる、このおはなしは シリーズになっていて 小学校でもよく読みました。

 

いたずら心をくすぐるような じょーじの活躍に子どもたちも 胸を好くような面持ちなのでは と思います。

 

「アレアレ? じょーじったらどうするの?」

 

と、ついつい子どもたちは 彼と一緒になって行動しているようでした。

 

ひとまねこざるときいろいぼうし

H・A・レイ 文/絵 光吉夏弥 訳
ページ: 54 サイズ: 20.2x16.2 出版社: 岩波書店 出版年: 1983年

 

じょーじの好奇心は子どもたちの好奇心

これは、さるの じょーじです。 じょーじは、 あふりかに すんでいました。 まいにち、たのしく くらしていましたが、ただ こまったことに、とても しりたがりやで、ひとまねが だいすきでした。
これが、おはなしのはじまりです。
好奇心旺盛なこざるは、 黄色い帽子をかぶったおじさんにつかまってしまいます。

 

小舟で大きな船へ移動するときも、 つかまって悲しいけれど、 それよりもまわりを見渡して 珍しいものが面白くてたまりません。

 

おじさんは優しい人で、 大きな町の動物園に連れて行ってくれるというのです。

 

面倒をおこすんじゃないよ、 はい、おとなしくします

 

の約束も、
こざるにとっては、わけなく忘れてしまうこと。

 

次から次へと騒動を起こします。
船でも、町についておじさんの家でも、
あらまぁ!!
の連続です。

 

けれど困ったことになったその時には、 ちゃんと黄色い帽子のおじさんが来てくれます。
そして、互いにおおよろこびし、
めでたしめでたし。
となるのです。

 

いたずらする子どもの気持ちとは

このじょーじのおはなしはシリーズになっています。

 

こざるが様々な体験(いたずら)をする、 まわりは振り回されて、(少しは)迷惑をこうむる、
けれど、どこかみんな楽しそう。
いたずらがいたずらの連鎖を生む、 とはこのこと、と絵本を読んだときに思ったものです。

 

風船で空に悠々と飛んで行ってしまう、じょーじ。 だれもが、この視点に憧れますね。

 

もちろん実際こんないたずらはできませんし、 やったら大変なことばかりです。
見たもの聞いたものをあれこれ試してみたくなるのが、 子どもです。

 

本当に知りたがり屋で
「なぜ」と「どうして」をくり返すものです。

 

やってみたいことは山ほどあっても、
「だめ」なことが多いもの。

 

そんな子どもたちの代弁者(代行者)がこざるなのでは、 と思うのです。

 

消防自動車を呼んでみたい、とか
風船にぶら下がって空を散歩してみたい、とか
部屋中を石けんで泡だらけにしてみたい、とか
自転車を手放しで乗ってみたい、とか
病気になって入院するってどんなかな、とか

 

せめて、こざるのじょーじには 好きなだけ勝手をしてもらいましょう。

 

子どもが絵本から得る体験は 感情としては本物であり 出来事としては伝聞です。

 

自分なりの理解をもって楽しむことを きちんと子どもたちはしていると、 読み聞かせをしていて感じました。

 

絵本で楽しむ良さ

アニメーションにもなっているようですが、 絵本の世界は、また別の楽しさが味わえますよ。

 

自分のテンポでおはなしを読み進められます。
時にはじっくりと、時にはパラパラと。
場面の隅々までながめて、自分なりのお気に入りを 絵本の中に見つけることができるでしょう。

 

この窓の形がいいな、
自分ならこんないたずらを考えるな、
泡だらけの部屋を作ってみたいな、
自分の世界をゆっくりとつくりあげる助けになりますね

 

ぜひ一緒に楽しんでくださいね。

 

ご訪問ありがとうございます。 絵本選びのきっかけになればうれしいです。

 

『たんじょうび』おくり贈られる気持ちが描かれる

誕生日はいくつになってもうれしいもの。
1年が無事に過ぎた安堵と 次の1年への期待が交錯する日ですね。

 

子どもたちは誕生日がとても楽しみです。

 

まわりの大人たちはみな笑顔で
誕生日、おめでとう!
と嬉しそうですから。

 

この絵本は入学したばかりの1年生によく読みました。
入学おめでとう!
と言われて入学してきた子どもたち。

 

これからの学校での生活が 豊かなものになりますようにと願って読みました。

 

たんじょうび

ハンス・フィッシャー 文/絵
おおつかゆうぞう 訳
ページ: 32
サイズ: 31x23cm
出版社: 福音館書店
出版年: 1965年

誕生日の醍醐味はサプライズ

このおはなしに登場するのは、 リゼットおばあちゃんと そこに暮らす動物たちです。

 

森のそばの野原にある家には、

 

おんどり 1羽 めんどり 6羽 あひる  7羽 うさぎ  8匹 やぎ   1匹

 

がいます。

 

ねこが2匹、マウリとルリ いぬが1匹 ベロ

 

この3匹はおばあちゃんと家の中で 手伝いをしながら暮らしています。
その日はリゼットおばあちゃんの 76歳の誕生日です。

 

動物たちは出かけたおばあちゃんが返ってくるまでに お祝いの準備をしようと大奮闘します。

 

ケーキを焼いたり、ローソク76本を買いに行ったり…
たくさんのチャーミングな動物たちが、 生き生きと描かれています。

 

一生懸命に知恵をしぼって おばあちゃんのために誕生日のお祝いを考えます。

おばあちゃんにびっくりして喜んでほしい! その熱意さがほほえましいのです。

この誕生祝い計画がどうなるのか、 いくつもの驚くことが おばあちゃんを待ち受けています。

 

特に、動物たちが一堂に集まった会食のシーンは圧巻です。
見開きいっぱいに嬉しそうな顔が並びます。

 

うれしさのあまり涙をこぼすリゼットおばあちゃん。

 

次のサプライズは夜の野原の池です。
そして、おばあちゃんが最後に屋根裏でみつけた とびっきりの贈り物とはなんでしょうか。

 

動物たちがおばあちゃんを喜ばせようと 3つのサプライズを用意したのです。

 

躍動感あるフィッシャーの絵、ニワトリの絵が秀逸

フィッシャーはスイス生まれ。 ジュネーブの美術学校に入学し、装飾画や版画を学びます。
そこでパウル・クレーに教えを受けています。
(パウル・クレーは大好きな画家です!!)

 

卒業後は商業デザイナーとして活躍します。
もともと身体が丈夫でなかったため 過労で倒れ療養をかねた生活の中で 娘のために絵本を描き始めました。

 

この絵本もそんな中で描かれたものです。
動物たちが実に生き生きと動き回っています。

 

特にニワトリ(今年の干支ですね)の姿の堂々たるや、 思わず見惚れるほどの立ち姿!

 

うさぎやにわとりが駆け寄る様子、 輪になって話し合っている様子、 めんどりが贈り物に卵を36こ産む様子、 パーティーの支度にてんやわんやの様子、

 

賑やかさと期待感が、 軽やかな細い線と 薄い水彩で所々色づけられた色色によって、 表現されています。

 

ページをめくるタイミングが見事で、 込み入った絵の次には余白たっぷりと 明るい場面から暗い場面へと転換されています。

 

文章の量もほどよく 朝の15分にゆっくり読んで丁度よい絵本です。

 

見開くと60cmを超える絵本なので迫力満点です。
カラフルな色彩と温かなおはなし、 これ以上ない
子どもたちのためのおはなし
です。

 

親の思いをたっぷりと込める

この絵本は、並はずれたフィッシャーのデザインの力も堪能できます。

 

おはなしはもちろんですが、絵の美しさも十分に楽しめる贅沢な1冊です。

 

ほかにも「こねこのぴっち」「ブレーメンのおんがくたい」 いずれも楽しく愛らしい作品ばかりです。

 

フィッシャーが自分の子どもたちのために作った絵本。
そこには親の心情がたっぷりと込められています。

 

”たんじょうび”は、まさにそんな日のための代表といえるでしょう。
仲間の動物たちと贈る思いを共有し、 贈られたおばあちゃんの気持ちを思いやるのです。

 

子どもたちは大きくなることに 期待しながら成長できるのではないでしょうか。

 

ご訪問ありがとうございます。 絵本選びのきっかけになれば幸いです。

 

『ありがたいこってす』見方を変えたら物事は変わるということを知る

まずタイトルが洒落ています。 それだけで読んでみたくなるではありませんか。

 

原書はIT COULD ALWAYS BE WORSE。
日本語の豊かさを感じます。

 

裏表紙に
読んであげるなら4才くらいから
とあるのですが、 小学校では不思議に高学年に読むことが多かった絵本です。

 

基本、絵本の年齢はあくまでも選びやすいための目安です。
このおはなしは、むしろ高学年にもとても面白くうつる絵本です。 朝の読み聞かせでよく読みました。
最後のオチが、いいですよ。

 

ありがたいこってす

マーゴット・ツェマック作
わたなべ しげお 訳
ページ: 32ページ
サイズ: 25.6 x 23cm
出版年: 1994年
出版社: 童話館出版

 

小さな家と感じるのはどんな時

 

おはなしが、とにかく面白い。
主人公が、貧しい不幸な男、ですから。

 

貧乏で大家族の男が、賢者になんとかしてもらおうと アドバイスをもらっては、右往左往する様が コミカルな絵とともにリズミカルに描かれています。
 
むかし、ある村に、まずしい不幸な男が、母親と おかみさんと 6にんのこどもたちと いっしょに、ひとへや しかない 小さな家に すんでいた。

 

このおはなしは、ユダヤの民話からつくられたものです。

 

家の中があんまり狭いので、 男とおかみさんの言い争いは絶えません。

 

子どもたちはうるさく喧嘩ばかりで、 冬になると昼間は寒く、夜は長く、 暮らしはますますみじめになるばかり。

 

そして我慢できなくなった男は、 ラビさま(ユダヤの法律博士・物知り)のところへ 相談に行くのです。
ラビさまは不思議な助言をします。

 

家の中に、鶏たちを入れろ ヤギを入れろ 牛を入れろ

 

驚きながらもその通りにします。
男の小さな家は、以前よりひどい状態になるばかり。

 

そんなてんやわんやの様子が 柔らかい筆で描かれています。
いよいよ、小さな家はどうにもこうにもならない有様です。
そして、最後にラビさまがいったことは、
どうぶつたちを そとにだしなされ
だしますとも だしますとも たったいま
そして、男がラビさまに最後にいう言葉。
 
家の中にはかぞくがいるだけで、 しずかで ゆったりで 平和なもんでさあ……ありがたいこってす!

 

柔らかい絵とてんやわんやの家のようす

マーゴット・ツェマックの絵が、 こっけいで生活感あふれる人々を描きだし、 このお話の雰囲気を、とてもよく伝えています。

 

茶をベースとした水彩のタッチで 動物たちが生き生きとえがかれています。

 

部屋につるさてた洗濯物や パンを焼いたり、髪を梳いたりする 生活が描かれています。

 

次々に家の中に増える動物たちの大きさと 混乱具合が、ページをまたいで勢いよく伝わってきます。

 

牛やヤギ、ひな鳥、ガチョウのとりたちの
大きさがきちんと描かれています。
大慌ての住人たちもどこかのほほんとして印象で 最たるものが、ラビさまに相談している哀れな男です。

 

小さな家を小さいと感じない理由とは

 

どんどん混乱していく男の家の中が、一気に静まり、

 

ありがたいこってす

 

と男のセリフで終わります。

 

さて、男は目の前の状況だけを見ていました。 過去を見ることも、先を見ることもしていません。
今、目の前の状況を何とかしたい一心のようにもみえます。
困って、相談して、言うとおりにやってみて 今より少し前より今がよくなった

 

ありがたいこってす
こんなことも人生にはあるんだよ、
と囁かれているような気分になるおはなしです。

 

絵本を読んでいると、 子どもたちは、あれあれどうするの?  といった面持ちです。

 

最後に満足げにしている男のことをどう感じるのでしょうか。
それぞれがそれぞれに考えることが楽しいおはなしですね。

 

ご訪問ありがとうございます。 絵本選びのきっかけになれば嬉しいです。