深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

『あたまをなくしたおとこ』◆伝える力とは!言葉だけで見たものを説明してみよう

人に見たものを伝えるのって難しいですよね。
子どもたちが園や学校から帰ってきて、
一生懸命に見たものや出来事を話してくれる時、
どれくらいちゃんとわかってあげられているかしら、
と思います。

 

人の特徴を語るのも難しいことです。
実際にあってみたら、アラこんな感じの人なの、
と思うこともよくあることですね。

 

それが、説明すると案外難しい。
70億人もいる人間ですが、
持っているパーツは同じなのに、
みな、違いますからね。

 

それって、すごい!

 

絵本を読んであらためて思いました。

 

読み聞かせでは、5年生、6年生によく読みました。
みんな、次はどうなるんだろう、
と前のめりで聴いてくれました。
読み終わったあと、
とんな頭だった思っていたのか、
披露しあったりして、
わいわいできる絵本でした。

 

あたまをなくした おとこ

 

クレール・H・ビショップ 文
ロバート・マックロスキー 絵
もりうちすみこ 訳
ページ: 54
サイズ: 226.2x18.2cm
出版社: 瑞雲社
出版年: 2010年(初版1942年)

 

「あるあさ、おきたら、あたまが なかった」ならば、どうする?

この絵本はこんなふうにはじまります。
ベッドで頭を手で探っているパジャマ姿の男(?)が、
あわてた様子で描かれています。
あるあさ、おとこが おきたら あたまが なかった。
中表紙には目覚まし時計がけたたましく鳴っている絵があり、 ページをめくると、先の一文と頭のない男が、 水玉柄のパジャマを着て、ベッドで身を起こして、
両手で頭のあたりを探っているようすが描かれています。

 

あるものがない!という絵は少しぎょっとします。
家じゅうを自分の頭を探し回る男。 たんすの引出やクローゼットは散らかり放題。 なぜ頭がないのか思い出そうとする男。
「あたまが ないのに おもいだすのは むずかしい。」
懸命に考えて、ブタをつれてお祭りに行ったことを思い出しました。 そこでお祭りになくした自分の頭を探しに行くことにするのです。
さて、男はきちんと着替えて
「あたまの ないまま でかけるわけには いかない。」
と、背広にカボチャをくりぬいて目や鼻をくりぬいて、 カボチャに帽子までかぶって出かけます。
笑顔のカボチャ頭に黒スーツに縞のネクタイ、 フェルトのソフト帽を片手に、なんてチャーミングな姿。

 

頭のない男は、歩いて行くうち村の人々に会って、
昨日の自分の様子を知っていきます。
カボチャ頭は目立ちすぎ、畑でニンジン頭に変身。 やっぱり目立ちすぎて、丸太に目鼻をきざみ、
かみやすりをかけて丸太頭が完成します。

 

村の人たちには頭らしくみえたとあって、
ようやくお祭り広場につきます。

 

マックロスキーの有機的な曲線で描かれる絵は、 部屋の様子や人の動きに不思議にリアリティがあり、 頭のない人の姿はユーモラスでさえあります。

 

お祭り広場の見開きには、万病に効くへびの油うりや、 見世物ステージ(ふたつあたまのうし、
にんぎょミニー、かいりきイーディス、 げてものぐい!などの看板あり)、
ぴたりとあてますあなたのたいじゅう、 なんてコーナーもあり、メリーゴーランドや観覧車、 大きなテントも見え大変なにぎわいです。

 

いろいろまわって自分の頭の手がかりを探す男。

 

どんなあたまか、あれこれ想像してみる

(ネタバレなので絵本で知りたい方は次の見出しまでとばしてください)

 

なかなか見つけられずにベンチに腰かけていると、 ひとりの男の子がやってきます。
頭を探す役に立てるという男の子は、 なくなった頭の特徴を詳しく聞き出します。
会話するうちに、なくした頭は、
 ふつうサイズで、かたちは まるい、いろは ピンクで、 だんごばな、そらいろの めは やさしくて せせらぎのごとく きらきら かがやき、まゆは ゲジゲジ うすちゃいろ、 てんねんパーマの くもなす かみ、ちょっぴり おおきめの よくある みみ、でっかい くちに、きれいな は・・・
ここでようやく、なくした頭がどんな頭だったのか、わかりました。
さてこの特徴を読んでどんな頭だと想像しますか?

 

男の子は、たったひとつの言葉と、
しぐさで頭を取り戻せる、と言います。

 

どうしても頭を取り戻したいおとこは、
男の子に頼みます。
「わし、やってみるよ」と。
(わし、と自分のことを呼ぶ翻訳センスが見事!?です。
 時代が古い感じがでていますが、もしや少年はこの男の少年時代?
 でも髪形が違いますね)

 

男の子はポケットからぼろきれをたくさん引っ張り出し、
グルグル・ギュウギュウまいて大きなグローブみたいになります。
 「おじさん、 よういは いい?」 「いいとも! だが、いったい なにを はじめるんだ?」 「まほうの ことば、 とっぴん ぱらりの ぼっかーん!」
挿絵では、すごい勢いで右腕を振り回す男の子。
「まほうの ことば、
 とっぴん ぱらりの ぼっかーん!」
(絵本でも大文字でどかーんと書いてありますよ)
座っているベンチがひっくり返るほどのパンチを、
顔面に受ける頭のない丸太頭の男。
(このパンチの絵がスピード感があって、本当に痛そう!)

 

男の頭あたりには、一面星がひかり、めまいと痛みがかけぬけ・・・ると、

・ 

・ そこには頭を取り戻した男が、ベッドに起き上がっています

 

同じおはなしを何度も楽しめるわけ

夢落ち。

 

物語の結末を「夢でした」で終わらせること。
ややもすると物語の世界観をそこねる場合があって、 評価がわかれることがあるようです。

 

落語でも夢落ちの噺はありますが、 落語は結末がわかっていても演者や演出次第で楽しめます。

 

この奇想天外なお話も同様に楽しめる作品になっています。
もちろん、はじめて読むときが一番ドキドキしました。

 

頭のない男は、頭をとりもどせるの?  お祭りのどこでなくしたんだろう?  一体どんな顔をした人? 

 

様々に変わる場面を楽しみながら、わくわくして読み進みました。

 

絵本のすみずみを、よ~く見てみると・・・

頭をなくした男を取り巻く村の人々やお祭りお様子が、 具体的でわかりやすい絵で描かれており、
眺めているだけで楽しい。

 

男はお祭りで、
ボーリングや射的、輪投げをし、メリーゴーランドに乗り、 手品や綱渡りに驚き猛獣を見物して腰をぬかします。

 

女性のワンピースやエプロンの柄、
子どもの服~男の子のズボンつりは縄?
つぎはぎだらけのズボンに穴のあいた靴、 いろいろな形の帽子、
農作業の道具や古き良きアメリカの時代が見えます。

 

ひとりひとりが想像するあたまは、みんな違うはず

また、男の子に自分の頭を説明する頭のない男は、 頭・目・鼻・口・耳の大きさや形、その特徴を細かく語ります。

 

「そらいろの目がせせらぎのように輝く優しい目」ってどんな目かしら、
と想像力をかきたてられます。

 

結末で男の顔が最後に描かれたページで、
「こんな顔だったんだ!!」と驚きました。

 

自分が想像していた、あたまとの違いに
びっくりしたものです。

 

私たちも自分の顔(頭)の特徴を人に説明してみましょうか。

 

よく見て、よく考えて、
そうしたら新しい発見があるかもしれません。

 

ご訪問ありがとうございます。
絵本選びのきっかけになればうれしいです。