深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

親子で読み継がれる絵本『ちいさいおうち』家に刻まれる物語

鮮やかな青い背景に赤い壁の家。

表紙に描かれる「ちいさなおうち」は窓は目、入り口のドアが鼻、エントランスが口に見えて人のようです。

ほぼ真ん中に描かれたこの「おうち」は、ページをぱらぱらとめくるとほとんどがいつも同じ位置に描かれています。

 

「おうち」が建つ場所も住む人も環境も絵本の中でどんどん変わっていきますが、「おうち」はいつもそこにあります。

 

ちなみに息子はレゴや積み木でおうちを作るのが大好きでした。

細部にこだわり小物にこだわり配置にこだわり、作るとしばらくその「おうち」と遊んでいましたっけ。

 

小学校で読む時はちょっと長めのおはなしなので、特別に時間をいただいた時に読んでいました。

3~4年生まで読むことが多かったですね。じっくり最後まで聞いてくれました。

『ちいさいおうち』

バージニア・リー・バートン ぶんとえ

いしいももこ やく

ページ: 40

サイズ: 24.2 x 23

出版社: 岩波書店

出版年: 1965年

「おうち」のまわり景色の変化

りんごの花

こちらを見て笑っている「ちいさなおうち」のおはなしの1ページめはこうです。

むかし むかし、ずっと いなかの しずかな ところに ちいさいおうちが ありました。 それは、ちいさい きれいなうちでした。 しっかり じょうぶに たてられていました。 この じょうぶないえを たてたひとは いいました。 「どんなにたくさん おかねをくれるといわれても、 このいえを うることはできないぞ。わたしたちの まごの まごの そのまた まごのときまで、 このいえは、きっとりっぱに たっているだろう。

こうして昔話のようにはじまる、このおはなし。 しっかり丈夫に建てた家の人たちの暮らしがはじまります。

朝、おひさまが悠々と大きく明るい。

夜、星と月のほの暗いおうちのまわり、遠くに町の明かり。

時はどんどん過ぎていきます。

 

「おうち」暮らすのはおとうさんとおかあさん、子どもが4人。

 

春、りんごの花が咲き、新緑の若草色に彩られて畑を耕す人々、小川で遊ぶ子どもたち、馬車で道を行き交う人々。

夏、濃くなった緑におおわれて育つ作物、水遊びする子どもたち。

秋、黄金色に色づいた耕作地、りんご積みをする人々。

冬、真っ白になった「おうち」のまわりで雪遊びをする子どもたち。

 

くる年もくる年も繰り返します。

きのうと きょうとは、いつでも すこしづつ ちがいました… ただ ちいさいおうちだけは いつも おなじでした。

最初にこんなふうに語られています。ですが、そんな日々が少しづつ変化していきます。

 

バートンさんの描く「おうち」とそのまわりの風景は丁寧に丁寧に描かれていきます。

変わらぬようで少しづつ変わっていく景色と暮らす人々。

 

りんごの木も年をとり新しい木に植え替えられています。

子どもはいつまでも子どもではありません。

大きくなって町へ出ていきました。

遠くにみえた町の明かりは、近くに大きくみえるようになってきました。

 

「ちいさなおうち」は、かわらず笑ってみえます。

暮らしていた家族6人はおうちの大きさに対して描かれているので匿名性があります。

(顔はわかりません。姿かたちで老若男女が知れます)

 

ある意味(アメリカの)どこの町にも見られた景色なのかもしれませんね。

※作者のバートンさんはアメリカ人です

 

変わらない家と、時とともに変わりゆく家のまわりの景色

りんごの花

のどかな丘は年月とともに開発され、道路ができ家々が立ち並び、いつしか住む人もいなくなりました。

「ちいさなおうち」のまわりは馬車は減り車が行き交うようになり、スチームショベルやトラックがやってきて広い道路を作っていきます。

そうしてどんどん、どんどん車が増えまわりに家を立ち並び、そののち大きなアパートやら工場やらお店やら駐車場が「ちいさいおうち」を取り囲んでしまいました。

 

もう「ちいさいおうち」に住む人はいません。

ある夜、「ちいさいおうち」は思います。

「ここは、もう まちになってしまったのだ。」

電車が家の前を行き交うようになり、人々は大急ぎでかけまわり、高架線が行き来し、空はちいさくなりました。

地下鉄ができ、25階と35階建てのビルが後方にできました。

ちいさいおうちは、すっかり しょんぼり してしまいました。 ぺんきは はげ、まどは こわれ、よろいどは はずれて、ななめに さがっていました。ちいさなおうちは、みすぼらしくなって しまったのです……かべや やねは むかしと おなじように ちゃんとしているのに。

ビルの谷間と大勢の人々に埋もれてしまった「ちいさいおうち」。

ひっそりと、そこにあるのです。

 

みすぼらしい姿になった「ちいさいおうち」を可哀想と思うでしょうか。

確かに最初にみた「ちいさなおうち」の生き生きとした姿をみたらそう思うかもしれませんね。

 

変わりゆくものと変わらぬもの

そんなある春の朝、「ちいさいおうち」を建てた孫の孫の孫にあたる人が、「ちいさいおうち」を見つけます。

彼女の記憶の中のいなかの「ちいさなおうち」とは景色がまるで違っていたことに驚きました。

作りがしっかりしているので、どこへでも持っていける、と建築屋さんのお墨付きで「ちいさなおうち」は引っ越すことになります。

 

ちいさいおうちは、広い野原の真ん中に居場所をみつけました。ちゃんと以前のようにリンゴの木がある丘。

また、人が住むようになって、朝昼夜と春夏秋冬をながめることができるようになったのです。

 

こうして、あたらしい おかのうえに おちついて、 ちいさいおうちは うれしそうに にっこりしました。

 

絵本のちいさなおうちは、人の顔のようにみえますね。

どのページにも窓の目、ドアの鼻、玄関の口、屋根は頭と変わるまわりの景色で表情を変えながら、ずっとこちらをみています。

町から引っ越しするときに、ちょっと怖がってみたり、面白いと思ってみたり、いい場所が見つかると「ああ ここがいい」と思ってみたり。

強い主張は書かれていませんが、ちゃんと「おうち」の思いも描かれています。

 

「おうち」はしずかな田舎が気にいっているようです。

最初は田舎にありましたからね。そこがお気に入りなのもうなづけます。

 

バートンさんの明るい色彩に心弾みます。「おうち」の赤い色や表情が、微妙に変化しています。

「おうち」の気持ちになって、まわりの変化を感じてみると楽しいですね。

 

バートンさんは『せいめいのれきし』もそうでしたが、「時間」を見事に描く方だと思います。

 

「ちいさなおうち」のノスタルジー

この絵本を読んだとき、家への憧憬を思い出しました。

自分の生まれ育った家、子どもの頃の記憶にある家は、大人になっても印象に残ることがありますね。

 

母の実家はまわりが田んぼに囲まれた田舎にあり、まさに映画『となりのトトロ』のさつきとメイの村の環境にそっくりです。

小山にある神社や大きな木、田んぼのあぜ道のうねり具合まで同じで驚いたものです。「まっくろくろすけ」をみた記憶も蘇りました。

その時代の定型だったのでしょうね。

 

子どもたちも大人も自分なりの「ちいさいおうち」を心にもっているのかも知れません。

そんなあこがれも思い出させてくれる絵本でした。

 

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