深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

うさこちゃん=ミッフィーの誕生『ちいさなうさこちゃん』

日本では、ミッフィーの名で親しまれている うさこちゃんです。

 

キャラクターとしてのミッフィーちゃんは知っていても、
絵本のうさこちゃんを知らない方も多いのではないでしょうか。

 

それは、もったいない!!
ぜひ、うさこちゃんのおはなしを子どもたちと楽しんでください。

 

ちいさなうさこちゃん

 

ディック・ブルーナ 作
石井桃子 訳
ページ: 28
サイズ: 16x16センチ
出版社: 福音館書店
出版年: 1964年
 

子どもがはじめてであう、最良の絵本

 
このシリーズは「子どもがはじめてであう絵本」 と題されています。
日本の翻訳版は、 2000年には第100刷版が発行されています。
 
半世紀以上にわたって、読み続けられている絵本です。
最初のページをめくると、
右ページには、表紙と同じ落ち着いた青色でタイトルがあり、
左ページにうさこちゃんがいて、
その下に、
なまえ           を書く欄がもうけてあります。

 

あなたの絵本ですよ、 とうさこちゃんが、出迎えてくれているようですね。

 

手持ちの絵本をみると、 息子も、ちゃんと名前を書いています。 たどたどしいひらがなで これは何歳のときだったかしら、と。
おそらく小学校へ上がる前、 5歳か6歳だったのでしょうか。 2歳半からなんども読んだ絵本です。

 

読んで心地よいリズム、眺めて笑みがこぼれる

 
天使の知らせで、 うさこちゃんが誕生するおはなしが、 家族のようすと語られます。

 

おおきな にわの まんなかに かわいい いえが ありました。 ふわふわさんに ふわおくさん 2ひきの うさぎが すんでます。

 

とうさんはふわふわさんといいます。
この呼び名を聞いた時、
なんてカワイイの!

 

と子どもに読みながらワクワクしていました。
そして、おくさんが、ふわおくさん。

 

声に出して読むとわかりますが、
七五調のリズムのように、読むことができて、 話す方も、聞く方も、実に心地いいのです。

 

翻訳は石井桃子さんです。

 

戦後の児童文学を牽引してきた素晴らしい方です。
その名調子は、本当に素敵です。

 

こんなふうに、
  • あたまは こっくり こっくりこ
  • じきにおめめも ふさがりました。
  • しずかに さよならいたします。
どこにでもある、いつでも使う言葉が、 この絵本にのると、優しい響きをまとうのですね。

 

同じ表情なのに感情がわかる不思議のワケは能にあり

登場する人物やものは、 ほとんど正面から描かれています。
ふたりの違いは微妙な顔のラインと、口の形

 

おとうさんのほうが うさこちゃんのバッテンの口に横線がたされて描かれています。

 

顔には目と口だけなのに、 お話の内容で様々な表情に見えるから不思議でなりません。

 

色は朱がかった、線のと、 紙のの六色のみで構成されています。

 

バックの色は四色のいずれかが必ず塗られています。 現実やそのイメージから塗られているようです。

 

その時の出来事や登場する人物に合わせて 色が選択されているのですね。

 

一方人物のみの場合は、 その時の感情や気分をあらわしているように思えます。

 

さらに、
簡潔な文章によって 読み手に登場人物の表情や感情を、 うまく想像させるようになっているのです。

 

同じ表情といえば、 能における能面もそうです。
変わることのない、
面であらゆる感情や表情を伝えています。

そして謡で物語る
うさこちゃんと能の思わぬ接点です。

 

揺らぐ線はゆっくりと引く、ブルーナの感情が込められています。

 

最初のページには窓が開いた、 赤い屋根の家が描かれています。

 

最後のページにも同じ家が描かれていますが、 窓は閉じられています。

 

開いて、閉じる。
おはなしはおわりましたよ、と 子どもたちに静かに伝えています。

 

また、全体を通して読んでみると青と緑の明度が高くないせいか、 子どもの絵本にしてはむしろ落ち着いた印象を受けます。

 

また作者のブルーナは絵を描く時、
線をゆっくり、ゆっくり引くのだそうです。 線というより点を重ねて線にしているよう、 下書きした線をなぞるように。

 

線がわずかにゆらいで見えるのは、 その書き方によるものだからなのでしょう。

 

原画展を見に行ったことがありますが、
世界各国で翻訳されており、
また、年代によってうさこちゃんの顔かたちも変わっていて、
いろんなうさこちゃんに会えてうれしかったです。

 

石井桃子さんの訳は、 優しいリズムで読んでいると気持ちよくなります。

 

石井さんが主人公を「うさこちゃん」としたことで、 日本のうさぎの子になったように思います。

 

ご訪問ありがとうございます。 絵本選びのきっかけになればうれしいです。