深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

見た目は大切!『どろんこハリー』やさしい人々が暮らす街

見事な毛並み、ぬいぐるみが歩いているかのよう 全身ふわふわもこもこ、見惚れる様な そんな犬を見かけることがありました。 飼い主のことをしっかりみています。 ワタシたちのことも、物凄い目力で見ていましたよ。 なんだか人みたいに思えました。

 

犬を主人公にした絵本はたくさんありますが、 持っているのはさほど多くはありません。

この絵本は、 犬のハリーとその家族である男の子と女の子、おかあさんとおとうさん、 の様子をほほえましく描いたものです。

どろんこハリー

エゴン・マーチセン 作

松岡 享子 訳

ページ: 49

サイズ: 20.6x19cm

出版社: 福音館書店

出版年: 1998年

 

どろんこになる楽しさ

ハリーは、くろいぶちのある しろいいぬです。

こうしてはじまるおはなし。 ブラシをくわえたハリーが勢いよく階段から、 降りてくる姿が絵が描かれています。

お風呂が大嫌いなハリーです。 そのブラシを裏庭に埋めて、外へと抜け出します。

ハリーは街中を奔放に駆けまわります。

道路工事現場では泥だらけに、 鉄道線路の箸の上ですすだらけに、 空き地で他の犬たちと鬼ごっこで土まみれに、 石炭トラックの滑り台でまっくろに、

しまいには、白いぶちのある黒いいぬになって家に戻ってきます。 (黒いぶちのある白い犬だったんですがね)

 

自然とたわむれることは楽しいこと

「どろんこ」になるって子どもでなくても、なんだか楽しいことです。 愛媛や高崎などで「どろんこ祭」があります。 水田で五穀豊穣を願う祭のようですが、大人も楽しそうで、みんな笑顔です。 中途半端はいけません。 思いっきり、がいいですよね。

雨の中のサッカーをしている大人(選手)は どこか楽し気。

大雨の時に傘がなくて、びしょぬれに、 これもちょっと濡れると気持ち悪いけれど びしょぬれなら何だか笑ってしまします。

子どもが4歳くらいの時、 大雨の中、裸足で家の前の道を走り回って それはそれは楽しそうだったことを思い出しました。

いつだったか、 風が吹き荒れる中、濡れ落ち葉を集めるバイトをしたことがありました。 集めてシートでトラックに積み込むというもの。 吹き飛ばされそうな強風の中、なんでこんな時に… と思いながらも、 こんな風に、大風に立ち向かうなんて中々ないな、 なんて心の中でちょっと笑っていました。 どろんこになったり、雨にぬれたり、暴風に立ち向かったり、 カンカン照りの下、汗だくになったり…

自然が相手だと、不思議にいい気分になれるのですね。

 

見た目が違うと気づかない?!

「うらにわに へんないぬが いるよ。 そういえば うちのハリーは、いったい どこへ いったのかしら?」

家の庭に戻ったハリーですが、 見た目が白黒逆転しており、 家の人たちに気づいてもらえません。

ハリーは一生懸命に、 自分がハリーだと気がついてもらおうと 知っている芸当をやってみせます。

すっとんと ちゅうがえり ころりところげて しんだまね。

白いぶちのある黒いハリーは必死です。ですが、

「なんだか ハリーみたいだけど、これは ハリーじゃないよ」

がっかりするハリー。

そしてふと思いついたのです。 急いで埋めたブラシを掘り出し、 それくわえて家の中へ。

二階のお風呂へ一目散に駆け上がると、家族も後を追います。

お風呂に飛び込み、洗って欲しいとアピール、 子どもたちは犬を石けんだらけ、 汚れが魔法のように落ちていきます。

「ママ、パパ!みてよ みてよ! はやくきてよ!」 「ハリーだ! ハリーだ! やっぱりハリーだ!」

元の黒いいぶちのある白い犬に戻り、みんなに気づいてもらうのです。 見た目が逆転して、ハリーは家族に気がついてもらえませんでした。 家族と自分だけが知る”ブラシ”によって 嫌いだったお風呂でもとの自分に戻ることができたのですね。

”見た目”は思ったよりも大事なのかもしれません。 相手が常に目にするのは、その姿だからです。

姿にはその人が現れる、ということでもあります。 それはいつもの暮らしからにじみ出ることだったり、 自ら気を使って整えたりするものです。

過剰になる必要はありませんが、 自然にありのままでいながら自分らしくありたいものですし、 そうしたものが”見た目”になっていくように思います。

このおはなしで、人が見る者に対して 一定のイメージを持って見ていることに気づかされました。 嫌いだったお風呂に入って元に戻らなければ、 ハリーは家族に気づいてもらえなかったかもしれませんね。

 

街の微笑む人たちと描かれたハリー

この絵本はパステルカラーの4色使いです。

  • ちょっと濃い目の灰色(薄い黒)
  • 薄いみかん色
  • くすんだ緑色
  • 肌色

ハリーは黒くなっていきますが、 ベタな黒ではないので、画面が暗くなる感じはありません。

線もふと目でかすれています。 色も線も柔らかさを感じます。

ハリーが街を巡って黒い犬になっていく中で ハリーを見ている町の人々も皆、優し気です。

そして、ほとんどの人が微笑んでいます。 だからなのでしょうか、 見ているだけで優しい気持ちになれる絵本です。

表と裏表紙には白いぶちのハリーと黒いぶちのハリーが 向かい合わせに描かれています。

あなたはどっちのハリーがお好きですか。

 

匿名性が自分を投影する場になる

この絵本の登場人物に名前はありません。 あくまでハリー目線ということでしょうか。 また絵本では、「おかあさん、おとうさん、ママ、パパ」という順で書かれています。 日本とは逆なんですよね。

さいごのページには、

じぶんのうちって なんて いいんでしょう。 ほんとに すてきな きもちです。ばんごはんが すむと、 ハリーは、おきにいりのばしょで ぐっすり ねむりました。

心から安心して安らげる場所のある幸福が描かれています。

 

ご訪問ありがとうございます。 絵本選びのきっかけになればうれしいです。