深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

舟に乗りたくなる『ガンピーさんのふなあそび』は非日常を楽しむ

舟に乗りたいなぁ、とこの絵本を読んで思いました。

この絵本に登場するような船頭さんがいるふねに乗ったことがあったっけ…

最後に舟に乗ったのはいつだったかしら…

子どもの頃にふねに乗ったことはあったかなぁ…

そんなことをふと考えてしまいました。

陽ざしが強くなる5月あたりから小学校の読み聞かせでよく読みました。

水の風景がある絵本は涼しさや心地よさを感じるように思います。

 

ガンピーさんのふなあそび

ジョン・バーニンガム さく

みつよし なつや やく

ページ: 34

サイズ: 25.4x25.4cm

出版社: 福音館書店

出版年: 1976年

 

みんなが乗せてとやってくる、舟に乗る楽しみは

 

これは ガンピーさんです。

おはなしの最初のページにはガンピーさんがこちらを向いて立っています。

右手にはじょうろ、黄色のジャケットと帽子をかぶり、青いズボン、長靴をはいています。

ガンピーさんの左右に芝のひかれた庭が広がっています。その奥に赤い家がみえます。

ページをめくると

ガンピーさんは ふねを いっそう もっていました。 いえは かわの そばに ありました。

と続きます。

そして、ある日ガンピーさんは小舟にのって出かけます。

途中で、子どもたち(男の子と女の子)、うさぎ、ねこ、いぬ、ぶた、ひつじ、にわとり、こうし、やぎ、が次々に「乗せてください」と乗り込んできました。

そのたび、ガンピーさんは言います。

子どもたちには「けんかさえ しなけりゃね」 うさぎには「いいとも。とんだり はねたり しなけりゃね」 ねこには「うさぎを おいまわしたり しなけりゃね」 いぬには「ねこを いじめたり しなけりゃね」 ぶたには「うろちょろするんじゃないよ」 ひつじには「めいめい なくんじゃないよ」 にわとりには「はねを ぱたぱた やるんじゃないよ」 こうしには「どしんどしん あるきまわるんじゃないよ」 やぎには「けったりするんじゃないよ」

それぞれに、舟に乗るための禁止事項を提示して舟に乗せるのです。

小さな小舟に乗り込んだ子どもたちと動物たちは、ガンピーさんが船頭する舟に揺られて、とても楽しそうです。

女の子は川面に手をつけて水の流れを楽しみ、明るい陽ざしが照り付けています。

舟は乗るだけでとても楽しい乗り物です。

いつもとは違う目線が持てますね。

遠くから見る川とは違う、流れを間近に見ることができる体感できる川です。

早さもきっと違います。

歩くでもなく走るでもなく、ガタガタするでもなく。

滑らかですべるように過ぎる自分と風景を感じることができますね。

舟に乗る、ことはどこか日常から離れることができる場、であるように思われます。

大勢が乗り込んだ舟という場は

おはなしの続きです。

しばらくは川を下っていきましたが、そのうち

やぎがけとばし、 こうしが としんどしん あるきまわり にわとりたちが はねを ぱたぱた やり ひつじが めいめい いい、 ぶたが うろちょろし、 いぬが ねこを いじめ、 ねこが うさぎを おいかけ、 うさぎが ぴょんぴょん とびまわり、 こどもたちが けんかをし

結果、舟はひっくり返ってみんな川の中に落ちてしまいます。

みんな岸まで泳ぎ着いて、おひさまで身体をかわかし、野原を歩いて、ガンピーさんの家に行き、みんなでお茶の時間を過ごします。

そして月のでる夜、

「じゃ、さようなら」と、ガンピーさんは いいました。 「また いつか のりにおいでよ」

おはなしはこれで終わります。

舟に乗り込んだ子どもたちと動物たちはしばらくは楽しそうで平穏でした。

ですが、なにが原因というわけでなくそれぞれが「やってはいけないこと」をやりだすのです。

ですが、考えてみれば当たり前のことでもあります。

ヒツジはメイメイいうものだし、ウサギはピョンピョンはねるもの。

もちろん舟といういつもとは違う場だからこそ、ガンピーさんは注意したのでしょう。

けれど長続きはしない、ということをガンピーさんはわかっていたようにも思います。

しばしの舟の楽しみをみんなで味わえれば、舟はひっくり返ってもよかったのでしょう。

だからこそ、「また いつか のりにおいでよ」と。

いつもと同じは安心できます。ですがたまには違ったこともしてみたいものです。(そうしてみんな乗り込んだ舟です) 見えるものも変わって、なんだか新鮮に思えるものです。

舟がひっくり返って、それもおしまいです。舟に乗るためにちょっとムリしていましたからね。でも舟の楽しさは存分に味わえた子どもたちと動物たちです。

やさしい絵と穏やかな表情

この絵本には、小舟を操るガンピーさんと男の子と女の子、そして動物たちがたくさん登場します。

それぞれの登場シーンには1ページに、どーんと、生き生きとした姿が描かれています。

ジョン・バーニンガムの絵は線も色も儚い。

どこか夢の景色のようでもあります。

動物たちの表情はユーモラスで、彼独特の絵、という気がします。

描かれる人や動物は楽し気ではあるけれど笑っているわけではなく、微笑んでいるというより口角が上がっているくらいの表情なのです。

過剰さが描かれることがない絵本で、それは船頭であるガンピーさんもです。

クライマックスで舟はひっくりかえりますが、でも、なんだかみんな慌てていないのです。

なんだかみんな、落ち着いて川に落ちています、人も動物たちも。

舟がひっくり返るところと、お茶をしているところは見開きで描かれています。

なんとも落ち着いたクライマックスです。

ガンピーさんの役割は? 落ち着いた大人がいること

ガンピーさんという落ち着いた大人がいることで、成立している舟ねあそび、なのです。

川に落ちるまで十分みんな楽しい時間を過ごしていました。でも大勢集まればドタバタはつきもの。

大丈夫だよ、とガンピーさんの存在が物語っています。

そして舟の上ではガンピーさんが実に大きな姿で描かれています。その存在を示すかのように。

大きな絵本と透明感のある色

大判の絵本で絵も線画細かくひかれて柔らかなタッチ。

線画が黒では、こげ茶色が使われているからでしょうか。

色は中間色が多く使われていて、むしろ大人な雰囲気です。

水彩(だと思うのですが)水辺、叢の緑が透明感があって清清しい。

右ページがカラーで左のページはこげ茶1色で描かれています。

彩色がない絵は線画で銅版画のような細かな短い線で丁寧に描かれています。

石橋をくぐったり、乗り込んで増えていく船の上の様子と舟の下る景色の変化が楽しいです。

こんなふうに舟遊びしてみたい、とやっぱり読むたびに思うのです。

 

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