『三びきのやぎのがらがらどん』迫力ある絵を楽しもう
きっと絵本は保育園や幼稚園に通っている子なら必ず知っている絵本です。
園でも必ずといっていいほど置いてありますね。
小学校の入学間もない1年生によく読みましたが、この絵本を持って教室に入ると
「知ってるー!」
と嬉しい声があちらこちらから飛んできます。
子どもたちにとって知っている絵本を読んでもらうことも、大きな楽しみのひとつなのですね。
三びきのやぎのがらがらどん
マーシャ・ブラウン え
せた ていじ やく
ページ: 32
サイズ: 25.4x20.2cm
出版社: 福音館書店
出版年: 1965年
トロルがいる世界と北欧の民話世界、畏怖できる存在があること
三びきのやぎが踊るように橋を渡っている表紙がの、落ち着いた青色の背景が目を惹きます。
アスビョルンセンとモーの北欧民話とあります。
アスビョルンセンは大学で植物学を学んでいましたが、グリム童話に触発されて、知人のヨルゲン・モーとともにノルウェー各地を巡り伝説や民話を集めたと人です。
『三びきのやぎのがらがらどん』は『ノルウェー民話集』に収められているお話です。
北欧のおはなしには、よくトロル(Troll)が登場します。
呼び方もトロール、トロールド、トロルド、トウラ、トゥローと様々。
一般的には、巨大な体躯、怪力、鼻や耳が大きく見にくいモノとして描かれることが多いようです。
絵本『トロールものがたり』では頭が複数あるトロールが描かれていました。
また北欧の国々によってもその姿や伝承が違っています。
ノルウェーでは白く長いあごひげのある老人として、赤い帽子、川のエプロン姿で描かれるようです。
スカンジナビア半島では小人の妖精、アイスランドでは邪悪な巨人、フィンランドでは池に棲む邪悪なシェートロールなどその姿は千差万別です。
日本でいうところの妖怪に近いように思えますが、やはり国が違うのでイメージも異なります。
ですがちょっとおそろしいけれど憎めない、そんなところは似ている…
また、正体はわからないけど不思議な生き物を身のまわりにおいたまま、生活に入り込んでいる生きものがいるところは似ていますね。
理屈無しに畏怖できる生きものがいるということは、自分たちが絶対ではないことを自然に理解できるありがたい存在に思えます。
色によってかわる「がらがらどん」たち
なんといっても、マーシャ・ブラウンの挿絵の素晴らしい。
小さいやぎ、2番目のやぎ、大きいやぎのそれぞれが魅力的です。
山の草場で太ろうと向かう途中の谷川で、そこにすむトロルと対峙します。
黄金に輝く山に目をやる3びきのやぎたち。
この絵本はカラーで描かれていますが、じつは色は「青、黒、茶、黄、白」5色しか使われていません。
白は紙の色なので4色です。
わずか4色描かれたとは思えないほど表現が豊かです。
小さながらがらどんが橋を渡るときは、「青と黒」で描かれ、トロルとのやりとりに緊張感と不安が伝わってきます。
二番めのがらがらどんは「茶と青」、大きな「茶と黒」で描かれるトロルと同じ色です。臆するところがなく対等な印象を絵から受けます。
大きいがらがらどんにいたっては「黒」がいちばん多用されて迫力満点です。トロルに食いかかろうとするときは全身が「青と黒」、異形のモノに変身しているかのようです。
場面によって、わずか4色で、同じやぎでもこんなに多彩に描け、その心情を視覚化しています。
最後の草を嬉しそうにたらふく食べる「白」い、やぎたちに安心するのです。
大きな見せ場である大きいやぎのがらがらどんが、トロルに見栄をはるページは何度見ても見事です。
見開きに首から上が大きく描かれ、その角の迫力、髭や毛並みの勢い、鋭い眼差し、大きく開かれた口、これらは子どもたちに迫っていく絵なのでしょう。(私も驚きました!)
「おれだ! おおきいやぎの がらがらどんだ!」
この文字も大きく描かれています。思わず読む声も張り上げてしまいそうになるクライマックスなのです。
3びきいる「がらがらどん」は成長する子どもたちそのもの
むかし、三びきの やぎが いました。なまえは、どれも がらがらどん と いいました。
とおはなしは、はじまります。
3びきいるのに名前は同じ…
昔話では固有名詞を持つことが少なく名前は物語のための記号なのです。
(『シナの五にんきょうだい』も一番目のにいさん、二番目のにいさん…でした)
おはなしは、3つパターンでトロルとのやりとりを楽しむことができるようになっています。
最初の小さいがらがらどん。
軽やかですが決して弱々しくありません。弱々しそうに見えて、トロルに対峙した時には凛とした眼差しで、しっかり自分の意見をトロルに伝えています。
「ああ どうか たべないでください。ぼくは こんなに ちいさいんだもの」
最初に橋を渡るその姿がとても美しい!
2番目のがらがらどんは、頭脳派。
トロルを挑発するような風体(あご髭とか)、目が横長(本当のヤギも黒目は横長です!)、トロルを挑発するようなしぐさで、小さいやぎとセリフはほぼ同じなのに全く違う印象を受けます。
最後の大きいがらがらどんの迫力たるや。
トロルが可愛らしく見えるほどです。
かたこと かたこと
がたごと がたごと
がたん、 ごとん がたん、ごとん
さて、3びきは相談の上で橋を渡ったのでしょうか。
おはなしには描かれていませんが、大きいやぎが先に渡ってトロルをやっつけてしまえばもっと安心なのでは。
それではおはなしになりませんね(笑)
物事には順番があります。成長には時間がかかります。いきなり大きくなることはできませんね。
同じ名前の「がらがらどん」は、成長していく子どもたちそのものなのではないでしょうか。
小さいうちは恐るおそる、少し大きくなれば駆け引きできるようになり、成長のあかつきには恐れることなく対峙していく。
とそんなふうにみることもできるのかも…とこの名作を読んで思います。
〆のことばが物語世界を閉じる
山でたらふく草を食べて太ったやぎたちはからだがとても重そうです。
描いた最後の場面は、昔話特有の〆方、
チョキン、バチン、ストン。 はなしは おしまい。
この魔法の言葉で、子どもたちはちゃんと物語の世界から現実の世界に戻ってこれる気がします。
ご訪問ありがとうございます。
絵本選びのきっかけになればうれしいです。