深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

『グリム童話ミリー ー天使にであった女の子のお話ー』永遠の生としての死を描いた美しい絵本

『かいじゅうたちのいるところ』
『まよなかのだいどころ』
『まどのそとのそのまたむこう』
 
子どもたちがいずれも大好きな絵本たち。
その作者モーリス・センダックが挿絵をつけたグリム童話です。
 
 
グリム童話ミリー ー天使にであった女の子のお話ー
 

 ヴィルヘルム・グリム 作
 モーリス・センダック 絵
  • ページ: 38ページ
  • サイズ: 24.8 x 23 x 1.2 cm
  • 出版社: ほるぷ出版 (1988/12/25)
  • 発行年: 1988/12/25
 

以下はカバーの折り返しに書かれた本の紹介。

 

むかし、のどかな村のはずれに、

小さな女の子と母親がひっそりと暮らしていました。

ある日、村におそろしいいくさがやってきたため、

母親は森の奥深く、女の子を逃すことにしたのです。

「三日たったら、もどっておいで…」

女の子は森の中で不思議なことにであいます。

1816年・ヴィルヘルム・グリムが、

ミリーという少女にあてた手紙のあとに、

このお話が書かれていました。

やさしく人の心について語られた手紙とお話は、

どんなにミリーをなぐさめたことでしょう。

まさに150年ぶりに発見されたグリム童話に、

すぐれた絵本作家、モーリス・センダックが

5年がかりで絵をつけたのが、この本です。

 

タイトルが主人公の名前ではない 

 

タイトルのミリーは、

お話に登場する女の子ではありません。

ミリーはグリムがお話を送った相手の名前です。

 

ページをめくるとまず、

グリムがミリーにあてた手紙があります。

この文章がすごくいいのです。

ミリーへのいたわりと慈愛に満ちた語り口で。

ミリーは母親を亡くした、とあとがきにあります。

 

 

これまでに何度か子どもたちに、読んできましたが、

この手紙部分も読めばよかったと思いました。

ミリーのために書いたお話。

「天使にであった女の子のお話」

 

人の心はなにものにも隔てられることなく届く…

お話をききたいミリーの心にこたえて、物語は語られます。

 

とにかく美しいセンダックの絵

 

センダックの挿絵は、形ひとつのひとつが際立って線が引かれています。庭の葉1枚つづ、森の中の木々の根、石家の中の調度にいたるまで、微細に描かれ、もちろん人物も髪の1本1本や洋服の皺にまでも。 
 
森の中が多く描かれますが、花や草木は有機的で生きもののようです。 何度この絵本をめくってもその絵に圧倒されます。 
無表情にみえる女の子は意志の強さを感じさせます。表情は常に落ち着いたもので、大人びて見えます。

色彩は落ち着いた色調で、いわゆる子どもの絵本らしからぬ佇まい。 

落ち着いたトーンでぼかしがきいて立体的。

センダックの天使の羽は薔薇色です。


永遠の生としての死

 

登場するのは、

女の子、

女の子のおかあさん、

聖ヨセフ、

(天使)3人だけ。

 

戦争が迫ってきて母親は苦渋を避けるため女の子を森の奥地へと逃がします。

ようやく辿り着いた小屋にいたのが聖ヨセフです。

穏やかな繰り返しの3日間がゆっくりと過ぎていきます。

そこは女の子にとっても安らげる、そのままそこにいたくなる場所でした。

ですが、ヨセフに促されて家に帰る女の子。

 

女の子が森で過ごした三日間は、じつは三十年だったのです。

 

来た道を戻っていきます。

帰り着くと見慣れない景色‥ですがわが家はすぐにわかりました。

そして、そこにいたのは年老いたおばあさん。

 

女の子は母親に再会、狂喜したのは母親です。

あきらめきれず女の子を待ち続けていました。

 

その夜、女の子と母親は心楽しくやすらかに眠りにつくのです。

 

 

 

このおわりは、訳者あとがきで神宮輝夫さんが書いたように、

 

母と子の愛と無垢な善の対比してえがき、永遠の生としての死を語っている、

 

のでしょう。 

 
挿絵がそれを語っているようです。
センダックはヴィルヘルムに成りきったと断言しています。
 
 
少し切ない余韻をのこして、美しいお話は幕を閉じました。
 
 

中学1年生に読みました。そして感想

久しぶりに中学1年生のクラスに、この絵本を読みました。
 
雪の降りしきる12月中旬。
 
なぜか冬に読みたくなる絵本です。
 
 
「永遠の生としての死」とはなんでしょう。
「死とは永遠の生」…ではないでしょう。
 
永遠の生、というと手塚治虫さんのマンガ『火の鳥』を思い出しました。
その血を飲むと永遠の生が得られるという火の鳥は、生命の象徴であり命の根源。
 
 
 
最期におかあさんと死んでしまった女の子。
このふたりが不幸だったとはいえないでしょう。
ヨセフの元へ帰ることができたのですから。
 
久しぶりに読み込んだ『ミリー』は自らの死生観を問うことになりました。
 
 
 
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