深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

『おおかみと七ひきのこやぎ』残酷さは絵本で学ぶ

だれもが知っているグリム童話『おおかみと七ひきのこやぎ』です。

絵本でみるなら、

 

絵・フェリクス・ホフマン

訳・せたていじ 

 

のこちらがおすすめです。

 
 
 おおかみと七ひきのこやぎ 
 
フェリクス・ホフマン 絵
せたていじ 訳
 
ページ:  32ページ
サイズ:  29.2 x 21.4 x1cm
出版社:  福音館書店
発行年: 1967/4/1


 落ち着いた色彩は気持ちも落ち着く

書店の絵本売り場に足を踏み入れると、カラフルな表紙がそこかしこに飾られています。

 

赤、黄、青、緑、橙、ピンク…

もちろんそれらの色は絵や物語に力を与えているのは、いうまでもないでしょう。

 

そんな中で、この絵本はかなり”地味な”色彩をまとって描かれているといえましょう。

 

全体的に色彩はおさえめで原色は使われていません。

 

白は白乳色~ヤギたちの色

茶とベージュのグラデーション~オオカミの色、そして小物や陰影

淡くくすんだ黄色~鍵や取っ手、ちょっとしたアクセント

ややくすんだ緑色~一番印象的な色、ヤギたちが食べる草の色、そして扉(同じ緑色ではありませんよ)

 

扉のややくすんだ緑色はこのお話の肝です。

子ヤギとオオカミのやりとりが、この緑色の扉を介しておこなわれるのですから。(最後にこの扉を突破されますね)

 

 また線もよくみると細かく描きこまれています。

森の木々や葉っぱを描いた線、建物も直線的な線ではなく歪んだ揺らいだ線で描かれています。

ヤギたちも輪郭を一定の線ではなく毛並みのように境界がなされています。

これによって遠近感が感じられます。

 

 絵本の中の面白さを見つける楽しみ

絵本には自分が率先して見つける面白さがあります。

絵本を読んでもらうことで耳でお話が分かるので、子どもたちは描かれた絵に集中できるのです。

 

この絵本のおもしろさをいくつか。

 

おおかみよりも怖くみえるヤギのおかあさん

 はじめてこのお話を読んだとき、

「おかあさんヤギ、怖い…」

と思ったものです。

 

子ヤギたちにくらべてとても大きく描かれ、エプロン姿(デフォルメ)です。顔も黒い!

子ヤギたちは”ヤギ”なのにおかあさんヤギはエプロンのためかヤギに思えませんでした。(人間が変身したヤギ?とか…)

 

さいごまで読んで「大きさと黒さ」は強さの象徴のようにも思えました。

 

ヤギがとてもヤギらしい 

ヤギの目はちゃんと横になっています。

 

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例えば、人気マンガ『よつばと!』7巻の表紙に描かれる山羊の目もちゃんと横になっています。(ヤギたちはどんな世界をみているのでしょうね)

 

 

基本的にきちんと動物の絵を描く作家が好ましいと思っています。

もちろん絵本ならではのデフォルメはあってよいのですが、筋肉の付き方や脚の運び、目の位置や形にウソはあって欲しくないのです。

 

そこにリアリティが残るからです。

物語の難しさはフィクションだからこそ、その構築された世界観をいかに矛盾なく描けるか、ではないでしょうか。

 

心地よい余白

大きな白い余白が、各所にうまく配置されて、よい集中をつくっています。

 

書き込まれた背景もあるのですが、オオカミが真剣に子ヤギたちを騙そうとする背景やおかあさんヤギがオオカミのお腹をさくシーンなどは、白背景(紙の色)です。

 

お話に自然と集中することができます。

 

大道具小道具からわかること

 背景や大道具小道具も詳細に描かれており、ヤギたちが日ごろどのような生活をしているかが伺われます。

 

ヤギたちの住む家には、なんといっても大きな振り子の時計があります。この絵本では白く塗られた時計です。オシャレ!

丸テーブル(そこにも子ヤギが隠れましたっけ)には白いテーブルクロスがかけられて種類の違う形の似た椅子が2脚、素材は籐でできているみたい。

 

茶色の重そうなドアがあるから別の部屋がある。

 

大きな戸棚があって絵が飾られている。写真かも。緑色の置物も。

 

大きな暖炉は緑色(の煉瓦)、上の方には花模様のカーテン?

 

この部屋のそこかしこに隠れた子ヤギたちでしたが、時計に隠れた子ヤギ以外はオオカミに食べられてしまいますね。

 

残酷さは絵本で学ぶ

残った子ヤギを助け出し、食べられた子ヤギを救うべくすぐ行動したおかあさんヤギです。

 

助け出すだけでなくお腹に石を子ヤギがわりに入れたとっさの知恵には驚きます。

助け出すだけでは、また襲ってくるかもしれませんものね。

 

おかあさんヤギの策略でオオカミは井戸に落ちてしまいます。

 

「おおかみ しんだ!」(大きな文字と太字)

 

と連呼して、よろこびのあまり井戸のまわりをお踊り狂うヤギの親子たち。

 

実際、自分たちの生命を脅かす存在を排除したのですから、喜ぶのも当然なのです。

 
その飄々とした喜びように健全な残酷さを、昔話に感じます。
 
物語だからこそえがいていい残酷さ、というものがあると思います。
 
世の中には残酷なことが多々ありますが、絵本でその残酷さを知ることで最初に知る残酷さを客観的に見ることができるのではないでしょうか。
 
子どもたちは、自己にその残酷さを投影することなく、ひとつの事実として残酷なこともあるのだ、と認識できるのです。
 
 大人びた落ち着いた色彩と繊細な線で描かれた、スイスの絵本作家ホフマンの絵でこそ、その残酷さに相応しい落ち着きを与えてくれているように思うのです。
 

昔話は誰もが知っているからこそ

さて余談ですが、漫画家萩尾望都さんの代表作「ポーの一族」の最終話「エディス」でもこのお話から、アランは時計にエディスを隠していました。
 
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大切なものをかくす場所の導(しるべ)として、この『おおかみと七ひきのこやぎ』を引用していました。
 
誰もが知る「グリム童話」だからこそ、そして物語(おはなし)・昔話の力を感じました。
 
 
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