深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

『しらゆきひめと七人の小人たち』理不尽と向き合わない

しらゆきひめ (白雪姫)

といえば誰もが知っているおはなし、グリムの童話です。
ワンダ・ガウグの挿絵、内田莉莎子の訳のこの絵本が一番気に入ってます。

 

  • しらゆきひめと七人の小人たち 
     
    ワンダ・ガウグ 再話・絵
    うちだりさこ 訳
     
    ページ:  44ページ
    サイズ:  21.2x 15 x1cm
    出版社:  福音館書店
    発行年: 1991/5/1

存在感のない「しらゆきひめ」と美しい存在感のある「まま母」

この絵本をはじめて読んで驚いたのは、これまでに知る『しらゆきひめ』の絵本の中で、もっとも美しく描かれている”まま母”である、ということです。

 

ややもするとサブキャラ、悪役扱いのまま母ですが、ガウグの描くまま母のなんと美しく魅力的なことか!

主人公である”しらゆきひめ”は、カワイイ子どもらしい女の子であり、妖艶で美形、強烈な個性を放つ”まま母”に対して存在感が希薄です。

 

それは絵でもおはなしにおいても。
また、しらゆきひめをめざめさせる王子に至っては、なんと1カットだけ!
 
このおはなしは、まま母の情念の物語だったのでは、と思う所以です。
 
 

理不尽とは対峙しない、逃げる

 
おきさきの欲望は単純です。
一生の願いは、国一番の美女になること。
 
そのため成長したしらゆきひめが自分の美しさを上回ったとき、排除しなければ、と思うようになったのは当然といえば当然なのかもしれません。
 
おきさきの言いつけで狩人はしらゆきひめを森に連れていき、殺すように言われます。
 
あどけないしらゆきひめを前に、二度と城には戻らないというひめの懇願でひめを殺さず、殺した証拠を持ち帰るように言われた狩人は、猪の心臓を持って証拠としたのです。 
 
そしておきさきは、その証拠に証拠である心臓を「焼いてむしゃむしゃ食べた」のです。
 
 
しらゆきひめは、森の奥に逃げ小人の家に転がり込み、生きる場を見出しました。
 
疑うことを知らない無垢なしらゆきひめは、無垢な小人たちによって守られます。  
 
 
一方どこまでも自分の欲求に正直なまま母。
 
理不尽なまでの環境に自分の身が置かれた時に、どうすればいいのか。
 
しらゆきひめは、逃げました。
 
逃げることは決して悪いことではありません。常軌を逸したおきさきの念から逃げることは正しいことだったといえるでしょう。
 
結果、おきさきに毒を盛られて眠りにつくしらゆきひめですが、自ら小人の元に逃げたことによって、救いの手となる王子の目にとまることになるのは、ひめの無垢な心と無理に理不尽と対峙しなかったからなのでは、と深読みしました。
 
 
物語の構成はどちらかにスポットを当てることによって、よりその内容を浮き上がらせることができますね。
 
しらゆきひめの感情はほとんど描かれることなく、おきさきの感情はあらわです。
おはなしを再読して、ここまでの執念を持てるパワーに圧倒されました。
 

目を引く表紙、朱と緑

 
この本は絵本というより、おはなしが主で絵は挿絵、といった様相です。
 
表紙には、朱色と緑のコントラストが目を引きます。小さな愛らしいひめが小人の家の窓から微笑んでいます。
 
背景や道具がガウグの筆にかかると、みな踊っているようです。
 

魔法の鏡の部屋、小人の家の7つ並んだベッド、まま母が毒を調合する秘密の部屋などが、細密に描かれています。

 

・小人が山でどんな仕事をしている、とか

・まま母の用意周到な部屋の様子、とか

 

よく見ると自分なりの発見を、また物語の中に発見できるかもしてませんね。

  

ガウグの絵はとにかくキュート。

ガウグの細やかな短かく書き込まれた線とうねるような曲線、陰影があり立体的です。
 
本文はモノクロの挿絵だけなのに、表紙のインパクトのためか全体にその色を想像させ、愛らしい世界観をつくることに成功しています。
 
きちんとした昔話は、日本も世界の中々に残酷なおはなしが多いものです。淡々と残酷なシーンが書かれるので絵はそうでない方が望ましいと感じています。
 
 
例えば、
・心臓を塩ふってむしゃむしゃ食べた
・真っ赤な鉄の靴をはかされて、焼け死んだ  
 
ちょっとリアルなビジュアルは勘弁してほしい、というところです。
 
 
 
絵と文が違うと同じ昔話でも、印象がかなり変わります。

自分なりのお気に入りがみつかると昔話がぐっと身近になります。

 

 絵本と児童書の良さを兼ね備えた「昔話」


内田さんの文は翻訳文のように感じません。
自然にするする読める日本語のおはなしになっています。
 
「しらゆきひめ」というと毒りんごと思いがちですが、りんごの前にも、細いひも、金色のくしで白雪姫の暗殺に失敗し、ますます、まま母の執念が増していきます。
 
まま母は、王子に助けられた白雪姫の結婚式に呼ばれて、鉄の熱い靴をはかされて死んでしまう、という最後。


あらためて昔話は、こうした残酷なところがありますが、物語だとわかって、それをきちんと読むことが必要なのだと思います。

 
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