深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

『影ぼっこ』得体のしれない不思議を楽しむ心を養う

詩的な絵本です。
 
一見、子どもたちは楽しめるの、
と思ってしまうような絵本です。
 
ですが、息子がまだ学校へ上がる前に読んで聞かせると、
案外気に入った様子。
 
子どもこそ、天然自然、詩人なのでした。
 
影ぼっこ


 
ブレーズ・サンドラール ぶん
マーシャ・ブラウン え
おのえたかこ やく
 
サイズ: 28.2x22
出版社: ぽるぷ出版
発行年: 1983年

影ぼっこ、というタイトルの意味するところ

影ぼっことはなんでしょう?

アフリカの村のまじない師や、火をかこんで話す語り手たちの思い出話から、詩人のブレーズ・サンドラールは、おどるようにゆれる影のイメージを呼びおこしてきました。
いろいろな影を生みだす火は、すぎさった生命との神聖なきずなーー灰をつくります。昔の進行や過去の亡霊が、未来につづくこの瞬間にすがたをみせます。不気味にかわる影の精ともいうべき影ぼっこは、光と火のあるところ、自分に生命を吹きこむ語り手のいる場所にあらわれます。--マーシャ・ブラウン

 

 

 
おはなしの始まる前にこんな説明が書かれています。(絵本では珍しい)

日本語のタイトル「影ぼっこ」は苦肉の策でしょうか。


英語版は「SHADOW」です。

 

ただ「影」「かげ」では確かに・・、
「ぼっこ」をつけることで影の精として、カタチを与えることになっています。
 

 

「影」を探す、見る、気づく

 

筋書き、というものはとくにあるわけでなく、光や火によって出てくる、さまざまな影ぼっこの様子とそのまわりのことが語られます。

 

本文の「影ぼっこ」は、どんなものなのかを見てみます。
 


影ぼっこに影はない。
影ぼっこのすみかは森のなか。
影ぼっこはしゃべらない。
影ぼっこはねむらない。
火がすっかり消えたとたん
壁ぼっこは 目がみえなくなっている。
影ぼっこには声がない。
影ぼっこは 地面にはりついている。
影ぼっこは 飢えない、ねだらない。
影ぼっこは いたずら好きの妖精。
昼間
影ぼっこは いきいきとうれしそう。
影ぼっこはひとにつきまとう。
影ぼっこは 魔法使い。
日ぐれになると
影ぼっこはひろがっていく。
夜になると
影ぼっこは 重く重くなる。
影ぼっこは ひとみ!


ミステリアスな文。
そして影絵のような絵は、
インドネシアのガムランの世界を思い起こさせます。
 


マーシャ・ブラウンのイマジネーション

 

実体のない「影」をテーマにしながら、
その文章に見事な絵をつけているマーシャ・ブラウン。

 

その絵によって文章はより深い意味を与えられて

子どもたちのイマジネーションを広げるものとなっています。


色遣いは原色でくっきり、
真昼のオレンジ、夜の蒼や藍、影の黒、濃い灰色、
メリハリのついた場面が、影ぼっこの存在を際立たせています。

 

真っ黒なシルエットがどのページも迫力あり、
影ぼっこの存在の大きさをあらわしているようです。

 

仮面の絵にはギョッとしました。

 

子どもの感じる世界

 

この絵本は小学校の子どもたちにも何度か読んだことがあります。
不思議そうにきいていました。


ハチが小学生のころ、このおはなしが割と好きでした。

 

子どもたちは不思議なものや、
なんだかわからないものが好きなのかもしれません。


それに子どもは、こうあるべき、という概念さえ待たなければ、
詩人なのです。

 

そして、あとがきでは、こう書かれています。

 

~サンドラールの詩の原題が「魔法使い」という散文詩ですが、~
神秘的なイメージに魅かれ、~人生の二面性を表しているかのよう、
~影の得体のしれぬ様々なすがた、その不思議さをかんじてくれるだろうと考えています。

 

 

不思議と暑い季節に読みたくなる絵本。

涼感をよぶ気がする絵本です。

 

お読みいただきありがとうございます。

絵本選びの参考になればうれしいです。