深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

『王さまと九人のきょうだい』は戦隊ヒーロー

戦隊ヒーローもの って、子どもたちは大好きですよね。
 
それぞれにカラーをもって、
特別な技?を繰り出し、
悪人を懲らしめ、やっつける!
同じパターンなのに、
なぜかはまって見てしまうんですよね。
 
ヒーローはイケメンが主人公ですしね。
決めポーズもかっこよかったりします。
 
息子も3歳、4歳くらいの時、夢中で
地元のイベントにきたショーを見に行きましたっけ。
 
ご紹介するのは、
なんと!9人のきょうだいが活躍するおはなしです。
 
9人が同じ衣装で、一列に居並ぶ姿にほれぼれしてしまいました。
 
王さまと九人のきょうだい
赤羽 末吉 作
君島 久子 訳
ページ: 42
サイズ: 25.6x19.6cm
出版社: 岩波書店
出版年: 1969年
 
九人の兄弟、
今はとんとお目にかかれませんがが、
昭和ヒトケタ生まれの人は、9人兄弟は珍しくありませんよね。
(昔すぎますね)
ここに登場する九人は背格好も全く同じです。
 

九人ならんで迫力、ひとりひとりが強そうなヒーロー

表紙は九人の兄弟の顔が居並んでいます。
中程でも見開きに九人が居並ぶ姿は、 凛々しくてまるで、戦隊ヒーローのようですね。
 
絵のトーンは優しくパステルカラーが主体です。 濃紺の衣服をまとった九人が際立ちます。
 
人物は太めの線で描かれ、遠景は色が面で塗られて、 色で雰囲気をつたえるようなつくりです。
 
豪快で人物やモノのパースも気にせず、 (同じ見開きに描かれた、人物の大きさが随分違うとか…)
あらわしたい事柄を
どーん
と、前面に伝えています。
 
赤羽末吉さんは、日本を代表する絵本作家です。
たくさんの絵本を描かれていますが、 代表作の『スーホーの白い馬』はモンゴルのおはなしです。
 
『王さまと九人のきょうだい』は中国の民話をもとにしたものですが、 スーホー同様、最初やラストの風景などが、 大陸の雄大さがあらわされて、とてもあっています。
 

ユニークな名前が特技の九人のきょうだい

おはなしは、
子どものいない年寄りの夫婦は、
子どもがほしい 子どもがほしい
と思っていました。
 
すると、ある日仙人のような老人に、 子どもが授かる丸薬をもらいます。
その丸薬をいっぺんに飲んで、
一気に九人のあかんぼうが生まれました。
 
九人も育てられないと嘆く老婆に、仙人が現れ、
何もしなくとも、この子たちは、ひとりでりっぱにそだつのだ
そして、名前をつけてくれます。
それが、
 
ちからもち くいしんぼう はらいっぱい
ぶってくれ ながすね さむがりや
あつがりや 切ってくれ みずくぐり
 
仙人のいうように、九人のきょうだいは大きくなりました。
ある日、みやこの王さまの宮殿で事件がおこり、 ちからもちが赴くことになり、無事問題を解決しました。
 
ところが、王さまは難癖をつけて、 次から次へと無理なことをいいます。
 
そこは九人いる兄弟、 代わる代わるその無理難題をくぐりぬけ、 王さまをやっつけてしまいます。
 
この辺は『シナの五にんきょうだい』と同じ展開です。
 
切ることができない、
焼けない、
足が長くなる、
息を止められる、
 
など同じ特技を備えていますね。
 
無理をいう、王さまの情けない様子も、 むしろ愛嬌があって笑えます。
 

名前のもつ意味と繰り返される意味

このおはなしで、仙人がつけたという名前それはまさに特技そのものなのです。
これは単にわかりやすさから名付けたのだと思います。 九人もいますからね。
 
でも一方で「名は体を表す」とも申します。
 
名付けた仙人はその時点で、
彼らに役割を与えたことになるのでしょう。
 
昔話絵本における名前は、かならず必要なものではありません。 むしろ、ないほうがいいようにも思えます。
 
大抵の昔話に登場する、
おじいさん、おばあさん に、
名前はありません。
 
そういえば五にんきょうだいには、名前がありませんでした。
にいさん末っ子 という匿名性が、
読む側に内容を引き寄せることにつながっています。
 
性格の似ている絵本の登場人物に出会えば、 自分のまわりに似た人がいたな、とか思えますから。
 
繰り返しの楽しさは次はどうなるのか、 という想像力につながります。
 
そんなこともありなの、 それはないでしょう、 こうじゃないの、
 
なんて思い思いに考えながら聞けますね。
ご訪問ありがとうございます。
 
絵本の解釈は、個人的なものです。 絵本選びのきっかけになれたらうれしいです。