深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

『せいめいのれきし』時間のながれを感じる絵本

読みごたえ満点の絵本です。
生命の歴史という壮大なテーマを、
絵本という形にみごとにまとめてあります。
 
バートンさんは、
『いたずらきかんしゃ ちゅうちゅう』
『ちいさなおうち』などで知られる日本でもお馴染みの絵本作家です。

 

 

 

この絵本が日本で発表された1964年に、来日しています。
 

 

日本で読み続かれて50数年、
2015年に現在の知見をもとにして、
文が改定された改訂版が出版されました。
 

 

恐竜が登場したり、劇仕立てになっているので、
読みやすくなっていますよ。
 

 

大人が読んでも、素晴らしい絵本です。
歴史や理科がもっと好きになるかもしれません。
 

 

じっと眺めていると、劇場にいる気分になってきます。
 

 

せいめいのれきし
地球上にせいめいがうまれたときからいままでのおはなし

バージニア・リー・バートン 作
石井 桃子 訳
ページ: 76
サイズ: 25.4x23.8cm
出版社: 岩波書店
出版年: 1964年
 

この絵本はナビゲーターが舞台に現れ、
歴史の場面を劇場の場面に見立てています。
 

 

太陽誕生の銀河系から始まり現代の人々の生活まで、
地球上の生命の歴史がダイナミックに語られます。
 

 

見開きページ右側には舞台の枠があり、
舞台上に絵は描かれています。
 

 

落ち着いた色調で丁寧に、丹念に描かれ、
左ページにはナビゲーターが語る文章が、
わかりやすく書かれています。
 

 

見事なグラフィックデザインに注目する

表紙は黄色を基調として、
赤や緑で生物や植物が描かれ、
中央に看板のように
せいめいのれきし 
 地球上にせいめいがうまれたときからいままでのおはなし
とあります。
 

 

まず表紙をめくると見返しに「古生物の図鑑」とあり、
見開き全体に黒を背景に、
主にグレーで動植物が地層の文様のように、
細かく描かれています。
 

 

渦巻き状に時が流れる絵巻物のごとく、
物語を俯瞰しているようです。
 

 

中表紙は劇場の観客席に多くの人々が行きかい賑やかで、
舞台はえんじ色の幕が引かれています。
 

 

次のページ、右には劇の「プログラム」の表紙の絵があり、
左には右上から右下に螺旋状に、宇宙と地球の様子が描かれています。
 
 
このパターンは最後まで続きます。
作者のバートンの構成力が見事です。
 

 

時の流れと出来事を延々と語るもの終わらせず、
劇に見立てて今の人に語らせて、
今ここ(現在)、
との関わりを常に意識させるものになっているようです。
 

 

各場面の左下にナビゲーターが登場して語っています。
スポットライトを浴びているナビゲーターの身長から、
舞台の大きさは
高さ九メートル幅十メートルくらいでしょうか
 

 

そこに地球の物語が展開します。
 

 

歴史を刻むもの・人間登場以前は地球が生きもののよう

 
目次は「場面」となっており、
 

 

プロローグが6場、
1幕・古生代が6場、
2幕・中生代4場、
3幕・新生代5場、
4幕・現世5場、
5幕・このごろのひとびとの生活8場、
エピローグ
 

 

いよいよ舞台の幕が開きます

考えられないほど大昔、太陽がうまれましした。 そしてこの太陽は、何億、何兆という星の集まりである、 銀河系とよばれる星雲のなかの、ひとつの星です。
この一文ではじまります。
 

 

プロローグでは地球の成り立ちが、
火の玉の地球やうねる山々、
大きな雨粒の降り注ぐ様子などが描かれています。
 

 

冷えた地球を古くなったリンゴに例えて、
地球のしわが山や谷、海の床を作った、とあります。
この場面では火成岩や変成岩、水成岩の成り立ちが語られます。
 

 
そして1幕の海の底に舞台は移ります。
およそ五億五千万年前、
古生代に生まれた海の生き物を中心に進み、
古生代二畳紀の陸上に生物が進出するまでが流れていきます。
 

 

古生代の海が深緑の海と赤い水生植物など、
色鮮やかに描き出されています。
海底と海上の景色は刻々と変化していき、
植物も動物も繁殖していく様が場面ごとに、
百万年単位で描かれています。
 

 

左のページには、
水成岩の地層で発見された様々な生物が、
年代の移り変わりとともに記されています。
 

 

1幕5場は石炭紀、植物の時代です。
水っぽい大森林におおわれた地球です。
そして1幕最後の6場は、爬虫類が登場し、
2億年前まできました。
 

 

舞台は2幕の中生代へ。
三畳紀ジュラ紀白亜紀の地球は爬虫類王国です。
 

 
かみなりりゅう(プロントサウルス)やけんりゅう(ステゴザウルス)、
くびながりゅうや暴君りゅう(ティラノサウルス)が登場します。
 

 

舞台は、水中も陸上も空中も爬虫類だらけです。
舞台上でナレーターが巨大爬虫類に恐れおののいている姿がユニークです。
 

 

大きな雨のふりしきる地球や、
大きな植物に覆われる地球、
大きな氷河、大きな恐竜たちがうじゃうじゃと現れます。
 

 

地球は大きいものたちの世界です。
地球のダイナミックな動きに目を見張ります。
 

 

さて3幕では隆盛だった爬虫類は六千年前を期に姿を消し、
新生代へ入ります。
 

人間の登場、加速する時間

 
哺乳類の登場する時代、
舞台は緑の木々と草地が描かれています。
 

 

巨大な山々を背景に巨大な哺乳類が闊歩する時代。
およそ百万年前のラクダやサイ、ゾウの先祖が、
誕生した様子が語られます。
 

 

3幕5場は氷河期の地球です。
マンモスも描かれ、人間も登場したとあります。
にんげんは、すでにうまれていたでしょう。
でも、まだたいした力は、もっていませんでした。
とあります。
次はいよいよ人間が登場する舞台です。
 

 

歴史を記すものたち・人間の時代の到来で地球の未来は?

 
およそ2万5000年前ころ、
4幕の始まり、人間の時代です。
舞台は洞窟で暮らす人々がいます。
舞台の端にずっといたナビゲーターがこの場面だけいません。
 

 

2場からは机の前に座った人が登場します。
机上や床にたくさんの本が積んであります。
人間の歴史をひも解いているのでしょうか。
 

 

人間の歴史が一気に語られ、
3場からは舞台がアメリカ大陸に移ります。
(作者がアメリカ人です)
およそ三百五十年年前、
舞台は開拓者たちが苦労して
土地を開墾し農業に従事する様子が4場まで描かれます。
 

 

そして5場では農場が森になっています。
みな西部や都会に移り住んだというのです。
 

 

そして5幕
そこには画家であろう人物(作者のバートン?)が
森に移り住んで暮らしています。
場面の真ん中には家が2軒あって、
ずっとこちらを向いています。
 

 

1場は緑に輝く季節。畑を耕し動物たちが草地にいます。
夏から秋、木々は紅葉し、空には渡り鳥の群れが南に飛んでいきます。
そして冬、雪に覆われた家と山々、そり遊びする子どもと雪かきする人々。
春を待ち望んで暮らします。
 

 
4場季節は巡り早春、
新しい芽をだす植物が新しい緑をたたえています。
 

 

5場では春のある1日、
絵を描いて過ごし、太陽は優しく輝きりんごの花が見事に咲いています。
 

 

6場は午後の時間、
明るいピンクに染まった空に新月が出ています。
人々は家路につきます。
 

 

人間が登場して以来、
時の流れが加速したように感じられます。
 

 

出来事の密度が高くなって、
記されることは歴史の中で詰まっていくばかりです。
 

 

そして夜、7場
時計が時を刻み1日が終わり新しい日がはじまります。
 

 

舞台は満点の星空です。
この暗闇で2棟あった家は小さな1軒の家に変わっています。
 

 

ある春の夜明けが描かれ、
お話は私たちに委ねられていきます。
 

過去と今と未来と

 
ひとつの窓辺に
   さあこれで、わたしのおはなしは、おわります。
   こんどはあなたがはなすばんです あなたの窓の外をごらんなさい。
   じき、太陽が、のぼります。
 
舞台の幕は半分閉じられてはじめています。
舞台左端でこちらに手を振る女性がいます。
これが5幕8場、最後の舞台です。
 

 

次のページをめくると螺旋のリボン状に各世代
(いきもののじだい・新生代・第四期・現世・にんげんのじだい・
二十世紀・紀元・・・年・五月・六日・五時・三十三分)が明記され、
窓辺の時計に続きます。
 

 

窓は開かれ太陽が輝いています。
 

 

そして最後のページ、
明るい黄色とグレーの2色で博物館の断面図が、
見開きいっぱいに描かれています。
多くの人々が見学しています。
 

 

今まで見てきたことがここに集約されています。
壮大な宇宙空間から一軒の家の窓に辿りついた
『せいめいのれきし』という絵本。
 

 

今、この時この場が過去と未来に続いている、
 

 

そんなことを感じさせてくれる
稀有な絵本なのです。
 

  こちらもバートンさんの絵本。

 

 
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