深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

『チムとゆうかんなせんちょうさん』王道の冒険譚!憧れの先にある仕事

『チムとゆうかんなせんちょうさん』は、

少年チムを主人公にした海を舞台にした冒険の物語です。

 

作者のアーディゾーニは1900年の生まれ、

生誕100年を記念して、日本ではシリーズ11冊が刊行されました。

 

チムのシリーズは作者が当時5歳だった息子とそのまわりにいる子どもたちに作った作品だといいます。

 

身近にいる子どもたちを喜ばせたい、という思いから絵本作家になった人は多いですね。

 

 チムとゆうかんなせんちょうさん

 

 

 エドワード・アーディゾーニ さく

せたていじ やく

 

ページ: 48

サイズ: 26.2x19.2

出版社: 福音館書店

発行年: 1963年 新版 2001年

 

 冒険の旅へ

チムぼうやは、かいがんのいえに すんでいました。

チムは、ふなのりに なりたくてたまりませんでした。

 
まず、この出だしで冒険心に火がつきます。

船乗りになりたいというチムですが、
まだ小さいからと両親には反対されます。


けれど、沖に出るボートがあると聞いて乗せてもらい、
汽船に乗り込むことに成功するのです。

 

それから船での生活は、てんやわんやの連続です

 

船の仕事を手伝いながら厳しさと楽しさをその身に刻んでいきます。

 

嵐から船に居残ってしまったチムは、

船長と「海の藻屑」となる決心まで!

ですが、チムが大声で叫び、危機一髪、救出されるのです。

 

勇ましいチムの行動が両親を納得させ、

夢をかなえる(船乗りになる!)ことになるのです。

 

おはなしは古典的、王道の筋書きです。

 

子どもの心に憧れを

子どもたちにとって生活する場とその周辺が世界のすべてです。

チムのように海の近くに住み、いつも船をながめて暮らす少年にとって

船乗りになりたい!

それは当然のことのように思われます。

 

昔、船乗りだった人の話を聞いたり、

見える船の名前を知っていたり、

船乗りへの憧れをきちんと描いています。

 

憧れをもつこと。

 

チムと同様に、身近な仕事の景色から

家の仕事を当然のように継いでいたのは、

そう昔のことではないのです。

 

はじめての体験

子どもたちにとっては日々が新しい!

その中から憧れを見つけることでしょう。

 

まわりの大人たちができることは、

”はじめて”の体験の機会を与えること。

そして、見守り続けること。

 

はじめての体験、といっても特別なことではありません。

子どもたちは、ちゃんとみています。

なんといっても”子どもですから”大抵のことは”はじめて”なのです。

 

自分の子どもの頃を思い出してみましょう。

 

海と空の大きさ

はじめて雨に打たれた時の感触

森で聞いた鳥のさえずり

溶けたバターの香り

星のきらめきや漆黒の空

タンポポの綿毛の柔らかさ

転んだ時の痛さ

 

五感を研ぎ澄まして、

子どもたちはすべてを吸収し育っていくのですね。

 

アーディゾーニの絵

この絵本の挿絵は落ち着いた色彩で描かれています。

 

短い線がつながれた独特の筆致とイギリスらしい空気感を含んだ色彩で描かれ、

白黒のページと交互に配されています。( こちらは新版以前の表紙)

 

色合いもパステルで原色はほとんど使われていません。

 

5歳からイギリスに暮らす作者。

空がほとんどくもり空なのは仕方ないのかな。

 

そこに赤い服をきたチムはとても目立ちますね。

 

商品の詳細

 

絵本のなかに描かれる人々

 
絵本の絵の所々に本編にはない登場人物のセリフが、
吹き出しにはみ出ていてなんだかとてもユニークです。
 
「とってもいきたいよ」
「いたいよ いたいよ みみがちぎれるよ」


一見おとなしそうみえるチム、
決してあわてず落ちつきはらっている両親。


アーディゾーニの絵には不思議な空気感、落ち着きを感じます。

 

ドキドキワクワクの冒険だからこそ、

あえて地味ともいえるアーディゾーニの絵、なのだと思います。

 

もちろん好みもあります。

 

昔話やグリム童話など、挿絵によって話の印象が変わりませんか。

機会があったら図書館などでくらべてみましょう。

きっとこっちは好きだけど、これはちょっと…

そんな風に感じるかもしれませんね。

 

それもまた絵本の楽しみ方です。

 

それだけ絵本において、挿絵は重要です。

なんてったって「絵本」、絵と本(文)ですからね。

 

子どもも一個人

 

チムは子どもの自由さで考え動きますが、思慮深くもみえます。

両親は教養もあり優しそうですが、子どもに執着がないようにもみえます。

 

同じ作者の『時計づくりのジョニー』でも同様に感じました。

 

もちろんチムを信頼してのこと、

というのはほかのシリーズを通してわかっては来るのですが、

日本とは違う子どもへのまなざしを感じます。

子どもも一個の個人として尊重している、とでもいいましょうか。

親の庇護下にあれど個人として認めている、という気がします。

 

絵本から物語へ 

 
2001年に刊行された11冊は以下の通りです。
 
チムシリーズ全11巻
①チムとゆうかんなせんちょうさん
②チムとルーシーとかいぞく
③チム、ジンジャーをたすける
④チムとシャーロット
⑤チムききいっぱつ
⑥チムひとりぼっち
⑦チムのいぬタウザー
⑧チムひょうりゅうする
⑨チムとうだいをまもる
⑩チムさいごのこうかい
⑪チムのうひとつのものがたりコックのジンジャー
 

 海へのあくなき憧れ、仲間たちとの冒険譚は、

現代の子どもたちには想像しにくい世界かもしれません。

 

ですが、物語を読み進むうちに、きっとチムたちに共感することでしょう。

そしてチムたちと一緒になってワクワクするに違いありません。

 

絵本から物語へと読み進む子どもたちにも最適な絵本です。

 

お読みいただきありがとうございました。

絵本選びの参考になればうれしいです。