深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

『ゆうかんなアイリーン』自然の中での身体感覚と自力

吹雪の中、大きな黄色箱を抱えて歩く女の子、アイリーン。 
彼女が「ゆうかんな」わけが絵本で描かれています。
 
雪の降るころ小学1年生から3年生によく読みました。
 
大人は子どもの頃に感じた雪の感触を思い出すかもしれません。
 
 
ゆうかんなアイリーン
 
ウイリアム・スタイグ 作
おがわ えつこ 訳
 
ページ: 32
サイズ: 26.4 x 21
出版社: セーラー出版
発行年: 1988年
 

雪の中へ!

アイリーンのお母さんは仕立て屋さんです。
出来上がったのはお屋敷の奥様に頼まれたピンク色のドレス。
お届けするはずだったお母さんですが、
 
「かぜをひいたらしいの。こんやのパーティにまにあうように
 おとどけしなくちゃ ならないのに」


そこで娘のアイリーンがお届けすることになるのです。
 
赤い帽子、赤いマフラー、コートにブーツ、手袋をはめて、
ドレスを入れた黄色の大きな箱を抱えて出かけます。
 
猛吹雪に大きな箱をあおられながらも、風を押して進みます。
 
 
 

自然にあわせて身体を動かす

 
かぜは ようふくばこに からみつき なぐりかかり、
うばいとろうとします。
「わたすもんか、おかあさんが つくった ドレス!」

からみつき、なぐりかかり~
 
このページをみていたら子どものころ、
小さく軽い体が風に翻弄された時の感触を思い出しました。
 
前からうしろから、右から左から、
見えない誰かの手で揺さぶられているかのような感触。
 
子どもの体は柔軟です。
誰に教わることなく自然の中で対応することができる!
ことを思い出しました。
 
そして自然にあわせて動いていると楽ちんで面白いのです!
 
雪の中ですから、
冷たい!
寒い!!
 
風が吹けば、
もっと寒い!
もっと冷たい!!
吹き飛ばされそうになる!!!
 
そんな状況ですから
苦しくて辛くてとても困っているのに、
不思議と笑っていたり…
 
いろいろな感情がない交ぜになって
不思議と楽しいとすら感じてしまうのです。
 
そういう感情が自然の中では自然に生まれるのですね。
 
 

ひとりだったら、ひとりで何とかする

 
さて、お話の続き。
必死に風に抵抗したアイリーンでしたが、
大風にあおられ箱からドレスを持っていかれます。
 
さあ、たいへん。
吹雪はますますひどくなり、次第に暗くなってきます。
黄色い箱だけもって雪に埋もれながら、進みます。
 
やっと明かりの灯ったお屋敷を下にみて、
箱をそり代わりにして、一気に下るアイリーンの爽快な表情。
 
 
そして下ってふと木の幹をみると、
なんと、ドレスが張り付いているではないですか。
 

「おかあさん!」

 

 
と思わず叫び喜ぶアイリーン。
 
無事にドレスを届けて一安心。
パーティにも参加して、翌朝お医者さんとともにお母さんのもとに帰ります。
 
奥様からの手紙には、
ードレス ほんとに きにいりました。アイリーンは すばらしい お子さんですよ。
でも、このことは お母さんが いちばん よく しっていたのです。

こうして、おはなしはおわります。
 
 
アイリーンはお母さんのかわりに無事役割を果たすことができました。
雪の中、ひとりで出かけ頼る人もいない中で、
自分の知恵で何とかする、ことができました。
 
もしかしたらドレスは雪にさらわれて
届けることができなかった、かもしれません。
 
それでもアイリーンはひとりで
「何とかした」
ことに変わりはないのです。
 

親の覚悟

 
時には、子どもをひとりで行動させる勇気を
親は持たなくてはならないのかもしれません。
 
それは遅かれ早かれやってくることです。
 
 
この絵本を読んで息子が4歳くらいの時
ひとりで雪の中、大きな傘を抱えて
私が出かけた先へ訪ねてきたのを思い出しました。
 
 
そこへは数回一緒に行ったことがあった場所でしたが、
まさか道順を覚えているとは思わず
お店にひょっこり現れた時には
目玉が飛び出すほど驚いたものです。
 
子どもの記憶は思った以上に鮮明です。
母親に会いたい、と思ってひとりで歩いてきます。
 
大人の足で10分弱ほどの道のりです。
4歳児にはどんな道のりだったのでしょう。
歩道はありましたが、半分は傾斜道でした。
 
いまだに辿り着けたことが不思議でなりません。
(ほんとうに無事でよかったです!)感謝。
 
 
 
雪の景色、そしてアイリーンの奮闘する姿が
イキイキと描かれた絵本。
 
吹雪の中をひるまず進むアイリーンは、タイトルどおり
「ゆうかんな アイリーン」なのでした。
 
雪の季節によく読みました。
 
お読みいただきありがとうございます。
絵本選びの参考になればうれしいです。