深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

『長ぐつをはいたねこ』少しの無理と知恵と工夫!

 
 グリム童話(初稿は『靴はき猫』にも収録されている、多くの人が知るお話です。
 
日本でもTVや映画で何度かアニメーションになっています。
 
誰もが知るお話だからこそ、絵本は”絵”を選びたい!
 
そこで選んだのは、ハンス・フィッシャーの絵本です。
 
『長ぐつをはいたねこ』
 

 
ハンス・フィッシャー ぶん・え
やがわ すみこ やく
 
ページ: 32
サイズ: 37.8 x 21.2
発行年: 1980年
出版社: 福音館書店
 
 

魅力的に描かれるネコ

 
「長ぐつをはいたねこ」は、絵本となって、
挿絵も翻訳も様々なタイプが出ています。
 
中でもこのハンス・フィッシャー版が一番のお気に入りです。
 
なんといっても、ねこが表情豊か!
動きも踊るよう、魅力的に描かれています。
やわらかい線がくるくると形取ってなんとも愛らしいのです。
 

パステルの線で描かれた余白のある線で、
描かれたものが立体的に見えます。

色も数を抑えてあり、黒と黄土色の2色の見開き、
あるいは朱と青緑の4色が使われています。

登場するゾウやライオン、ウサギや鳥の小さな生き物も、
動物を描くのが本当にうまいなぁと感心させられます。

 

工夫と知恵と少しの無理

さて、タイトルにあるネコは、
粉屋の3人息子に形見分けとなった三男坊がもらったのがオスネコです。

このネコがあわれなご主人のために、長ぐつを所望、
「長ぐつをはいたねこ」の誕生です。
 
あれやこれやの知力策略を弄して、王様の姫君とご主人様を結婚させるにいたるという筋書き。
 
このネコのバイタリティーのあることといったら、
すぐさま次々に行動に移していきます。
 
まず、長ぐつ。
本当はネコが長ぐつを履いたら歩きにくくて仕方ない…
でも練習して歩けるようにします。
これは差別化、でしょうか。
 
ウサギを取りにでかけて袋につめ、お城へ出かけます。
次はヤマウズラ、そしてサカナと毎日欠かさずに
 
「あるじのカラバ伯爵からの捧げものでございます」
 
とお届け物をするのです。
 
王様は当然、カラバ伯爵を好きになっていきます。
 
まずは知ってもらう、好きになってもらう。
 
 
そうしてある日、
化けるのが得意な魔法を使う大男をすっかりだまして
ネズミの姿に変身させ、あっという間に平らげてしまうのです。
 
そうして大男の屋敷や土地は「カラバ伯爵」のものとなり
おひめさまと結婚することになりました。
 
自分よりはるかに強そうな相手には、真っ向勝負を挑まない。
ある種の知恵比べですね。
 
 
 
〆の言葉が、

うちあけばなし、いまひとつ。--やれやれ、ようやく、長ぐつとおさらばすることができて、ネコはしんからほっとしましたとさ。
 
ネコも「長ぐつをはく」少しの無理をしていたんですね。
 

好きな作家の絵を見つける


翻訳は好きな矢川澄子さんです。
 
『ねずの木』の翻訳を読んで以来ファンです。
言葉のセンスが光ります。
 
「うちあけていいますとね」
「まあ、じきにわかりますよ」
「ほっとしましたとさ」
 
あらすじとは別に
読んでいるこちら側に語り掛けるような言葉が
本とおはなしとの距離を近くしているように思います。

作者のシャルル・ペローはフランスの詩人(とウィキペディアにあります)。
民間伝承を集めて教訓を与えたものとして子どもにむけて書かれた初の児童文学、
とも言われています。

ペローの物語には、「赤ずきん」「眠りの森の美女」「シンデレラ」など、
日本でも馴染み深い物語です。
「長ぐつをはいたねこ」もそのひとつです。
 
終ページの前の見開きページは黒バックで文字はナシ。
見開きも水色をバックに光る眼のネコの顔が幾百と描かれています。
とてもカッコイイ!
 
躍動感あるフィッシャーの絵とともに楽しみたい絵本です。

ハンス・フィッシャーの原画展が20年以上前に白根市でしたか…(うろ覚え)図書館のギャラリーで開催されたことがあり、見に行きました。
原画のなんという迫力! すごくよかったです。



お読みいただきありがとうございます。

絵本選びの参考になればうれしいです。