深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

『スーザンのかくれんぼ』かくれることから見えてくる世界

表紙の鮮やかさから、初夏に読みたくなる絵本です。

イエローレモンの黄色は太陽の陽ざしを感じさせます。

「かくれんぼ」といえば子どもの遊びの定番ですが、それをキーワードに子どもの繊細な気持ちに寄り添える、そんなおはなしです。

読んだ人それぞれの「かくれんぼ」体験がよみがえってくるような気がします。

 

スーザンのかくれんぼ

ルイス・スロボドロキン 作

やまぬし としこ 訳

ページ: 32

サイズ: 25.6 x 20.8

出版社: 偕成社

発売日: 2006年(1961年)

 

表紙からワクワクを想像する

なんといっても目を引くのがその色です。 フレッシュグリーン、レモンイエローがまぶしい表紙は鮮やか。

そして、これも鮮やかなピンク色の絵本のタイトル『スーザンのかくれんぼ』の文字が踊ります。

大きな木の陰からあたりを伺う女の子の服の色は自転車と同じ赤い色です。

表紙のから得られる印象は夏に向かう新緑の季節を少し過ぎたあたりでしょうか。 背中を見せるスーザンの顔は表紙からはわかりません。その横に優し気なまなざしでスーザンを見る隣の家のご婦人。

さてさて、どんな「かくれんぼ」がはじまるのかしらと、期待が膨らむのです。

 

秘密のかくれ場所を探す

さて、おはなしは・・・

スーザンは無理やり嫌いなクモを見せようとする兄さんたちから逃れるために、庭で隠れる場所をさがしています。

「かくれるのに、とっても いいとこ ないかしら?」

スーザンは、まずおかあさんに聞いてみて、かくれます。するとすぐにお隣のおばさんに見つかって、またかくれ場所をきくのです。

木の後ろ、物置のかげ、バラの茂み、犬小屋…けれどすぐに見つかってしまいます。

「どこへ かくれようかしら……」 そう 考えながら、しずかに しずかに すわっている スーザンは、 やなぎのえだに、すっぽりと つつまれていました。

大きな柳が枝を低く垂らしている影にいるスーザン。 隠れようとしていたわけではありません。

ところが、今度はだれもスーザンを見つけられません。

兄さんたち、郵便屋さん、おとなりのおばさん、ゲリーさん、おかあさん。

「そんな すてきな かくればしょって、どこだろう?」

柳の前でみんなは考えています。

そこへ

「あたし、ここに いるわ!」 みんなはびっくりします。 「まあ、スーザンったら!どこに かくれていたの?」

 

スーザンはもちろん誰にも隠れていた場所を教えませんでした。スーザンにとって自分だけの秘密の場所。けれど孤独ではない、そんな場所をスーザンは手に入れたのでしょう。

 

ひとりの時間を楽しむ子ども

 

スーザンは、度々そこに隠れます。

低く垂れた大きな柳の木の下は、涼しくて気持ちよい場所。不思議とそこにいるスーザンを見た人はいないのです。この時のスーザンは、大切な秘密の場所で自分だけの時間を大切に過ごしています。

 

仲間と楽しく遊ぶのと同じくらいひとりで過ごすこともまた子どもには楽しみなのだ、とこの絵本で思い出しました。

 

そして、かくれること。

子どもは大好きです。

 

スーザンは嫌なことから逃げて隠れ場所を求めていますが、隠れ場所を得て嬉しそうなスーザン。 自分が隠れた場所から、いつもの場所がどんな風に動いているのか興味深々のようです。

そういえば、かくれんぼって隠れているとき、なんだかいつもワクワク、ドキドキして外を覗いていました。

 

自分の世界を作る楽しさ

息子が5歳くらいの頃、部屋の片隅に自分のスペースを囲い、お気に入りのものを揃えて「自分の場所」を作っていました。 そこには、自分で作った弓矢、風呂敷のマント、作った刀、積み木で囲ったなかに丁寧に並べておいてあります。 そしてそれらを身に着け出かけます。(家の中ですが^^)自ら作ったものを身に着け、自らが動いておはなしを作っているかのようでした。

自分だけのひとりきりの秘密を少しづつ増やしながら育っていくようにも思います

もちろんかくれんぼも大好きで、見つけると嬉しそうにしていましたっけ、あれは4歳? 5歳?

 

息子の「かくれんぼ」は楽しそうでしたが(家では)、私自身の「かくれんぼ」はちょっと怖い思い出もあったりします。 母方の家で従妹がたくさん集まった時のかくれんぼは慣れない場所ということもあり、誰も見つけてくれなかったときはどうしよう…と不安になった記憶があります。 畏怖や恐れを遊びで知るのも大切なことなのですね。

スーザンの隠れ場所となった柳の木。

大きな木の下ってなんだか、落ち着きませんか。きっとスーザンもそうだったのでは、と思います。

 

そこは特別な場所ではありません。いつもだれもが知っていながら知られない。 見えているようで見えない場所。そんな場所はそこここにある、ということなのでしょう。

 

意識する着目点の違いが、見える見えないを決めていますね。

 

このおはなしは本当にあったことを元にして絵本にした、と作者のスロボトキンが書いています。

 

お読みいただきありがとうございます。

絵本選びのきっかけになればうれしいです。