深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

夢をかなえる絵本『栄光への大飛行』ひたすらにひたむきなチャレンジ精神

イギリスとフランスを隔てているドーバー海峡を、 飛行機ではじめて渡った人のおはなしです。

小学校では5年生、6年生によく読みました。

実話だということを読み終わった後に話すと、 「へぇ~」といった風です。

最初の挑戦から6年め、11回目の飛行で成功します。

これからいろんなことにチャレンジしていくであろう 子どもたちに「やってみようね」という思いで読んでいました。

栄光への大飛行

アリス&マーティン・プロヴェンセン 作 今江祥智 訳
ページ: 40 サイズ: 22x26cm 出版社: BL出版 出版年: 2009年(1983年)
 

夢とあこがれと試行錯誤

おはなしは1901年。 絵本で〇〇年と記すのは珍しいことですが、 このおはなしは実話をもとにしているからです。

イギリスとフランスを隔てているドーバー海峡は、 直線距離にしておよそ34キロメートルです。

現代では遠泳のコースとしても語られています。 肉眼でも遠くに見えるそこまでを、まだ開発が始まってまもない時代に 飛行機で渡ったのが絵本の主人公ルイ・ブレリオさんです。

空を飛ぶことへの憧れ、 そして成し遂げるための試行錯誤を描いています。

絵のトーンは渋めで、どちらかといえば表情も大仰ではありません。 ですが、このお話にはとても合っていると感じます。

大人が主人公のせいでしょうか。 端正な絵柄が、本当の話なのだと淡々と語っているようです。

 

飛行機の美しさを絵本で知る

そして、飛行機の美しいこと。 柔らかい色合いといい、木や布の質感、 空を飛んでいる姿を見てみたくなります。

フランスのカンブレエという町に5人の子どもと奥さん、ネコにイヌにオウムと暮らす、ブレリオさん。

みなでドライブに出かけたある日、 空にぽっかり浮かぶ飛行船を目にします。

たった一つの思いだけでむねがいっぱい。   「わたしも 空飛ぶ機械を作るとも。 大きな白い鳥のようなのをね。 みんなでがんばりにがんばって、ツバメのように つーいつーいと飛べるようになるんだ!」  

はじめてちゃんと飛べるヒコーキを作ったのが 6年後の「ブレリオ7号」機。

それまでは少し浮いては壊れ、 数分舞い上がっては壊れ、 原っぱの端まで飛んでは壊れ、 そのたびに、骨は折るくじく、 目の周りはあざだらけ・・・ を繰り返して慣れっこになったブレリオさん。

成功の飛行機に乗り込むのも松葉杖をつきながら乗り込みました。

そして1909年7月25日、

パパの飛行機「ブレリオ11号」は、みごと37分の大飛行を成し遂げるのです。

この絵本の醍醐味は、なんども何度も作られる飛行機の姿の美しいこと!

あー、木と布でつくられた飛行機もあったのか、と思うのです。

悠々と回るプロペラや自転車のような車輪、白い羽のような翼は見ていてわくわくします。

みると後ろと前の見返しには、どんよりとしたイギリスらしい空に小さな飛行機が飛んでいます。 (描かれている飛行機がちゃんと違います。前がブレリオ1号、後ろがブレリオ11号)

空を飛ぶこと、飛行機に憧れる気持ちが伝わってくる絵です。

 

それと、擬音がちょっと変わっていて面白い。

ずびぃん! これはパパの車が荷車にぶつかった時の音です。

クワラン クワラン グワラン グワラン これは白い飛行船がくもの中から現れた時です。

 

実話を語る絵本の魅力

航空界の先駆者であるルイ・ブレリオさんは、 自動車のライトについての発明で身代を築き、 飛行機の開発と製作に注ぎ込みました。

はじめてドーバー海峡を飛行機で越えた人が、 失礼ながら"おじさん"だったことに勇気をもらえました。

 

□憧れるものがあり、そのために行動を起こす □根気よく失敗を恐れない □いくつになっても挑戦できる

 

いつまでの「こうありたい」と絵本を読んで思います。

失敗のたびにパパが口にする時の文がこちらです。

パパにはまたひとつ「勉強になった」。

ちなみに「栄光への大飛行」は復刊してのちの表題です。

最初は「パパの大飛行」。(残念ながら廃刊)

個人的にはこちらの方が好みです。 パパ、が大飛行するなんて、わくわくします。

ひとりのパパとして始まった挑戦でしたからね。 パパが挑戦する姿の側にはいつも家族が描かれています。 ママが子どもたちの手を引いてパパと共にいるのです。

危険な挑戦ですが応援する家族がいたからこそできたのかもしれませんね。 最後のページは無事フランスに降り立ったパパとママ、子どもたちが微笑んでこちらを見ています。

だから「パパの大飛行」だったのです。

 

ご訪問ありがとうございます。 絵本選びのきっかけになればうれしいです。