深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

穏やかに見守る、きちんと話す『くんちゃんのだいりょこう』にある優しい眼差し

子どもは好奇心の塊です。
見るもの触れるも、

 

これ何?
あれはどうなってるの?
〇〇やってみたい!

 

と忙しい。

 

5歳くらいになると、
自分でかなり体も操れるようになりますし、
あれやこれや自分なりに考えるようになります。

 

そんな子ども、
そして親にもぜひ読んでほしい絵本です。

 

考えて行動することの大切さ、
それにどう対応したらいいのか、
ひとつの道しるべになる絵本ですよ。

 

わが息子も5歳の時海賊姿に憧れて、
ありったけの風呂敷やスカーフを巻き付けて衣装にし、
自分で作った弓矢や剣を身に着けて、
そこらじゅうを駆けまわっていましたっけ。

 

くんちゃんのだいりょこう

ドロシー・マリノ 作
石井桃子 訳
ページ: 35ページ
サイズ:  25.8 x 18.8
出版社: 岩波書店
出版年: 1986年

 

くまの親子の会話に注目!きちんと話すことの大切さ

森にすむ、くまの家族のおはなしです。
淡々としずかな会話がみられる絵本です。

 

(ネタバレしますが、絵本は絵を見ることで成立する本なので、
 詳しく知りたくない人は次の項目へ)

 

表紙はくまのくんちゃんが、
木の枝にとまっている鳥をみあげています。
枝は裏表紙に連続して木が立っていて、
たくさんの鳥がいたことに気づきます。

 

くんちゃんと鳥は、
目線があっているので何か会話している様子。

 

画面三分の二が青い空が描かれており、
お話の広がりを感じさせます。

 

見返しには、森の中を散歩するくんちゃん親子。
おとうさんを先頭にやや離れておかあさん、 そしてまた少し離れてくんちゃんがいます。

 

3人(びき?)とも目線はあちらこちら、
一緒に散歩はするけれど、 それぞれが森の散策を楽しんでいる感じがします。

 

お話は見返しのシーンの延長で、三人が森の中の川辺を
「ふゆごもりのきせつに なったね」
と散歩しています。

 

少し離れて歩いていたくんちゃんは、 鳥と話をして、あたたかな国へ渡っていく鳥を見送るのです。

 

〇〇したいという子どもに、親はどうする?

くんちゃんはそれを見て、おとうさんとおかあさんに
「ぼくも みなみのくにへ いっていい?」
と聞きます。おかあさんは
「くまは ふゆは ねむるのです」
といいます。

 

けれど、一度だけいってみたい、 という必死のくんちゃんの様子をみておとうさんは
「やらせてみなさい」
と、いうのです。
「だが、くんちゃん、かえりみちを
 よくおぼえておくんだよ。 あのおかのうえの 大きなまつの木を
 めじるしにしてね」

丘の松の木で、行ったり来たりする

さっそく、くんちゃんは勢いよく走って丘へ登っていきました。
丘のてっぺんの松の木でたちどまり、 振りかえるとおかあさんが手をふっていました。

 

おかあさんに、さよならのキスをしなかったくんちゃんは、 かけおりてキスをして丘をのぼりました。

 

それからは遠くに見える鳥を見て、双眼鏡がいる、 湖を見て釣竿がいる
喉が渇いてきて水筒がいる、 南の暖かい国へいくなら麦わら帽子がいる
と次々に必要なものを取りに帰っては、丘を登り、 そのたびに、松の木で止まり振り返るのです。

 

そのうち、たいそうくたびれて、
あくびが出たくんちゃんは、
「りょこうにでるまえに うちにかって すこしやすんでこよう」
と、おとうさんおかあさんのいる家にもどり、ベッド入って眠るのです。
おとうさんはそとからかえってきて
「かえってきたようだね」 「かえってきました」
ふたりは、そうなるであろうことを、わかっていたようですね。

 

子どもは冒険だいすき、でも臆病でもある

はじめてこのお話を読んだときは、
なにか物足りない感じがしました。

 

ただただ優しいおかあさんおとうさんと、
思いつきで好き勝手するくんちゃん。

 

でも、なんども読むうち、はて?

 

思いつきで好きなことができるのが子どもだし、 危ないこと以外余計な口出しせず、 好きなことをさせて見守っている両親って、
子どもにとっても、 すごくありがたい親なんじゃないかしら、と。

 

おとうさんがくんちゃんに、帰り道を忘れないで、 おかの松の木を目印に、と送り出します。
くんちゃんにとって松の木は、 自分を待ってくれている両親(安心できる場所)と、 行ってみたい南の国(未知のあこがれの場所)との、
境界だったのではないでしょうか。

 

子どもたちはそれを繰り返して
だんだん南の国へ行くようになるんですね。

 

何度も戻ってくるくんちゃんに必要なものを差し出す、 優しいおかあさん。

 

おとうさんも初めから、 くんちゃんにはまだ南の国へ行くのは無理かな、 わかっていて「やってみなさい」といい、 子どもの言い分を頭ごなしに否定するのではなく、 自ら体験させ納得させているようです。

 

思いのまま行動するくんちゃんは、 おとうさんおかあさんの大きな手のひらの上だからこそ、 好き勝手できるのですね。

 

そしてそれができるのも、 子どもなればこそ!なのです。

 

以前は読んで物足りなさを感じた絵本は、 今では幸福感を味わえるとびっきりのおはなしになりました。

 

ご訪問ありがとうございます。
絵本選びのきっかけになればうれしいです。