深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

『ひよこのかずはかぞえるな』ユーモアあふれる絵本!もしこうだったら

小学校6年の頃、理科の実験で、 卵をふ化させたことを、 この絵本を読んで思い出しました。

 

卵から出てきたひよこは、 びっしょり毛が張り付いて、 目が大きくて、不思議でした。

 

しばらくすると、 ふわふわのクリームみたいな毛になって、 歩き回りました。

 

ちょうど、絵本の表紙のひよこのようでしたね。

 

この絵本はトンチが効いて、ユーモアがあって、 最初から最後まで、口が緩むおはなしです。

 

文章の量をほどよく、小学校では全学年で読みました。 もちろん3歳くらいから読んであげられる愉快な絵本です。

 

ひよこのかずはかぞえるな

イングリとエドガー・パーリン・ドーレア 作 せた ていじ 訳
ページ: 39 サイズ: 28.4x21.4cm 出版社: 福音館書店 出版年: 1978年

 

威風堂々のにわとりたちからはじまるおはなし

鮮やかなブルーの背景に風格さえ感じさせるにわとり。 その足元には、6羽のひよこと、 立派な卵が1個。
石版画のような質感で、やわらかい絵が描かれています。

 

とくに、たくさん描かれている、
にわとりたちがカッコイイ!のです。

 

モノクロとカラーのページが、交互にあらわれる絵本です。
  タイトルもちょっと変わり種です。
ひよこのかずはかぞえるな とは、
さて、どんな意味があるのでしょうか。

 

表紙を開くと見返しに、
1列に5こ、3段に、合計15この卵が並んでいて、
いずれも殻を破って、 出てこようとしているものが描かれています。

 

ひよこは当たり前なのですが、 ウマやシロクマ、
家や人、
羽やわた? 
ソーセージやきのこ?
じっくりみると不思議ですね。 (実は意味があるのですが、ネタバレになるので、最後に謎解きを)

 

チャーミングなおばさんの空想していることは

おはなしは、
森の中の赤い家でひとり暮らす、おばさんが主人公。
丸顔でちょっぴりポチャリとしていて、、 水色のワンピースと赤と黄の格子の前掛けがお似合い。

 

おんどりとめんどり、犬や猫とを飼っています。
こけこっこう!

 

おんどりが時を告げて朝がきました。 おばさんはゆっくり起きだします。
こっこっこ、たまごを 1つ うみました
めんどりがたまごをうんでおんどりも得意顔です。
おばさんは、毎日たまごをうんでくれるめんどりに感心して、
おお よしよし。なんて かせぎのいい めんどりちゃんかね
おばさんの独特の言い回し~かね、愛嬌がありますね。
たまごだなには、3ダース36このたまごが並んでいました。
そして、
まちへ もってって、 うってこよう
その道すがらのおはなしです。
おばさんは、さっそく 葉っぱがちりばめられたオレンジ色の服に着替えて、 たまごをつめたかごを下げて、町へ出かけます。

 

広い1本道を歩きながら、考えます。
その道のりがあまりに遠いものですからね。
このたまごが、 いったい いくらになろうかね? たまごのかずを かぞえては、おかねの かんじょう。 みぎも ひだりも ふりむかず、 いっしょうけんめい かねかんじょう かねかんじょう。
なかなか、絵本ではお目にかかれない、 かねかんじょう の文字。
ここまであっけらかんとくりかえされると、 不思議におかしさが先にきますね。

 

さて、お金の勘定にふけった、おばさんの夢に火がつきます。

 

たまごを売ってお金を手に入れたら
 ~めんどりを2羽飼う
めんどりが3羽になるから
 ~たまごも3倍になる
さらにめんどりを3羽飼う
 ~6羽が生んだたまごの半分を売って半分はひよこにかえす そうして鳥小屋はいっぱいなる
そうだとも。それが なによりさ。
とりごやがいっぱいになって大儲け
 ~がちょう2羽と子羊を1匹飼う
子羊は毛を刈る、ガチョウは羽をむしる
 ~それを売ってブタを2匹飼う、乳牛も1頭
たまごにひよこにがちょうにひつじ、はねにけにぶたにめうし、 ハムにベーコン、ミルクにクリーム! どんなもんだい!
おばさんは、たいそうご満悦です。

 

妄想炸裂!! さて顛末は?

その後も、おばさんの妄想(ここからは空想ではなく)は続きます。 ネタバレするので絵本で楽しみたい方は次の見出しまでとばしてくださいね)

 

おばさんは、女中と下男を雇って、楽をします。
ある日、大きな農場をもつ人から、結婚を申し込まれ、
だから わたしは おくがたさま
ひんがよくて おすましで、どんな あいてにも、 はなを そびやかしてくれるわさ。 そうとも こんなふうに はなをーーー
といいながら、たまごのかごを鼻にのせたら、
ぴしゃん! たまごが じめんに おちました。
おばさんは、道の真ん中で、立往生。
けいきが よすぎて、のぼせちまったよ。
家に引き返しながら、おばさんは思います。
そうわるいわけでもなく、家もあるし、 時を告げるおんどりと、 たまごをうんでくれるめんどりもいるし、
なんてしあわせなこったろうね、と。

 

空想することは、現実をわかっているということ

この絵本を読み聞かせしていると、 たまごが割れるところで、「あ~」と声を上げる子どもたち。

 

おばさんのしゃべる言葉が、
ちょっと変わっていて笑えます。
(読んで楽しんでくださいね)

 

おばさんはあれこれ妄想しながら、 ちゃんとわかってやっています。

 

こんなふうになったらいいなぁ、
普段だれもが思うことです。

 

おばさんの空想は、
どんどんエスカレートして妄想になっていきますが、 どんでん返しがありますね。

 

実態の伴わない空想は、妄想で終わってしまいますが、
おばさんの空想はそうでもありません。

 

ちゃんとにわとりのお世話をして、たまごを得ています。
そんなにうまくはいかないよ、
ってことでもあり、 でもいろいろやってみたら、面白いよ、
そんなふうに考えてみると、 選択肢がひろがりますね。

 

小さな幸せが身近にある、で終わってしまうのは、
ちょっ残念に思うのです。

 

あれこれ夢見たおばさんが、 最後に、家に戻ってほっとする姿に、 子どもたちはどんなことを思うでしょう。

 

決して子どもたちに、
答えを提示しないであげてくださいね。

 

自分はどんなふうに思うのか、
考えることが、 なにより大切なのでは、と思います。

 

空想と現実を行きつ戻りつして、 過ごすことが、子ども時代の特権ですね。

 

前後の見返しのいろんなものが、ふ化するところを描いたのは、
空想・妄想の内容だったのですね。

 

絵本の裏表紙に、ふ化する様子が描かれています。
冒頭で書いたように、 毛がびっしょりで、目は円ら、 ヨチヨチあるいて、フワフワのひよこになりましたよ。

 

タイトルの『ひよこのかずはかぞえるな』は強い否定です。

 

強い否定は時に、その逆をあらわすこともありますね。
(「チームバチスタの栄光」とか、絵本ではありませんが)

 

そんな含みをもって、タイトルを楽しみたいと思います。

 

ご訪問ありがとうございます。 絵本選びのきっかけになればうれしいです。