深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

『シナの五にんきょうだい』で思い切り奇想天外を楽しむ

小学校に読み聞かせに行くようになって、
保護者有志で読み聞かせの会を作りました。
 
集まったのは10名ほどでしたが、
小学校にきょうだいで通っている保護者は半分ほどでした。
 
さらに3人以上の兄弟がいるという人は数人。
大家族、大勢の兄弟は珍しいものになっていますね。
 
ご紹介するのは、5人兄弟のおはなしです。
 
小学校の3年生に読んでいると、
「こんなのありえなーーい」
「凄すぎるでしょ」
なんて声が聞こえてくる絵本ですよ。
 
シナの五にんきょうだい
クール・H・ビショップ 文 クルト・ヴィーゼ 絵
ページ: 46
サイズ: 26.2x18.4cm
出版社: 瑞雲社
出版年: 1995年
 

黒とみかん色の2色で描かれた絵の意味は

表紙を開くとタイトルにある5人兄弟が、
ずらりと1列に横向きで並んでいます。
同じ顔、同じ体格、同じ服装で、
海の方を向いて立ち手をおへその前で組んでいます。
黒のちょっと太めの線で絵が描かれ、
みかん色でところどころ彩色されています。
 
絵本が出版され始めたころは、
2色刷りの絵本がありました。
 
制作予算と材料の都合でしょうか。
この絵本の初版は1938年です。
 
このおはなしは、
そっくりなきょうだいが自分の特技を生かして、
難を逃れるというもの。
 
2色の世界、まったく同じ顔の5人が示すように、
突飛な設定は、
おはなしの世界への扉なのだと思います。
2色で描かれた世界を、子どもたちは目にすることはありませんからね。
 

降りかかった災難を五にんきょうだいの特技でやりすごす

むかし シナに 五にんの きょうだいが いました。 五人は そっくりな かおを していました。
こうして、おはなしは始まります。
 
1番上のにいさんが、ひょんなことから
捕らえられ裁判によって処刑されることになったのです。
 
それを、顔のそっくりなきょうだいたちが、
入れ代わり立ち代わり処刑をかいくぐります。
 
海の水を飲み干すことができる1番目のにいさん。
鉄の首を持つ2番目のにいさん。
脚をどこまでも伸ばすことができるのが3番目のにいさん。
燃えない身体を持つ4番目のにいさん。
息をいつまでも止めておくことができた末っ子。
 
いくら処刑しようとしてもできないことに、
裁判長は、無罪だから処刑できないのだ、
と判断を下し、村人も賛同します。
 
最後のページは、
そして シナの五にんきょうだいと おかあさんは
いつまでも しあわせにくらした ということです。
ああ、よかった」と思える最後は、
子どもの本ではとても大切なことです。
 

単純にたのしむ、ちょっと深読みしてみる

 

描かれている五にん兄弟は、
そっくりで五つ子のようです。
 
人は見た目も一緒だと、
同じように思いがちですよね
 
シナの五にんきょうだいは、それぞれに特技があって、
それぞれに違うのだな、と気づきます。
 
特技は性格といっていいかもしれません。
その特技も生かせる時も違うということです
 
五にんきょうだいもそうでしたね。
 
海に投げ込まれたのが、
燃えない体の4番目のにいさんでは助からなかったでしょうからね。
 
子どもも同じかな、と思いました。
 
兄弟でも、お兄ちゃんができることは、
弟もやっぱり同じようにできて当然、って思いがちです。
 
でもそうではなく、
特技(性格・個性)が生きる時がちゃんとある
そんな風に思わせてくれます。
 
お話をただ単純に、
 
水を含んで我慢するすごい顔が4ページもある、とか
燃えない体ってすごい、とか
海に放り込まれて足がぐんぐん伸びるなんて便利、とか
泡だったたまごにつつまれてかまどにいれられるって、とか
 
ありえそうにない不思議なことに、びっくりする。
おはなしの世界に入り込めたら、
それで十分楽しめ、
子どもの心を豊かにしてくれます。
 
ご訪問ありがとうございます。
絵本の解釈は、個人的なものです。
絵本選びのきっかけになれたらうれしいです。