深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

素直な心と目で見ることの大切さ『ロバのおうじ』のやさしい眼差し

桜が散って、しばらくたつと山々に明るく鮮やかな緑色が見えはじめます。

霞かかる春の空に、鮮やかな若緑色が目に飛び込んでくる新緑は、儚くも心躍る季節です。

そんな新緑色の表紙が目を引く絵本が『ロバのおうじ』です。

グリム童話の代表作でもあるこのおはなしは、読むと25分以上かかります。

小学校の朝読書では2日に分けて読んでいました。

5年生、6年生にじっくり読むことが多かったですね。

色のもつイメージから5月、6月に読みたい絵本です。

ロバのおうじ

グリム童話より M.ジーン・クレイグ さいわ

バーバラ・クーニー え

もき かずこ やく

ページ: 48

サイズ: 26x18.4cm

出版社: ぽるぷ出版

出版年: 1979年

王子なのにロバであること、先入観がある時

グリム童話の代表作のひとつ。 おはなしは、

平和な国を治めていた王と王妃がおりました。

子どもがいないことがただひとつの悩みでした。

そこで、魔法使いと取引し、子どもを授かるよう約束したのです。

ですが、おうさまは約束を守らなかったために、魔法使いは怒り生まれた王子をロバの姿にしたのです。

その姿はロバの姿のままでも真に愛してくれる人が現れるまで呪いはとけません。(それをおうさまたちもロバの王子も知りません)

立派な教育を受けて、他の王子とひけをとらない能力を持ち合わせていながら、その姿から両親に愛してもらえないのです。

お城で王子らしく振舞っても

「ロバにしてはね!」

と蔑みの目で見られてしまいます。

ある日、お城にリュート弾きがやってきて、ロバのおうじは弾き方を習います。

終いには先生だったリュート弾きのお墨付きをもらうほど上達したのです。

その腕前をおかあさまやおとうさまに披露しても、なんの関心ももってもらえません。

ひとり自分の姿を鏡に映して、服を脱ぎ捨てリュートをかついでお城を出る決心をするのです。

「ぼくは もう ロバっこのおうじさまでいうのには うんざりだ。~」 「どこかに いってしまおう。ロバっこのおうじさまなんかでいなくても すむ どこか とおいところへ……」

 

旅の風景とロバのおうじ

この絵本でとても好きな場面です。

お城を出たロバの王子はあてどもなくさすらいます。

人にも合わず、声をきくこともなく、それまで中傷の中で暮らしていたロバのおうじには、自然の風の音や川のせせらぎ、新月の輝きがリュートを奏でるエネルギーになったのでしょう。

この場面から新たな展開がはじまります。

 

リュートが上手で博識なロバの人、先入観がない時

長い間の旅の後、リュートの見事な演奏に、あるお城でおひめさまに大層気に入られそこで暮らすことになります。

夢にように過ぎてゆく日々。

新しく出会ったお城のおうさまやおひめさまは、ロバのおうじに対する先入観がありません。

リュートを素晴らしく弾きこなす歌い手の名人、

物知りで博識がある人、

親切で辛抱強い人、

お城で開かれるパーティーでは、ご婦人方にこう噂されます。

「あのかた すてきじゃない? とても ほがらかで」

同じことをしても、先のお城では王子なのにロバの姿なために「ロバにしてはね」といわれます。別のお城では、ただのリュートのうまい博識な人として尊敬を集めるのです。

幸せな時を過ごしていましたが、ある日おひめさまに縁談がある話を耳にします。

お姫様を思って暇乞いするロバの王子は、おひめさまから告白を受けます。

おひめさまは心からロバの王子を思っていました。

「さびしいのは うたが きけなくなることじゃないわ」 ~ 「あなたが いなくなることよ!」 「あなたは みっともなくなんかないわ! あなたの うたと おなじくらい うつくしいわ!」 「でも ぼくは ロバみたいだ!」 「あなたが なんだろうと きにするものですか!あなたが すきなの。あなたに ずっと そばに いてもらいたいの!」

そして、奇跡が起きます。

ロバの王子は人の姿になれたのです。

おひめさまは驚くでもなく、はじめから知っていたといいます。

本質を見る目を持っていたということでしょう。

その後二人は結婚し、何年か後6人の子どもを授かります。

そして どのこにも はいいろの けや ながい みみ しょぼしょぼの けのついた しっぽなんか ありませんでした

とおはなしはしめくくられます。

最後の見開きページには家族でボートに乗った幸せが、みどりの景色と共に描かれています。

 

昔話・童話の身勝手な親

ここで描かれるロバのおうじの親であるおうさまは、財産好きで、おきさきは綺麗なお召し物好き。

子どもを望みますが、金貨をごまかしその結果生まれたロバの姿の自分の子を愛することができません。

こうした成り行きは過剰のように思われますが、存外いつの時代にもあるもののように思われます。もちろんおはなしを作るうえでこうした親である必然性は必要です。 (ロバの姿だけれど愛されました。ではおはなしがつづきませんからね)

愛されないロバのおうじは、自ら愛し愛される存在を求めることはできたのです。

その姿から愛してもらえないことに落胆はしていますが、絶望はしていません。

旅によって新しい自分となり、自分の居場所を自らの特技と性質で探し当てたともいえるでしょう。

グリム童話をはじめとする古今東西の昔話には、生きぬく知恵が描かれているのですね。

絵本になると、切なさが少し緩和されるように思います。

 

透明感のあるクーニーの挿絵

なによりも色が若々しいと感じます。黒や濃い緑も軽いのです。

王子のときに着ていた爽やかな青い服の姿もお似合いです。

ロバのおうじの優しい眼差しは最初から最後まで変わることがありません。

描かれるロバのおうじの表情にも、ちゃんと人としての表情も読み取れます。

おひめさまとロバのおうじが庭の木の下でリュートを奏でている場面が大好きです。

庭の木々や花々、鳥や庭師もなんて楽しそう。

おひめさまは本当に優しそうに描かれています。

この人ならロバのおうじの本質を見抜いていたとしても全く不思議ではない、そんな風にちゃんと見えます。

本質を見抜く目を持ったおひめさまの凛とした姿や確固たる意志が見事に描かれていて敬服します。

絵本で「きちんとそう見える」のはとても大切なことですね。おはなしを聞きながら子どもたちは絵の隅々までみていますから。

クーニーさんの端正な品格のある絵に、ロバの王子のプライドがみえます。

柔らかで透明感ある色彩が目と心に優しい、そして若い緑色が平和を感じさせるラストシーンになっていると思います。

 

ご訪問ありがとうございます。

絵本選びのきっかけになればうれしいです。