深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

『ありがたいこってす』見方を変えたら物事は変わるということを知る

まずタイトルが洒落ています。 それだけで読んでみたくなるではありませんか。

 

原書はIT COULD ALWAYS BE WORSE。
日本語の豊かさを感じます。

 

裏表紙に
読んであげるなら4才くらいから
とあるのですが、 小学校では不思議に高学年に読むことが多かった絵本です。

 

基本、絵本の年齢はあくまでも選びやすいための目安です。
このおはなしは、むしろ高学年にもとても面白くうつる絵本です。 朝の読み聞かせでよく読みました。
最後のオチが、いいですよ。

 

ありがたいこってす

マーゴット・ツェマック作
わたなべ しげお 訳
ページ: 32ページ
サイズ: 25.6 x 23cm
出版年: 1994年
出版社: 童話館出版

 

小さな家と感じるのはどんな時

 

おはなしが、とにかく面白い。
主人公が、貧しい不幸な男、ですから。

 

貧乏で大家族の男が、賢者になんとかしてもらおうと アドバイスをもらっては、右往左往する様が コミカルな絵とともにリズミカルに描かれています。
 
むかし、ある村に、まずしい不幸な男が、母親と おかみさんと 6にんのこどもたちと いっしょに、ひとへや しかない 小さな家に すんでいた。

 

このおはなしは、ユダヤの民話からつくられたものです。

 

家の中があんまり狭いので、 男とおかみさんの言い争いは絶えません。

 

子どもたちはうるさく喧嘩ばかりで、 冬になると昼間は寒く、夜は長く、 暮らしはますますみじめになるばかり。

 

そして我慢できなくなった男は、 ラビさま(ユダヤの法律博士・物知り)のところへ 相談に行くのです。
ラビさまは不思議な助言をします。

 

家の中に、鶏たちを入れろ ヤギを入れろ 牛を入れろ

 

驚きながらもその通りにします。
男の小さな家は、以前よりひどい状態になるばかり。

 

そんなてんやわんやの様子が 柔らかい筆で描かれています。
いよいよ、小さな家はどうにもこうにもならない有様です。
そして、最後にラビさまがいったことは、
どうぶつたちを そとにだしなされ
だしますとも だしますとも たったいま
そして、男がラビさまに最後にいう言葉。
 
家の中にはかぞくがいるだけで、 しずかで ゆったりで 平和なもんでさあ……ありがたいこってす!

 

柔らかい絵とてんやわんやの家のようす

マーゴット・ツェマックの絵が、 こっけいで生活感あふれる人々を描きだし、 このお話の雰囲気を、とてもよく伝えています。

 

茶をベースとした水彩のタッチで 動物たちが生き生きとえがかれています。

 

部屋につるさてた洗濯物や パンを焼いたり、髪を梳いたりする 生活が描かれています。

 

次々に家の中に増える動物たちの大きさと 混乱具合が、ページをまたいで勢いよく伝わってきます。

 

牛やヤギ、ひな鳥、ガチョウのとりたちの
大きさがきちんと描かれています。
大慌ての住人たちもどこかのほほんとして印象で 最たるものが、ラビさまに相談している哀れな男です。

 

小さな家を小さいと感じない理由とは

 

どんどん混乱していく男の家の中が、一気に静まり、

 

ありがたいこってす

 

と男のセリフで終わります。

 

さて、男は目の前の状況だけを見ていました。 過去を見ることも、先を見ることもしていません。
今、目の前の状況を何とかしたい一心のようにもみえます。
困って、相談して、言うとおりにやってみて 今より少し前より今がよくなった

 

ありがたいこってす
こんなことも人生にはあるんだよ、
と囁かれているような気分になるおはなしです。

 

絵本を読んでいると、 子どもたちは、あれあれどうするの?  といった面持ちです。

 

最後に満足げにしている男のことをどう感じるのでしょうか。
それぞれがそれぞれに考えることが楽しいおはなしですね。

 

ご訪問ありがとうございます。 絵本選びのきっかけになれば嬉しいです。