深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

『すばらしいとき』自然を体感する素晴らしさ

 
すばらしいとき
ロバート・マックロスキー 作
わたなべ しげお 訳
出版社: 福音館書店
出版年: 1978年7月
 
 
 
夏の気配が場面いっぱいに感じられる絵本です。
表紙からして水辺にヨット、夏になるとページをめくりたくなります。
 
湾に小島の連なる避暑地、夏の景色が雄大に語られています。
女の子が2人、水辺を、林の中を、海岸を、
ボートの上で、夜の湖で、大空を見上げて、
 
自然はなんと豊かでしょう。
お話の始まりは雲が動いて、雨が降る瞬間を見事に表現しています。
 
〜くものかたまりが 顔をみせるーー
ほら、こちらにちかづくにつれて、
ゆっくりと ふくれあがってくる。
くもは、そのかげで 山をくらくし、
つぎつぎと 島をくらくする。
とうとう
この島のおまえたちまで
かげのなかにいれてしまう。
おまえたちは、
湾をよこぎって ふりだした雨を
ながめてたっている。
 雨は、どんどん ちかづいてくる。
ほら、百万の雨脚の音がきこえるだろ。
もう、雨つぶがおちるのがみえる。
水の上に…
 年へた岩のみさきの上に…
  やまももの上に…
    くさの上に…
     いきをひそめてごらんーー
 
おまえたちの上ににも 雨が ふりだした!
 
 
海に落ちる雨の音が聞こえてくるようです。
 
 
 
子どもの頃、
雨が降る中を歩ていて、雨が降っているところと降っていない境界をみたい、
と思っていました。
大人になって、
車を運転しているときに、黒い雲の下に黒い霧のようにみえる雨の
その中に入っていくとき、ワクワクしました。
 
面で描かれたマックロスキーのパステルカラーの淡い世界が、
柔らかい夏を表しています。
水着の少年少女もどこが涼しげ。
 
夏休みにもいろいろあるものです。
はじめて読んだ時、そんなふうに感じました。
休暇に対する考え方や、大げさの言えば人生の過ごし方の違い。
 
 
お話の後半は、嵐が来るのに備える様子から、
嵐の夜をやり過ごし、
嵐のよく日を楽しむ様子が描かれます。
そして、夏のおわり、一家は島を去る日が来たのです。
 
波と空を
ようく みておくんだよ。
海の潮の香りを
ようく かいでおくんだよ。
去っていくこの場所のことを かんがえると、
すこし さみしいね。
でも、 これからいく場所のことを
かんがえると、すこし うれしいだろ。
しずかに
思いめぐらすときだーー
 
どこにいたんだろう、ほら、
はちどりたちは
あらしの さなか。
 
こうして、お話はおわります、61ページと読み応えのある1冊。
じっくりじっくり味わいたい、そんな絵本です。