深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

『ピーターラビットのおはなし』自然のありのままを学ぶ小さな絵本

青い服を着たうさぎの「ピーターラビット」

 

その愛らしい姿を、食器や雑貨などで、
多くの人が目にしているのではないでしょうか。

 

キャラクターとして知られた存在にもかかわらず、
意外にそのお話を知っている人は少ないのではないでしょうか。

 

 

それぞれのおはなしの主人公は猫やねずみ、キツネにカエル、
どれもよく知る動物たちです。

 

小さな手にすっぽり収まるサイズは、
子どものために書かれた本であることがわかります。

 

小さい絵本で絵も小さいので、
おはなしだけ、
4年生から6年生に読むこともありました。

 

シリーズの絵本の中には、
第2集 6『こわいわるいうさぎのおはなし』
など、数分で読み聞かせられる絵本があって、
2歳半らいから楽しめるおはなしですが、
時間があまった時など、2冊目として読むことがあります。

 

小さい絵本なので、児童がみんなぎゅっと集まって、
見入るのも、楽しい体験です。
小さいからこそ、
余計に見ようとしてくれているようでしたよ。

 

ピーターラビットのおはなし

ビアトリクス・ポター 作
いしい ももこ 訳
ページ: 55
サイズ: 14.2x10.6cm
出版社: 福音館書店
出版年: 1971年

 

「ピーターラビットの絵本」シリーズとして、
日本では1971年に発行されました。
3冊セットで第7集まで出版されていて、
21のおはなし があります。

 

『ピーターラビットのおはなし』
第1集 1番目のおはなしです

ポターが描くピーターの世界を一緒に探検しましょう

このシリーズに描かれる動物の姿は、
実に写実的で、いきいき動きまわっています。

 

動物たちや自然をずっと丹念に観察し続けてきた、
ポターらしい絵本です。

 

絵本としては55ページとかなりのボリュームです。
見開きで必ず片側が文章とそして対となる挿絵の構成になっています。
挿絵はページ前面に配されてはおらず、
多くはその3分の2ほどのスペースで枠もなく
優しい色彩で白い紙に浮き出たように描かれています。

 

この絵本に書かれた挿絵の数は26枚になります。
見開いた時の文章も多くて14行ほどで少ないと4行程度です。
読んでみると、
挿絵と見事に対応した文章が、
リズムよく展開していきます。

 

ポターの描くピーターラビットの世界は実に不可思議です。

 

人のように当たり前に衣服を着用する動物たちは擬人化されているようですが、
その世界のみで完結しているわけではないように思われます。

 

そのお話には人間も介在してきて、重要な役を演じてさえいます。
通常、擬人化された世界ならば服を着て話をしようが、
人間と同じような生活様式をとっていても不思議と感じません。
その世界がそれで閉じているのですから。
けれどポターの世界はどこか違っているよう感じられるのです。

 

おはなしに登場するのは、4ひきのうさぎたち

『ピーターラビットのおはなし』は、
大きなもみの木の巣穴に住む、
おかあさんうさぎと4ひきの小さなうさぎたちのある日のおはなしです。

 

うさぎたちの名前は、
プロプシーにモプシーにカトンテールにピーター
ある朝、おかあさんは子どもたちをこんなふうに送り出します。
「さあ おまえたち、野はらか 森のみちで あそんでおいで。
でも、おひゃくしょうのマグレガーさんとこのはたけにだけは
いっちゃいけませんよ。
おまえたちの おとうさんは、あそこで じこにあって、
マグレガーさんのおくさんに肉のパイにされてしまったんです」
だから気を付けるようにと。
のパイにされたおとうさん、なんだか妙にリアルです。
この一文を読んだときピーターラビットの世界は私にとって、
お話の世界ではなく現実の世界になりました。

 

平然とそれを語るおかあさんうさぎも聞く小うさぎたちもリアルです。
ピーターたちを送り出したおかあさんは買い物へでかけます。
買い物かごにかさ、頭巾をかぶり赤い肩掛け、すごくおしゃれです。

 

さて、プロプシーたちはいいこでしたから、
森でくろいちごをつんでいました。

 

ピーターはいたずらっこでしたから、
いちもくさんにマグレガーさんの畑にでかけ、
木戸の下からもぐりこむのです。

 

レタス、さやいんげん、はつか大根を食べ、
胸がむかむかしたピーターはパセリを探しにいきます。
(パセリは胸やけに効くんでしょうか)
ピーターはその時、
きゃべつの苗を植えているマグレガーさんに遭遇します。

 

たがいにびっくりするマグレガーさんとピーター

 

必死に追いかけるマグレガにーさんを、なんとかかわすピーター。
途中に上着は脱ぎ捨て、靴も脱げていました(靴もはいてたんですね)。
水の入ったじょうろに隠れたり、やっとのことでマグレガーさんから逃れます。

 

途中ですずめの声に助けられ、
ねずみや白い猫、池には金魚など農場の動物たちが描かれています。

 

ひとりで心細くなったピーターは上着を着ていない姿で、
まったく普通のうさぎに見えます。

 

やっとのことで出口を見つけ森に逃げることができたのです。
くたくたになって巣穴に戻ったピーターは横になって眠ってしまいます。

 

その晩おなかの具合が悪いピーターはかみつれを煎じた薬を飲み、
プロプシー、モプシー、カトンテールはおかあさんが買ってきたパンを食べるのです。

 

これでお話は終わります。

 

いたずらっ子・ピーターの行動の理由とは

おかあさんは、ピーターがマグレガーさんの畑に行ったことを知りません。
ピーターも畑で危ない目にあったことを、兄弟やおかあさんに話しません。

 

ピーターは、2週間で服を2枚もなくしたということから、
今日のようなことが以前にもあったということです。

 

ピーターがおかあさんに黙っているのは、
畑にいってはいけないといわれたのに行ってしまったからでしょうか。

 

ダメといわれた場所で危ない目にあっては、
やはりそのことをおかあさんには言えませんね。

 

心配かけるし、叱られてしまいます。
ではピーターはなぜダメといわれた畑へいったのか。
やっぱり「たいへんないたずらっこ」だからでしょうか。

 

ダメということをしてしまうのは子どもの性でしょう。
また、危ないことは怖いけどやってみたいことでもあります。
でもおかあさんには心配かけたくはない、そんな子ども心が感じられますね。

 

これを現代に当てはめることは難しいでしょう。
ですが、そのキモチは今の子どもたちの中にもあるのかもしれないと、
いたずらっ子ピーターをみて思いました。

 

小さな秘密(経験)を少しづつ足しながら、
子どもたちは成長していくのかなぁ
と。
 
さて、お話の終わりのほうで、逃げる時に脱ぎ捨てた青い服と靴は、
マグレガーさんの畑のくろなきどりを追い払うための、かかしになりました。

 

つまり青い服をきたうさぎは、いたのですね。
子どもたちに食事の支度をするおかあさんうさぎの姿、
ポターの世界は、うさぎたち動物の世界を人間に置き換えたのではなく、
人間が動物の世界に行った姿を描いているように感じられるのです。

 

青い服はその「物的証拠」といえるのかしら、と思うのでした。

 

現実のような現実でないような、
不思議な世界の住人である、
ピーターたちの世界。

 

おはなしを読んでからは、
ウサギをみると、青いを着た姿を思わず想像してしまうのです。

   

作者の魅力を伝える映画

作者はビアトリクス・ポターは英国人です。
「ミス ポター」という映画で彼女の生涯がえがかれています。
この映画で人となりがよくわかります。
英国の湖沼地帯と自然が美しく、
とてもいい映画でした。

 

ご訪問ありがとうございます。
絵本の解釈は個人的なものです。
絵本選びのきっかけになればうれしいです。

 

『まよなかのだいどころ』◆架空の世界の楽しみ方

『まよなかのだいどころ』は
『かいじゅうたちのいるところ』
『まどのそとのそのまたむこう』とともに
センダックの3部作といわれる絵本です。

『かいじゅうたちのいるところ』は絵本の王道的な作りであり、
極限までセリフをそぎ落とし描かれています。

一方『まよなかのだいどころ』は、
セリフもリズミカルでミュージカルをみるようです。

3歳くらいから小学2年生くらいまで、よく読みました。


読み聞かせでは、リズムで楽しみ、
膝の上では、ゆっくり絵の細部を味わえます。

まよなかのだいどころ

モーリス・センダック 作

ページ: 40ページ
ザイズ: 28.2x21.4cm
出版社: 福音館書店
出版年: 1982年

『まよなかのだいどころ』で起こっていること


ふとんのようにみえるパン(ケーキ)の飛行機に乗り、 ミルクのポットを頭にかぶり、得意顔でご機嫌なミッキー。


星空をバックに賑やかな街並みとパンつくりの材料が並ぶ。 看板の同じ書体がひとつもない文字が特徴的です。


タイトルの『まよなかのだいどころ』の文字がおどります。

ベッドに寝ているミッキーは、


ドーン ドサン ズン パン バン


騒がしい音に、 うるさいぞ しずかにしろ!


ベッドからくるりと落ちながら パジャマは脱げて裸ん坊に

 

おりたところは あかるい まよなかのだいどころ


同じ顔したコック帽をかぶった男の人が3人。

見事な体躯で、みな鼻の下にちょび髭をたくわえています。

コックさんたちは、ミッキーをミルクと間違えて、 ミッキーを粉といっしょにかき混ぜて…


真夜中の台所の背景は、表紙と同じです。


裸のミッキーはオーブンで焼かれる途中に逃げ出して、
パンの衣装に身をつつみ、 今度は水からパンをこねだします。


こねて、たたいて、かためて、のばす


できたパンの飛行機でだいどころの天の川へ、 ミルクをとりに行きます。


そして、ミルクの巨大ビンに飛び込み、 パンはとけて、裸ん坊となって、 コケコッコーと叫び、


転がり落ちて、自分のベッドへ。

ベッドから落ちてはじまり、落ちておわるおはなしです。


絵本だからいい『まよなかのだいどころ』のよさ

さて、かなり詳細に絵本を文章にしてみましたが、 この文を読むと、支離滅裂…ですよね。

ですが、絵といっしょにみると実にたのしい!!

・ミッキーの表情やしぐさの愛らしさ
・背景が夜空、ビルが並ぶふしぎな台所
・三つ子のコックさんのちょっと不気味だけど、ユーモラスなミッキーとのやりとり

この絵本は、
コミックのようなコマわりで描かれている場面も多く、 ストーリーが進みます。


吹き出しのようにセリフがあります。 マンガの手法ですね。

おはなしの流れがスムーズになって、 場面転換もたくさんあるわけです。

文章だけではなんのことやら、ですが、 絵本ではとびきり面白くなるのです。


絵本でおこる架空世界への記号は、絶対にありえないこと


まよなかのだいどころでは、 ありえないことがたくさん起こります。


・同じ顔のコックさんが3にん
・裸で飛び回るミッキー
・ミルクと間違えられて、こねられる
・オーブンで焼かれ、飛び出す
・パンの飛行機で飛ぶ
・だいどころのあまのがわへミルクをとりに行く
・牛乳瓶に飛び込む
・たくさんの同じ顔…


それは架空世界の記号だと思います。


現実で双子以上の、 同じ顔の人を見るのはまれですからね。


いやいや、オーブンで焼かれるなんて… と思いますか?


中途半端な表現よりは、


絶対ありえない、

 

これが肝心です。


極端な表現だからこそ、ワクワク・ドキドキするんですね。



知らないうちに進んでいる時間の行方

 

こねて たたいて かためて のばす


ここはお気に入りのセリフで、 パン作りの楽しさが伝わってくる場面です。


いつも朝起きるとほかほかのパンがあって、 そのパン(ケーキ)はこうして真夜中に作られているってこと。

 

ミッキー どうも ありがとう これで すっかり わかったよ ばくらが まいあさ かかさずに ケーキを たべられるわけが

 

 
さいごのページにかかれている文です。


真夜中というのは子どもにとって未知なる世界。


知らない間に進んでいる、
なにかが起こっている、

そんな世界の不思議を垣間見たいと思うのです。

すべての子どもたちにおすすめです。

眠っている間に、


こんな夢みてるかもしれないよ


って、びっくりさせたいのです。

 


*絵本では【ケーキ】とあるのですが、

 表現が混合してますが、絵本の楽しさは変わりません。

ご訪問ありがとうございます。

絵本の解釈は個人的なものです。

絵本選びのきっかけになればうれしいです。

こころが落ち着くしかけが随所に◆『おやすみなさいおつきさま』は眠るまえに読む絵本

眠る前に絵本を子どもといっしょに読むのは、
昼間あわただしく過ごす大人にとっても安らぎ落ち着く時間です。

 

そんな時におすすめなのがこの絵本。
その不思議なしかけに大人は気づくでしょうか。
きっと子どもたちの方が先に発見するでしょう。

 

おやすみなさいおつきさま

マーガレット・ワイズ・ブラウン 作
クレメント・ハード 絵
せた ていじ 訳
単行本: 36ページ
出版社: 評論社 発行年: 1979年

 

まずは、みどりの部屋に注目をじっくりながめて鑑賞する

(ネタバレですから、楽しみにする方は、この項目とばしてくださいね)
  鮮やかなみどり色と朱色の暖炉のある部屋。 その窓から見えるおつきさま。 絵本は鮮やかな色彩のページとグレーの見開きが交互に配されています。 グレーの見開きでは、「おやすみ」とよびかけるものが大きく描かれ、 カラーの見開きは部屋全体が描かれています。 この絵本の驚きはカラーの見開きのはじめとおわりでは、
へやの明るさがまるで違います。
初めてこの絵本を読んだとき、
だんだんと暗くなっていく部屋の様子に、実は気づきませんでした。 部屋の明るさに気がついた時のショックをよく覚えています。

しずかに進む時の流れを感じてみる

お話は、ひとつひとつのものたちに「おやすみ」を告げて進みます。
カラーのページは、最初明るく夜空は藍色で星が瞬いていますが、 次第に部屋はほのかに暗くなっていきます。
ふたつある大きな窓の左窓から月がみえはじめ部屋に月明かりが差し込みます。 夜空は青く輝いています。 子うさぎはベッドで目を閉じ、
ゆりいすにいたうさぎのおばあさんは姿を消しています。
部屋は人形の家の明かりだけが灯されて、お話はおわります。
おやすみ そこここできこえるおとたちも
「きこえるおとたち」にも
おやすみをいうのは、とても新鮮でした。

 

最後のページからは暖炉の炎の音や、
澄んだ星空の音さえ聞こえそうに思われます。

 

そしてなんとも薄暗くも安らぎを感じる部屋。
部屋にある「おやすみ」をしたものたちが、
子うさぎと眠りについたと感じます。

 

おやすみを告げていくモノたちのストーリーを想像する

この絵本をながめていると、
次々にいろんなことを想像してしまう。
不思議だったのはベッドサイドの丸テーブルに置かれ、 電気スタンドに照らされた
「くし と ぶらし おかゆが ひとわん」
おかゆ食べたの? くしとブラシでみづくろいしたあとで? 具合が悪かったの? 風邪ひいて寝ていたのかな? ぜんぶ食べることできなかったの?
  いろんなことを想像してしまいます。 てぶくろが干してあるから、

 

季節は冬かしら?
暖炉に火もおきてるし、
うさぎのおばあさんが毛糸を編んでいるし、 窓のそとの夜空もたいそう澄み切って見えるからね。

 

壁にかけられた三枚の額に入った絵。 それもみんなかなり大きい絵だし立派な額装。

 

この家の主はきっとお金持ち?
ベッドのそばに虎の皮の敷物があるもの。
それとも画家?
浮かんだ赤い風船は、昼間お祭りにいったのかな。

 

それで風邪ひいちゃったとか?
うさぎのおばあさんが編んでいる緑色の毛糸はセーターかな。
マフラーにしては幅が広すぎるもの。

 

ベッド脇の引き出しの上には、黒電話と本が一冊。
本はこの絵本「GOODNIGHT MOON」。

 

なんという遊び心。 子うさぎもやっぱりこの絵本で眠るんですね

おわりに。雅子さまもオバマ一家も愛読書

皇室の雅子さまが子ども時代に読んだ絵本として、
話題になったこともあります。

 

アメリカのテレビドラマERで、子どもたちがベッドに入り、
この絵本が読まれているシーンを見ました。

 

オバマ大統領家族にも、多くの人に親しまれて愛されている絵本です。

 

ご訪問ありがとうございます。
絵本選びのきっかけになれたらうれしいです。

 

ネコの数を数えてみたい『100まんびきのねこ』自己アピールの方法とは

NHK-BSの番組に
「岩合光昭の世界ネコ歩き」という番組があります。

 

ネコと世界の風景、暮らし、
生活の中のネコの様子、性質など。
成り行きで見ることがあって、
見ているとこれが、おもしろいのです。
ネコのしっぽだけ、目の動きだけに注目したり、
壁や木からおりる姿だったり、
寝ているだけの姿とか、
野生を残していることが、しぐさに見えたり、
実にいろんなネコがいるものだと、
感心してしまいます。

 

どのネコもわが道を行く、
って感じです。

 

ネコって不思議な生き物です。

 

この絵本にはたくさんのねこが描かれています。
とにかくすさまじい数の猫が登場します。

 

白や黒や灰色、まだらやトラ模様といろんな柄の猫が描かれていますが、 モノクロだからこそ猫の量(数)と質(形・柄)が、 圧倒的に迫ってくるのだと思います

 

小学校でも1年生、2年生、3年生によく読みました。

 

たくさんの猫に「うわーっ」と
歓声があがることも。

 

身近なネコのおはなしは、
小さな動物をいつくしむ心も養います。

 

100まんびきのねこ

ワンダ・ガウグ 作
いしいももこ 訳
ページ: 32
サイズ: 26.8x18..cm
出版社: 福音館書店
出版年: 1961年

 

はじまりは、昔話のように

  むかし、あるところに、とてもとしとった おじいさんと、 としとった おばあさんが すんでいました。
わたしたちには、聞きなれたフレーズですね。

 

おはなしは、ガアグの創作なのですが、 どこか古のおはなしかと親しみをもって読み進むことになります。

 

大きな数が示すのは、数の表現のおもしろさ

ふたりだけでさびしい暮らしのおじいさんとおばあさん。 猫が1匹いたら楽しかろうと、おばあさんがいいます。

 

そこでおじいさんが、猫を1匹捕まえにでかけるのです。
丘を越えて谷間を通って長い間歩き、 とうとう、どこもかしこも猫だらけの丘につくのです。
  そこにも ねこ、あそこにも ねこ、 どこにも、かしこにも、ねこと こねこ、 ひゃっぴきの ねこ、 せんびきの ねこ、 ひゃくまんびき、1おく 1ちょうひきの ねこ。
このフレーズは、 お話が進むにつれて幾度となく繰り返される 象徴的なものになっています。

 

タイトルは「100まんびきのねこ」ですが、 本文で「1おく 1ちょうひきのねこ」とあります。

 

ですが、「100まんびきのねこ」の方がしっくりと
しますよね。

 

ものすごい数をしめす記号としての
100まん、であり、
1おく、1ちょうなのです。

 

ものすごくたくさんのねこ、とか
ありえないほどのねこ、
というより
100まんびきのねこ、
のほうが、たくさんいるように感じます。

 

細かな絵の隅々までながめつくす

猫の丘へたどり着く道のりは見開きで、 うねる曲線が、谷や丘、流れる雲、山々の木々や草草を 細かな線で密度高く書きこまれています。

 

右手の方へ歩いていくおじいさんがいて、 家から歩いてきた小道もちゃんと辿れます。

 

雲のまわりに帯状の細かな線は、風の道のようにもみえます。
そして猫の丘。 びっしり並ぶ猫の顔の大群。
おじいさんのまわりには立って
踊っているような猫もいます。

 

それぞれが気ままにいろいろなポーズをとっている猫たち。
その数に圧倒されます。

 

選ぶ基準とはなんでしょう?

おじいさんがその中から1番きれいな猫を連れてと、
猫の品定めをはじめます。

 

まずは白い猫を拾い上げますが、 すぐ白黒の猫が目につきます。
さらにふわふわした灰色の猫まっくろの猫、 茶と黄の虎の子のような猫と、
あたりをみまわすたびにきれいな猫をみつけて、
知らぬ間にそこにいる猫みんなを連れて帰ることになるのです。

 

あらあら。

 

さあ帰り道が大変です。何百万もの猫の大行列。

 

途中、池のそばで
  「にゃお、にゃお、のどが かわいたよ」と ひゃっぴきのねこ、 せんびきのねこ、 ひゃくまんびき、1おく 1ちょうひきの ねこが いいました。
どの猫も、ぴちゃ ぴちゃ とひと舐めずつすると、 池の水はなくなってしまったのです。

 

その後、「おなかがへった」と野原中の草もなくなってしまうのです。
おじいさんはこの時、考えなしに猫を全部連れて帰ります。
きれいな猫がほしい、というおばあさんの望みを叶えたかったのでしょう。

 

次々とかわいい、きれいな猫を見るうち
「1ぴき」はぬけ落ちてしまったのですね。

 

なにかを選ぶ時、
デザインに目をとられサイズを間違えたとか、
案外思いあたります。

 

100万匹のねこを連れて帰ってきたおじいさんに びっくりするおばあさん。

 

おばあさんは、こんなにたくさんの猫にごはんはやれない、 といいます。おじいさんときたら
「ああ、それには きがつかなかった」
「どうしたら いいだろう」
そして、しばらく考えたおばあさんは、
「どの ねこを うちに おくか、ねこたちに きめさせましょう」 「それが いい」
とおじいさんは、猫たちに聞くのです。
「おまえたちの なかで、 だれが いちばん きれいな ねこだね?」
すると猫たちは、
「ぼくです」「わたしです」
と自分が一番の猫だと、けんかをはじめて大騒ぎになります。

 

家の中に逃げ込んで様子をみているふたり。 しばらくすると静かになり外をのぞくと、猫が1匹もいなくなっているのです。
「きっと、みんなで たべっこして しまったんですよ」 「おしいことをしましたねぇ」
とおばあさん。

 

ところが、すみっこに
皮ばかりで痩せこけた小さな猫がいたのです。
この猫は、自分が一番きれいだと言わなかったのです。

 

だからだれにもかまわれず生き残ったというのです。
おじいさんとおばあさんは、 その猫の世話をしてだんだん可愛らしい、 まるまるとした猫になるのです。

 

消えちゃった猫たち、ちょっと可哀想…
これは、むかしむかし のおはなしですから、
  理不尽さや不思議はおはなしのスパイスと思いましょう。  

せかいじゅうでいちばん、ということ

自分が一番きれいだと
自己主張し争った猫たちは、 互いに食べあって消えてしまいます。

 

おじいさんたちにとって、 残りものには福がある、結果になっています。

 

食べあって1匹を残していなくなった猫。
この1匹を残すためにも、 100万匹というとてつもない数の猫を登場させる必要があるのでしょう。

 

数はその世界をその世界らしく形にする重要な要素です。

 

10匹や100匹では、このお話は成立しないのでしょう。
100万というありえない数の猫だから、 食べあって消えてしまうこともあり得る、と納得できるのです。

 

最後の見開きでは、おじいさんとおばあさんは、 ふかふかになった猫とともに過ごす日々を得て満足そうです。

 

丸テーブルを挟んでふたりともゆり椅子に腰かけ、 おじいさんはパイプをくゆらせ、おばあさんは編み物をしています。

 

おばあさんの毛糸玉が床に転がっていて、 じゃれる猫がいます。おばあさんは、
  「このねこは、やっぱり とても きれいですよ!」
といい、おじいさんはこう返すのです。
  「いや、 この ねこは、せかいじゅうで いちばん きれいな ねこだよ。 わたしには、ちゃんと、 わかるんだ。 だって わたしは、 ひゃっぴきの ねこ、 せんびきの ねこ、 ひゃくまんびき、1おく 1ちょうひきの ねこを みてきたんだからねぇ」
そしてもう一ページめくると、丸まって眠っている猫の絵。

 

ガアグの描く猫はどれもかわいらしく、
生き生きしています。

 

この絵本の見返しには、
地色が黄色、朱色一色で猫が描かれています。

 

本文のモノクロに対して、
じつに目に鮮やかです。

 

パターンは2つ。後姿で振り向いている猫と、 2匹の猫がバスケットのようなものの中で、 頬よせあっている猫のシルエットが、 丸いモチーフと草木をあしらったパターンで、
見開きいっぱいに描かれています。

 

ご訪問ありがとうございます。
絵本選びのきっかけになればうれしいです。

 

帰るべき場所がある喜びを実感する『あくたれラルフ』理解者がいる安心感

色鮮やかな絵本はながめているだけで心が浮きだちますね。
ご紹介する絵本は、とびきりカラフル!!
 
絵もおはなしも思いっきりデフォルメがきいています。
その突飛な場面がホントだったら、楽しい、に変わる
そんな絵本です。
 
就学前の子どもたちから小学校3年生くらいまで
幅広く読み聞かせできます。
 
「なまごみねつ」に罹ってしまうラルフ、
この「なまごみねつ」に3年生などは食いついてきますね、

 

どんな熱なの?と

 

訳は石井桃子さんです。
実直に、わかりやすく、空想しやすく
絵の邪魔にならない、いつもながらすてきな翻訳です。

 

あくたれラルフ

ジャック・ガントス 文
ニコール・ルーベル 絵
いしい ももこ 訳
大型本: 46ページ
サイズ: 23x21.4cm
出版社: 童話館出版
出版年: 1995年

にぎやかな部屋でのあくたれになってみる

ひまわりとチューリップのにぎやか壁紙が印象的な部屋。 とてもモダンな印象を受ける絵本です。色も多彩で明快、床や壁など大きな面は水彩で塗られているのか、 色むらが絵にリズムをもたらしています。
 
吊り上った大きな目、口も大きく、 ひげはピンと長くのびて毛並みもちょっとゴワッとしていそうな猫のラルフ。
まさに「あくたれ」を絵にしたよう。 けれど不思議に憎めない愛嬌のあるキャラクターになっています。
 

あくたれだけど憎めない、家族の温かいまなざし

いたずら大好きラルフを見守る家族の眼差しは温かです。
仕方ない猫だなぁ、といったところでしょうか。
基本的に「あくたれ」より「すき」が勝っている様子がわかります。
 
サーカス場でのひと騒動、 セイラに見つけてもらったラルフは、
帰る場所があることに安堵します。
 
そして最後にエビを頬ばりながら、 ほどほどの「あくたれ」が
許される場所にいられる幸せを味わっているのでしょう。
 

にぎやかな部屋で想像できること

ラルフのお話と絵は、ユニークな言葉とともに
この絵本らしさになっています。
 
人物や動物、草花、建物・家具・調度品にいたるまで、 そのポーズや動きなどすべてがデフォルメされて描かれておおり、 動物もバランスが崩れているように見えます。
 
けれど不思議に違和感は感じられません。
あのラルフを描くなら、背景や小道具も、ラルフ仕様。
 
それが絵本全体を貫いて描かれていますね。
 

カラフルな中にスキという気持ちをこめて

色使いもとにかく派手
一つの場面に少ない時でも十色、
多い時は三十色以上が使われています。 このカラフルさがこの絵本のわくわく感になっています。このお話は冒頭の
あくたれでも、セイラは、ラルフが すきでした
につきるのですね。
 

時には思いっきり子どもを自由にさせてみましょうか

息子が子どもだったころ、びっくりしたことをいくつか。
 
3歳、雨の中を、裸で駆けまわる
4歳、雪の中私をさがして、1度しか行ったことがない場所へ一人でやってきて、肝を冷やした
5歳、ブロックのレゴが好きで、何時間も熱中
3歳、ブナ林に行くとスイッチが入ったように駆け回りはじめた
4歳、新雪が降ってその雪を思いっきり頬ばってニッコリ
4歳、タンポポの綿毛飛ばしをはじめ、綿毛の中に埋もれるくらいまでやってた
3歳、夏、祖父と蝉取りに出かけたら小さなかごに20匹ほど捕まえてきた
5歳、シャボン玉を飛ばしていたが、そのうち地面にシャボン玉ドームを作った
6歳、ホットケーキのデコレーションに凝って3日連続作った
7歳、あやとりにはまり、15段梯子までつくる
9歳、枝雀落語の「代書」のDVDを見て涙を流して笑い転げた。
(枝雀落語のあるだけのCDを録音。3年間晩ごはんの時と寝ながら聞いていた)
 
ラルフほどのやんちゃはしませんでしたが、思い出すと笑えます。
ご訪問ありがとうございます。
絵本選びのきっかけになればうれしいです。

 

五感で感じる秋をあじわう『きんいろのとき』はハロウインに読みたい

秋は彩豊富な季節ですね。
空の色や景色もどんどん色が変わっていきます。
 
紅葉で色が変わっていく楓をみたり、
空の水色が空気が冷たくなってクリアになっていく、
そして、大好きなカボチャやサツマイモをほおばる、
そんな秋が大好きです。
 
きんいろのとき
アルビン・トレッセルト 文
ロジャー・デュボアザン 絵
えくに かおり 訳
大型本: 24.8 x 19.8cm
出版社: ポルプ出版
出版年: 1999年
 

秋色満載の絵をたのしむ

表紙を彩るのはハロウィンのカボチャに代表される秋の色、小金色。
両手に抱えたカボチャが豊かな秋を象徴しています。
 
見返しにも線画で描かれた収穫の数々。
右ページには秋のさまざまな景色。
 
左ページには額のようにまわりをとりかこむモチーフの絵が描かれ、
その中に文が書かれています。
 
額に描かれるのは、
輝く麦の穂の、黄金色
森の中のどんぐりは、ベビーピンク
りんごの収穫を大きな荷台に積み込む様子が描かれる、
夜の家がシルエットで浮かぶ、グレー 月夜の真っ青な空に踊るカボチャのおばけは、ピンク
 
色彩がクリアで明るい印象、黒の線と面が際立ちます。
どのページも豊かな色の饗宴がみられます。

丁寧につづられる日常の情景描写

 
おはなしは、遅い夏から始まります。
自然を五感で感じて、綴られています。
 
秋へのゆるやかな季節の流れが、
収穫の畑で、ちゃぐ ちゃぐ ちゃぐ、かた かた かた
楽しい音とともに、耕運機が忙しそうに動いています。
 
子どもたちが行きかう森の中は、
野ネズミやリスがあわただしく秋の実をついばみます。
 
家のまわりや庭には、
ユキヒメドリやゴジュウカラが収穫の後にあらわれます。
そして家の中、
大きな四角いテーブルに真っ白なテーブルクロスを整え、
準備に賑わいます。
 
10人もの人が描かれ、それぞれに忙しい、感謝祭なのです。
 
この絵本の副題は、「ゆたかな秋のものがたり」。
静かに流れる時を絵本とともに過ごせます。
 

おわりに。カボチャは栄養満点、万能野菜

収穫の喜ぶは万国共通なのだと、
絵本を読んで、あらためて思いました。
 
淡々と綴られる情景から秋を十二分に感じられます。
 
カボチャは近年のハロウィンで、
すっかり秋の食材のイメージですが、
夏の間もぐんぐん育っておいしくいただける野菜です。
 
お惣菜にも重宝しますし、
スイーツならパイやプディングにしても、
とにかく使い道に困ることはありませんね。
 
ご訪問ありがとうございます。
絵本選びのきっかけになればうれしいです。
 

『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』はひとりで何でもやりたがる時期に読んでみたい

子どもの頃、汽車を見ると必ず手を振りました。
とても親近感をもてる、大きくて力持ち、
たのもしい乗物です。
 
今なら新幹線でしょうか。
電車好きはいくつになってもやめられないよう。
 
アメリカが舞台の機関車が主人公のロングセラー絵本です。
 
大きな絵本なので読み聞かせにも最適でした。
小学1年生や2年生に読むと、目をキラキラさせていましたよ。
 
いたずらきかんしゃちゅうちゅう
バージニア・リーバートン 作
むらおか はなこ 訳
ハードカバー
サイズ: 30.6x22.4cm
出版社: 福音館書店
出版年: 1961年
 

力強いパステルで描かれる機関車に乗った気分になる

パステル画のような陰影で描かれた迫力ある大判絵本です。 どの場面を切り取っても躍動感あふれる人物と景色があらわれます。
特にきかんしゃ、ちゅうちゅうが疾走するするシーンは 迫力満点です。黒の濃淡で描かれた絵は蒸気機関車を よく伝えています。
吐き出す煙がもくもくと描かれ 昼と夜のコントラストも余計に際立って見えます。 文字の配置が線路?煙?のようにうねっていたり 斜めに行頭がそろっていたり、 場面ごとにリズムが感じられます。

ひとりならもっといいことあるぞ、は本当か?

黒くてピカピカの機関車ちゅうちゅうは、
いつものように小さな町から大きな町へ客車をひいて、
行き来していました。
 
ある日、ふと自分ひとりならもっと早く走れて、みんなの注目も得られる、と
ひとり走り出すのです。
 
自由に走り回るちゅうちゅう、
ぶつかりそうになったり、跳ね橋を飛び越えたり、
大きな操車場に迷い込んだり、道(線路)に迷ったり、
しまいにぼろぼろになってきて、薄暗いところで止まってしまいます。
 
心配した機関紙たちが、最新の記者でちゅうちゅうを探索、
無事に連れて帰ることができるのです。
 
ちゅうちゅうがあれこれやってみて、 最後に自分なりに考えます。
好き勝手にやってもいいことはさほどなかったな…
いつものように喜んでもらえる、いつもの仕事をしようと
最後に、優しい煙を吐きながら夜空を落ち着いて走る姿に ちゅうちゅうの満足感が見えました。
 

翻訳は『赤毛のアン』の村岡花子さん、装丁や文字配置も注目

見返しは優しいパステルカラー。 街全体が柔らかに広がっています。
 
そのコントラストも魅力です。
翻訳が『赤毛のアン』の村岡花子さんです。
息子が子どもの頃たくさん読んだに気が付きませんでした。
作者のバージニア・リーバートンさんのデビュー作です。
機関車好きの長男のために書いた絵本で、アメリカでは1937年に出版されています。
バートンさんは『ちいさいおうち』や『せいめいのれきし』で日本でもファンの多い作家です。
 
日本は1961年が初版ですから、半世紀以上、
長く読まれている絵本ですね。
ご訪問ありがとうございます
絵本選びのきっかけになればうれしいです。

 

『ちいさなヒッポ』こうありたい親子の信頼関係

カバの大きさはいつ見ても圧倒されます。
いつも、なんて大きいんでしょ!!
と。
 
息子が子どもだったころ、
動物園に行くことが、何度かありました。
象も大きいですが、足も長めで、目線が上にあるせいか、
カバほど、大きい!という印象を受けないのです。
(もちろん大きいんですが)
 
カバは目線が平行にあるせいなのか、
目の前にたつと、自然と後ずさりしてしまいます。
 
子どもの目に、あの大きさは、
どんなふうに映っているんでしょうね?
 
ちいさなヒッポ
マーシャ・ブラウン 作
うちだ りさこ 訳
ページ: 36
サイズ: 23.8x23.6cm
出版社: 偕成社
出版年: 1984年

 

ヒッポは英語でカバのことです。
原題は『HOW HIPPO!』。
 
大きなカバの親子のおはなしで、
子どものカバが、ちいさなヒッポ、なんですね。
 
目を引くのは木版画で描かれた絵です。
使われている色は、
主にカバの濃紺と、背景とカバの口の中の赤、
そして背景のや植物のオリーブ色のほぼ3色です。
 
どの色もかすれて淡い色合いとなって、
カバのように大きな動物を描いても、
場面が重くなりません。
 
カバの開いた口の赤が、その大きさをよく表していますね。

おやこに通じるだいじなことばを持つこと

おはなしは、
カバのおかあさんの背中にのったヒッポの姿からはじまります。
生まれた時から、おかあさんの側を離れたことがないヒッポです。
 
すべての見聞きするものが珍しいヒッポです。
ある日、ヒッポがカバの言葉を覚える時がきました。
「グァオ、ヒッポ」と、まず
おかあさんが ほえてみせます。
「グッ グッ! グァオ!」と、
ヒッポが くりかえします。
「グァオ、こんにちは!」
「グッ グァオ、おんにちは」
「グァオ、あぶない!」
「グッ グァオ、あぶらい」
「グァオ! たすけて!」
「グァオ たっけて」
「いいかい、ヒッポ、グァオが
とても だいじなのよ」
ヒッポのたどたどしさから、幼さが伝わりますね。
 
おかあさんの側にいながら、
生きる術をいろいろ体験しながら教わっていきます。
 

大事なことばが役立つとき

ある日、大人のカバたちが眠っているときに、
ヒッポは、ひとり遊びに出ます。
 
そこで、ヒッポは静かに近寄ってきた、
ワニに襲われるのです!!
しっぽを噛みつかれて引き落とされそうになったその時、
「グッ グッ グァオ!
たすけて!
とヒッポは叫びました。
そこへあらわれたおかあさんカバの勇猛なこと。
 
ワニの胴をガブリくわえて、ほうり投げました。
カバの口のなんと大きいこと!!
 

「グァオ!」は母と子をつなぐことば

 
助かったヒッポにあらためて、
どんなときでも「グァオ」叫ぶように、さとされるヒッポ。
最後にようやく
「グァオ!おかあさん!」
とちゃんと、いえるようになったヒッポです。
 
親に対する絶対的な信頼感と
子どもを絶対に守りたいという母心が感じられます。
 
絵本を見ていると、
 
砂地で重なり合ってひなた水に浸って眠る、
涼しいひぐれになってから動き出す、
食べ物さがしに夜に活動する、
 
など、カバの生態がきちんと描かれています。
小学校の1年生、2年生に読みましたが、
「グァオ」のヒッポの言い間違える部分に、
子どもたちから笑いが起こる絵本です。
 
自分はあんなふうに、間違えない、
ちゃんと言えるぞ、と。
 
子どもの成長を感じさせてくれる絵本でもありますね。
ご訪問ありがとうございます。
絵本選びのきっかけになればうれしいです。

 

向こうみずの行き先は…◆『ちいさなふるいじどうしゃ』

子どもたちは動くものが大好き!!
自動車は最も身近な動くものです。
そんな自動車が自分で動き出して
てんやわんや…さて顛末は。
 
ちいさなふるいじどうしゃ
マリー・ホール・エッツ 作
たなべ いすず 訳
単行本: 40ページ
サイズ: 26.8x21.6cm
出版社: 冨山房
発行年: 1976年
 

決めセリフが大好きな子どもたち

ぼくはいやだ!そんなことはおことわりだ。まっててなんかやるもんか!
この絵本の決め台詞。
とにかくなんでも、いやだ!いやだ! なのです。
 
運転手さんがちょっと待っていてくれよ、
というのも聞かず、走りだします。
 
道路を走っていると道を横断しようようとする、
カエル、ウサギ、アヒル、ウシ、お百姓のおばさん、
と次々にに遭遇します。
 
ちょっと待ってておくれ、とみなが言いますが、
お構いなしに走り去って、みなを蹴散らして。
最後に出会ったのは踏切を渡ろうとする機関車。
やっぱり、いやだ! と走って、
ぼっかーん!がっしゃーん!
こなごなになった、ちいさなふるいじどうしゃ。
駆けつけた運転手さん。
 
がらくたになってしまった、ちいさなふるいじどうしゃは、
お百姓のおじさんに拾い集められて、
跳ね飛ばされた動物たちの家なったり、ブランコになったりと、
みんなの役にたちました。
 

子どもたちは、向こう見ずの行き先を考える

このおはなし、教訓めいた風にもとれますが、
それよりも、きかんぼのじどうしゃが、
いやだ!いやだ!と好き勝手する、
そこにちょっと爽快感を感じます。
 
機関車に突っ込んだら、こなごなにになると、わかってか知らずか、
最後まできかんぼを押し通した、じどうしゃの向こうみずな所も
本当はそんな風にしてみたい、
 
ダメだとわかっているけれど、そうしたいんだ
 
という気持ちをじどうしゃが、代弁しているように感じました。
 
その意志の強さ、
あるいは妥協することができなかった、ちいさなふるいじどうしゃの性格、
したくないことは絶対しなかった、ちいさなふるいじどうしゃの末路を
子どもたちはどんな風に感じるのでしょうか。
 

子どもたちは何を感じる?

ちいさなふるいじどうしゃ』は息子がかなり好きな絵本でした。
 
手元にある絵本はところどころよれたりして、
一度よんでもすぐに「もういっかい」と
リクエストされました。
彼にとって何がそんなにお気に入りだったのでしょう。
いつか聞いてみようと思います。
 
学校の朝読書でもギャング世代といわれる、
3年生によく読みました。
 
最初は面白そうに聞いていますが、
最後にこなごなになった自動車のおはなしが終わると、
ちょっと、きょとんとした顔をしている子が多かったです。
 
子どもには、いやだいやだ、の自動車くんがどう映っていたのでしょう。
 
まさに、そこに何を感じるのかを楽しむ絵本といえましょう。
 
ひとりひとりがそれぞれに感じる体験が大切なのですね。
 
ご訪問ありがとうございます。
絵本選びのきっかけになればうれしいです。

 

人の一生とは…『神の道化師』はクリスマスに読みたい絵本

この絵本は小学6年生によく読みました
読み終えると、
シーンと不思議な緊張感が残っていたように思います。

 

クリスマスの本当の意味を知る意味でも読んでほしい絵本です。

 

神の道化師

トミー・デ・パオラ 作
ゆあさ ふみえ 訳
サイズ: 28x21.8cm
出版社: ぽるぷ出版
出版年: 1980年

 

表紙で七色の玉をジャグリングしている
道化師ジョバンニの一生を綴った絵本。

 

パオラの陰影に富んだ色彩と明確な線は
独特の世界を醸し出しています。

 

特にラスト近く教会に向かうジョバンニを描いた
見開きは圧巻です。

 

キリストに捧げる大道芸、ひとりの人生をじっくりあじわう

子どもの時からものをくるくる回すのが得意で
生きていく術を見つけます。

 

街から街へ、市井の人から公爵や王子さまに
技を見せて拍手喝采、国中を渡り歩く生活を続けます。
そのジョバンニも歳をとり、ジャグリング芸も飽きられてしまいます。
そして芸をあきらめ生まれ故郷に戻って、教会へたどり着きます。

 

ちょうどクリスマスの日で、なにも捧げものがないジョバンニは

むっつりとしたキリスト像の前で芸を披露するのです

 

そして息絶えたジョバンニ。
キリスト像は微笑んでおはなしはおわります
このお話で
  • 大道芸人として生きたひとりの人生
  • 自分のできることで懸命に生きること
  • 誰かに喜んでもらうことの尊さ。
物悲しさも残りますが、
ジョバンニは最後に満足していたように感じます。

 

「老いと死」を絵本の物語をとおして感じる

この絵本は主人公が老いて死んでしまうという、
結末になっています。
 
子どもたちは核家族化で人の死に対面することが、
少なくなっています。
ですが、それを絵本で知ることで、
おはなしの中で子ども自身が知ることができます。
 
静かで清らかな絵のつくり、
クリスマスにこそ、一緒に読みたい絵本です。
大切なお友だちに、その子どもたちに
贈るのもよいと思います。
 
クリスマスにまつわる絵本はすてきな作品がたくさんあります。
しっとりとした清々しい気分になるおはなしです
 
賑わいをみせるクリスマスですが、
キリスト教を信仰するの国々では、
家族でゆっくり過ごすことが多いようです。
 
贈った人、贈られた人にとって、
大切な絵本となることを願っています。
 
ご訪問ありがとうございます。
絵本選びのきっかけになればうれしいです。
 

りんごと過ごす四季の移ろい『りんごのき』

いまは一年中みかけるりんごですが、
やはりおいしくなるのは、収穫の秋ですね。
収穫の時期、いちばんおいしくいただけるのが旬です。
 
そんな収穫を心待ちにりんごの世話をしながら、
四季はめぐります。
 
この絵本で、収穫を待つという楽しみを知ることでしょう。
 
りんごのき
エドアル・ペチシカ 文
ヘレナ・ズマトリーコバー 絵
うちだ りさこ 訳
単行本: 28
サイズ: 18x17.6cm
出版社: 福音館書店
出版年: 1972年
 

木のまわりの自然の変化を感じる

そこから見えるりんごの木に目をとめたマルチンが、
りんごの木とまわりを観察しながら、季節を過ごしていきます。
 
雪解け、そして春に美しい花をさかせ、ミツバチが群れます。
 
夏、葉はぐんぐん生い繁り水やりに忙しい。
 
秋、実ったりんごが熟す時を心待ちにするマルチン。
 
りんごの木の冬春夏秋を、マルチンがみまもります。
 
収穫の嬉しさが、
最後にりんごを大事そうに持って家に入ってくる、
明るいマルチンの笑顔がすべてですね。
 

チェコ発、動植物の造形をたのしむ

この絵本は福音館書店の(世界傑作絵本シリーズーチェコの絵本)です。
 
世界のさまざまな国の絵本を紹介しようという試みは素晴らしいです。
 
作者のふたりは、チェコスロバキア出身です。
文を書いたペチシカはプラハ生まれ、カレル大学文学部で博士号を取得しています。
雑誌の編集に携わるかたわら物語や記事を書いています。
 
絵のズマトリーコバーもプラハ生まれ。
15歳の時から新聞の挿絵を描いていましたが、限界を感じて
その後絵本の制作を始めます。
以後、子どもの本を描き続けています。
 
チェコらしさ、というか『りんごのき』らしさ、
をどのように、とらえたらよいのでしょうか。
 
絵をよく見ると、
木の葉や草花、それらはどこか丸みをおびて、統一的。

 

雨や風の表現、それらは線というより立方体で表現されているよう。
登場する猫や犬ハリネズミ、それらは毛の表現が大仰、長い。
煙突から出る煙と浮かぶ雲、それらは密度が高い。
 
やはり見慣れた日本の表現とは一味違うようです。
そして、それが海外の絵本を読む、楽しさでもあります。
 
軽やかな色彩と明快な輪郭線が印象的な絵本です。
 
ご訪問ありがとうございます。
絵本選びのきっかけになればうれしいです
 

『エルマーのぼうけん』絵本から物語世界への移行期に最適

この本は6歳の時、息子ががたいそう気に入って、
1日に2回3日続けて読んだ本です。
とにかくおもしろくて、おもしろくて仕方なかったのでしょう。

絵本ではなく幼年童話、というのでしょうか。
絵本は絵と文の割合が、ほぼ1:1ですが、
この本はその割合が、(絵)1:2.5(文)
くらいでしょうか。

 

絵本から文字の多いおはなしを読むようになる
子どもたちには最適な本です。

 

エルマーのぼうけん

ルース・スタイルス・ガネット 作
ルース・クリスマン・ガネット 絵
わたなべ しげお 訳
ペーシ: 128
サイズ: 21.2x15.2cm
出版社: 福音館書店 出版年: 1963年

 

モノクロですが挿絵もふんだんに差し込まれています。
石版画のような質感の柔らかい絵、輪郭線を感じません。
 
ご覧のように表紙は、朱と緑が印象的なもの。
ランドセルバッグを背負ったエルマーに、
 
どんな冒険が待っているのでしょう。
期待感が高まります。

 

エルマーの物語は設定がきちんとしている

ものがたりの内容は、 歳をとった野良猫から、
どうぶつ島に捕えられている
かわいそうなりゅうの子の話を聞きます。

 

エルマーはそのりゅうの子を助けに出かけるのです。
島に住むとら、さい、ライオン、ゴリラたちを見事な計略で、
りゅうの子を助けだします。

 

どんな風に助け出すのかは読んでのお楽しみです。
見返しには、龍が捕えられているどうぶつ島と、
エルマーが最初に辿りついたみかん島の地図が記されています。
こういうのがいいですよね。
ちゃんと物語世界にリアリティを与えています。

 

海の水色もきれい。
島の細かい様子も書いてあります。

 

続編を読むたのしみ

エルマーのおはなしは3部作になっています。

 

2作目の「エルマーとりゅう」は、
助け出したりゅうに乗って戻る途中、
嵐に合って小さな島におりました。

 

 

その島はカナリヤたちの島
カナリヤの王さまカン11世は、知りたがり病にかかっていて、
エルマーが見事になおして、たくさんの宝物をもらうというもの。

 

表紙の黄色い輪になったカナリヤがユーモラスですね。

 

3作目は「エルマーと16ぴきのりゅう」。
エルマーは無事りゅうの子をわが家に連れ帰りますが、
15匹のりゅうの子の家族は、人間たちに洞穴に閉じこめられていたのです。

 

りゅうの子とともに家族を助け出すために奮闘します。
どれもこれも、とてもワクワクします。

読み聞かせにおすすめのエルマー3部作

エルマーの3部作は抜群に面白く、
絵本からむりなく読み進めることができます。

 

文章の多いおはなしは、
読み聞かせできないと思っていませんか?

 

この物語は、126ページありますが、
声に出して読んでみると、
40分ほどで読めます。

 

読み聞かせに小学通っていた、
小学校の朝読書の時間は15分でした。

 

3日に分けて読むことができます。
ほかにも、グリム童話やドリトル先生シリーズを、
1週間かけて、
5年生や6年生に読んだことがあります。

 

物語に力のある作品は、読み語りも十分可能です。
息子も小学校へあがる前に読み始めましたが、
絵本と同じように楽しんでいました。

 

もちろんその後も絵本はたくさん読みましたし、
文章の多い本も抵抗なく読んでいました。

 

ご訪問ありがとうございます。
絵本選びのきっかけになればうれしいです。

 

『シナの五にんきょうだい』で思い切り奇想天外を楽しむ

小学校に読み聞かせに行くようになって、
保護者有志で読み聞かせの会を作りました。
 
集まったのは10名ほどでしたが、
小学校にきょうだいで通っている保護者は半分ほどでした。
 
さらに3人以上の兄弟がいるという人は数人。
大家族、大勢の兄弟は珍しいものになっていますね。
 
ご紹介するのは、5人兄弟のおはなしです。
 
小学校の3年生に読んでいると、
「こんなのありえなーーい」
「凄すぎるでしょ」
なんて声が聞こえてくる絵本ですよ。
 
シナの五にんきょうだい
クール・H・ビショップ 文 クルト・ヴィーゼ 絵
ページ: 46
サイズ: 26.2x18.4cm
出版社: 瑞雲社
出版年: 1995年
 

黒とみかん色の2色で描かれた絵の意味は

表紙を開くとタイトルにある5人兄弟が、
ずらりと1列に横向きで並んでいます。
同じ顔、同じ体格、同じ服装で、
海の方を向いて立ち手をおへその前で組んでいます。
黒のちょっと太めの線で絵が描かれ、
みかん色でところどころ彩色されています。
 
絵本が出版され始めたころは、
2色刷りの絵本がありました。
 
制作予算と材料の都合でしょうか。
この絵本の初版は1938年です。
 
このおはなしは、
そっくりなきょうだいが自分の特技を生かして、
難を逃れるというもの。
 
2色の世界、まったく同じ顔の5人が示すように、
突飛な設定は、
おはなしの世界への扉なのだと思います。
2色で描かれた世界を、子どもたちは目にすることはありませんからね。
 

降りかかった災難を五にんきょうだいの特技でやりすごす

むかし シナに 五にんの きょうだいが いました。 五人は そっくりな かおを していました。
こうして、おはなしは始まります。
 
1番上のにいさんが、ひょんなことから
捕らえられ裁判によって処刑されることになったのです。
 
それを、顔のそっくりなきょうだいたちが、
入れ代わり立ち代わり処刑をかいくぐります。
 
海の水を飲み干すことができる1番目のにいさん。
鉄の首を持つ2番目のにいさん。
脚をどこまでも伸ばすことができるのが3番目のにいさん。
燃えない身体を持つ4番目のにいさん。
息をいつまでも止めておくことができた末っ子。
 
いくら処刑しようとしてもできないことに、
裁判長は、無罪だから処刑できないのだ、
と判断を下し、村人も賛同します。
 
最後のページは、
そして シナの五にんきょうだいと おかあさんは
いつまでも しあわせにくらした ということです。
ああ、よかった」と思える最後は、
子どもの本ではとても大切なことです。
 

単純にたのしむ、ちょっと深読みしてみる

 

描かれている五にん兄弟は、
そっくりで五つ子のようです。
 
人は見た目も一緒だと、
同じように思いがちですよね
 
シナの五にんきょうだいは、それぞれに特技があって、
それぞれに違うのだな、と気づきます。
 
特技は性格といっていいかもしれません。
その特技も生かせる時も違うということです
 
五にんきょうだいもそうでしたね。
 
海に投げ込まれたのが、
燃えない体の4番目のにいさんでは助からなかったでしょうからね。
 
子どもも同じかな、と思いました。
 
兄弟でも、お兄ちゃんができることは、
弟もやっぱり同じようにできて当然、って思いがちです。
 
でもそうではなく、
特技(性格・個性)が生きる時がちゃんとある
そんな風に思わせてくれます。
 
お話をただ単純に、
 
水を含んで我慢するすごい顔が4ページもある、とか
燃えない体ってすごい、とか
海に放り込まれて足がぐんぐん伸びるなんて便利、とか
泡だったたまごにつつまれてかまどにいれられるって、とか
 
ありえそうにない不思議なことに、びっくりする。
おはなしの世界に入り込めたら、
それで十分楽しめ、
子どもの心を豊かにしてくれます。
 
ご訪問ありがとうございます。
絵本の解釈は、個人的なものです。
絵本選びのきっかけになれたらうれしいです。