深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

『ピーターラビットのおはなし』自然のありのままを学ぶ小さな絵本

青い服を着たうさぎの「ピーターラビット」

 

その愛らしい姿を、食器や雑貨などで、
多くの人が目にしているのではないでしょうか。

 

キャラクターとして知られた存在にもかかわらず、
意外にそのお話を知っている人は少ないのではないでしょうか。

 

 

それぞれのおはなしの主人公は猫やねずみ、キツネにカエル、
どれもよく知る動物たちです。

 

小さな手にすっぽり収まるサイズは、
子どものために書かれた本であることがわかります。

 

小さい絵本で絵も小さいので、
おはなしだけ、
4年生から6年生に読むこともありました。

 

シリーズの絵本の中には、
第2集 6『こわいわるいうさぎのおはなし』
など、数分で読み聞かせられる絵本があって、
2歳半らいから楽しめるおはなしですが、
時間があまった時など、2冊目として読むことがあります。

 

小さい絵本なので、児童がみんなぎゅっと集まって、
見入るのも、楽しい体験です。
小さいからこそ、
余計に見ようとしてくれているようでしたよ。

 

ピーターラビットのおはなし

ビアトリクス・ポター 作
いしい ももこ 訳
ページ: 55
サイズ: 14.2x10.6cm
出版社: 福音館書店
出版年: 1971年

 

「ピーターラビットの絵本」シリーズとして、
日本では1971年に発行されました。
3冊セットで第7集まで出版されていて、
21のおはなし があります。

 

『ピーターラビットのおはなし』
第1集 1番目のおはなしです

ポターが描くピーターの世界を一緒に探検しましょう

このシリーズに描かれる動物の姿は、
実に写実的で、いきいき動きまわっています。

 

動物たちや自然をずっと丹念に観察し続けてきた、
ポターらしい絵本です。

 

絵本としては55ページとかなりのボリュームです。
見開きで必ず片側が文章とそして対となる挿絵の構成になっています。
挿絵はページ前面に配されてはおらず、
多くはその3分の2ほどのスペースで枠もなく
優しい色彩で白い紙に浮き出たように描かれています。

 

この絵本に書かれた挿絵の数は26枚になります。
見開いた時の文章も多くて14行ほどで少ないと4行程度です。
読んでみると、
挿絵と見事に対応した文章が、
リズムよく展開していきます。

 

ポターの描くピーターラビットの世界は実に不可思議です。

 

人のように当たり前に衣服を着用する動物たちは擬人化されているようですが、
その世界のみで完結しているわけではないように思われます。

 

そのお話には人間も介在してきて、重要な役を演じてさえいます。
通常、擬人化された世界ならば服を着て話をしようが、
人間と同じような生活様式をとっていても不思議と感じません。
その世界がそれで閉じているのですから。
けれどポターの世界はどこか違っているよう感じられるのです。

 

おはなしに登場するのは、4ひきのうさぎたち

『ピーターラビットのおはなし』は、
大きなもみの木の巣穴に住む、
おかあさんうさぎと4ひきの小さなうさぎたちのある日のおはなしです。

 

うさぎたちの名前は、
プロプシーにモプシーにカトンテールにピーター
ある朝、おかあさんは子どもたちをこんなふうに送り出します。
「さあ おまえたち、野はらか 森のみちで あそんでおいで。
でも、おひゃくしょうのマグレガーさんとこのはたけにだけは
いっちゃいけませんよ。
おまえたちの おとうさんは、あそこで じこにあって、
マグレガーさんのおくさんに肉のパイにされてしまったんです」
だから気を付けるようにと。
のパイにされたおとうさん、なんだか妙にリアルです。
この一文を読んだときピーターラビットの世界は私にとって、
お話の世界ではなく現実の世界になりました。

 

平然とそれを語るおかあさんうさぎも聞く小うさぎたちもリアルです。
ピーターたちを送り出したおかあさんは買い物へでかけます。
買い物かごにかさ、頭巾をかぶり赤い肩掛け、すごくおしゃれです。

 

さて、プロプシーたちはいいこでしたから、
森でくろいちごをつんでいました。

 

ピーターはいたずらっこでしたから、
いちもくさんにマグレガーさんの畑にでかけ、
木戸の下からもぐりこむのです。

 

レタス、さやいんげん、はつか大根を食べ、
胸がむかむかしたピーターはパセリを探しにいきます。
(パセリは胸やけに効くんでしょうか)
ピーターはその時、
きゃべつの苗を植えているマグレガーさんに遭遇します。

 

たがいにびっくりするマグレガーさんとピーター

 

必死に追いかけるマグレガにーさんを、なんとかかわすピーター。
途中に上着は脱ぎ捨て、靴も脱げていました(靴もはいてたんですね)。
水の入ったじょうろに隠れたり、やっとのことでマグレガーさんから逃れます。

 

途中ですずめの声に助けられ、
ねずみや白い猫、池には金魚など農場の動物たちが描かれています。

 

ひとりで心細くなったピーターは上着を着ていない姿で、
まったく普通のうさぎに見えます。

 

やっとのことで出口を見つけ森に逃げることができたのです。
くたくたになって巣穴に戻ったピーターは横になって眠ってしまいます。

 

その晩おなかの具合が悪いピーターはかみつれを煎じた薬を飲み、
プロプシー、モプシー、カトンテールはおかあさんが買ってきたパンを食べるのです。

 

これでお話は終わります。

 

いたずらっ子・ピーターの行動の理由とは

おかあさんは、ピーターがマグレガーさんの畑に行ったことを知りません。
ピーターも畑で危ない目にあったことを、兄弟やおかあさんに話しません。

 

ピーターは、2週間で服を2枚もなくしたということから、
今日のようなことが以前にもあったということです。

 

ピーターがおかあさんに黙っているのは、
畑にいってはいけないといわれたのに行ってしまったからでしょうか。

 

ダメといわれた場所で危ない目にあっては、
やはりそのことをおかあさんには言えませんね。

 

心配かけるし、叱られてしまいます。
ではピーターはなぜダメといわれた畑へいったのか。
やっぱり「たいへんないたずらっこ」だからでしょうか。

 

ダメということをしてしまうのは子どもの性でしょう。
また、危ないことは怖いけどやってみたいことでもあります。
でもおかあさんには心配かけたくはない、そんな子ども心が感じられますね。

 

これを現代に当てはめることは難しいでしょう。
ですが、そのキモチは今の子どもたちの中にもあるのかもしれないと、
いたずらっ子ピーターをみて思いました。

 

小さな秘密(経験)を少しづつ足しながら、
子どもたちは成長していくのかなぁ
と。
 
さて、お話の終わりのほうで、逃げる時に脱ぎ捨てた青い服と靴は、
マグレガーさんの畑のくろなきどりを追い払うための、かかしになりました。

 

つまり青い服をきたうさぎは、いたのですね。
子どもたちに食事の支度をするおかあさんうさぎの姿、
ポターの世界は、うさぎたち動物の世界を人間に置き換えたのではなく、
人間が動物の世界に行った姿を描いているように感じられるのです。

 

青い服はその「物的証拠」といえるのかしら、と思うのでした。

 

現実のような現実でないような、
不思議な世界の住人である、
ピーターたちの世界。

 

おはなしを読んでからは、
ウサギをみると、青いを着た姿を思わず想像してしまうのです。

   

作者の魅力を伝える映画

作者はビアトリクス・ポターは英国人です。
「ミス ポター」という映画で彼女の生涯がえがかれています。
この映画で人となりがよくわかります。
英国の湖沼地帯と自然が美しく、
とてもいい映画でした。

 

ご訪問ありがとうございます。
絵本の解釈は個人的なものです。
絵本選びのきっかけになればうれしいです。