深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

『ひよこのかずはかぞえるな』ユーモアあふれる絵本!もしこうだったら

小学校6年の頃、理科の実験で、 卵をふ化させたことを、 この絵本を読んで思い出しました。

 

卵から出てきたひよこは、 びっしょり毛が張り付いて、 目が大きくて、不思議でした。

 

しばらくすると、 ふわふわのクリームみたいな毛になって、 歩き回りました。

 

ちょうど、絵本の表紙のひよこのようでしたね。

 

この絵本はトンチが効いて、ユーモアがあって、 最初から最後まで、口が緩むおはなしです。

 

文章の量をほどよく、小学校では全学年で読みました。 もちろん3歳くらいから読んであげられる愉快な絵本です。

 

ひよこのかずはかぞえるな

イングリとエドガー・パーリン・ドーレア 作 せた ていじ 訳
ページ: 39 サイズ: 28.4x21.4cm 出版社: 福音館書店 出版年: 1978年

 

威風堂々のにわとりたちからはじまるおはなし

鮮やかなブルーの背景に風格さえ感じさせるにわとり。 その足元には、6羽のひよこと、 立派な卵が1個。
石版画のような質感で、やわらかい絵が描かれています。

 

とくに、たくさん描かれている、
にわとりたちがカッコイイ!のです。

 

モノクロとカラーのページが、交互にあらわれる絵本です。
  タイトルもちょっと変わり種です。
ひよこのかずはかぞえるな とは、
さて、どんな意味があるのでしょうか。

 

表紙を開くと見返しに、
1列に5こ、3段に、合計15この卵が並んでいて、
いずれも殻を破って、 出てこようとしているものが描かれています。

 

ひよこは当たり前なのですが、 ウマやシロクマ、
家や人、
羽やわた? 
ソーセージやきのこ?
じっくりみると不思議ですね。 (実は意味があるのですが、ネタバレになるので、最後に謎解きを)

 

チャーミングなおばさんの空想していることは

おはなしは、
森の中の赤い家でひとり暮らす、おばさんが主人公。
丸顔でちょっぴりポチャリとしていて、、 水色のワンピースと赤と黄の格子の前掛けがお似合い。

 

おんどりとめんどり、犬や猫とを飼っています。
こけこっこう!

 

おんどりが時を告げて朝がきました。 おばさんはゆっくり起きだします。
こっこっこ、たまごを 1つ うみました
めんどりがたまごをうんでおんどりも得意顔です。
おばさんは、毎日たまごをうんでくれるめんどりに感心して、
おお よしよし。なんて かせぎのいい めんどりちゃんかね
おばさんの独特の言い回し~かね、愛嬌がありますね。
たまごだなには、3ダース36このたまごが並んでいました。
そして、
まちへ もってって、 うってこよう
その道すがらのおはなしです。
おばさんは、さっそく 葉っぱがちりばめられたオレンジ色の服に着替えて、 たまごをつめたかごを下げて、町へ出かけます。

 

広い1本道を歩きながら、考えます。
その道のりがあまりに遠いものですからね。
このたまごが、 いったい いくらになろうかね? たまごのかずを かぞえては、おかねの かんじょう。 みぎも ひだりも ふりむかず、 いっしょうけんめい かねかんじょう かねかんじょう。
なかなか、絵本ではお目にかかれない、 かねかんじょう の文字。
ここまであっけらかんとくりかえされると、 不思議におかしさが先にきますね。

 

さて、お金の勘定にふけった、おばさんの夢に火がつきます。

 

たまごを売ってお金を手に入れたら
 ~めんどりを2羽飼う
めんどりが3羽になるから
 ~たまごも3倍になる
さらにめんどりを3羽飼う
 ~6羽が生んだたまごの半分を売って半分はひよこにかえす そうして鳥小屋はいっぱいなる
そうだとも。それが なによりさ。
とりごやがいっぱいになって大儲け
 ~がちょう2羽と子羊を1匹飼う
子羊は毛を刈る、ガチョウは羽をむしる
 ~それを売ってブタを2匹飼う、乳牛も1頭
たまごにひよこにがちょうにひつじ、はねにけにぶたにめうし、 ハムにベーコン、ミルクにクリーム! どんなもんだい!
おばさんは、たいそうご満悦です。

 

妄想炸裂!! さて顛末は?

その後も、おばさんの妄想(ここからは空想ではなく)は続きます。 ネタバレするので絵本で楽しみたい方は次の見出しまでとばしてくださいね)

 

おばさんは、女中と下男を雇って、楽をします。
ある日、大きな農場をもつ人から、結婚を申し込まれ、
だから わたしは おくがたさま
ひんがよくて おすましで、どんな あいてにも、 はなを そびやかしてくれるわさ。 そうとも こんなふうに はなをーーー
といいながら、たまごのかごを鼻にのせたら、
ぴしゃん! たまごが じめんに おちました。
おばさんは、道の真ん中で、立往生。
けいきが よすぎて、のぼせちまったよ。
家に引き返しながら、おばさんは思います。
そうわるいわけでもなく、家もあるし、 時を告げるおんどりと、 たまごをうんでくれるめんどりもいるし、
なんてしあわせなこったろうね、と。

 

空想することは、現実をわかっているということ

この絵本を読み聞かせしていると、 たまごが割れるところで、「あ~」と声を上げる子どもたち。

 

おばさんのしゃべる言葉が、
ちょっと変わっていて笑えます。
(読んで楽しんでくださいね)

 

おばさんはあれこれ妄想しながら、 ちゃんとわかってやっています。

 

こんなふうになったらいいなぁ、
普段だれもが思うことです。

 

おばさんの空想は、
どんどんエスカレートして妄想になっていきますが、 どんでん返しがありますね。

 

実態の伴わない空想は、妄想で終わってしまいますが、
おばさんの空想はそうでもありません。

 

ちゃんとにわとりのお世話をして、たまごを得ています。
そんなにうまくはいかないよ、
ってことでもあり、 でもいろいろやってみたら、面白いよ、
そんなふうに考えてみると、 選択肢がひろがりますね。

 

小さな幸せが身近にある、で終わってしまうのは、
ちょっ残念に思うのです。

 

あれこれ夢見たおばさんが、 最後に、家に戻ってほっとする姿に、 子どもたちはどんなことを思うでしょう。

 

決して子どもたちに、
答えを提示しないであげてくださいね。

 

自分はどんなふうに思うのか、
考えることが、 なにより大切なのでは、と思います。

 

空想と現実を行きつ戻りつして、 過ごすことが、子ども時代の特権ですね。

 

前後の見返しのいろんなものが、ふ化するところを描いたのは、
空想・妄想の内容だったのですね。

 

絵本の裏表紙に、ふ化する様子が描かれています。
冒頭で書いたように、 毛がびっしょりで、目は円ら、 ヨチヨチあるいて、フワフワのひよこになりましたよ。

 

タイトルの『ひよこのかずはかぞえるな』は強い否定です。

 

強い否定は時に、その逆をあらわすこともありますね。
(「チームバチスタの栄光」とか、絵本ではありませんが)

 

そんな含みをもって、タイトルを楽しみたいと思います。

 

ご訪問ありがとうございます。 絵本選びのきっかけになればうれしいです。

 

『アンガスとあひる』擬音が楽しい絵本!ヒトといない時の動物たちの姿を覗き見る

犬はもっとも身近にいる動物ですよね。
見かける犬ながめていると、
何考えているのかなぁ、
なんて、ふと思います。
 
ちいさな子どもに行動パターンが似てるかも…
 
好奇心旺盛で、
知りたがりで、
行動が突飛で、
考えなしで、
怖がりで、
柔らかくて、
あったかくて、
カワイイ。
 
ご紹介するのは、
スコッチ・テリアとあひるが繰り広げる、
ユーモラスな姿が印象的な絵本です。
 
明るく晴れやかな絵本で、
4歳くらいから、小学校では、
小学1年生、2年生、3年生によく読みました。
 
アンガスとあひる
マージョリー・フラック 作
瀬田 貞二 訳
ページ: 32
サイズ: 24.4x16.8cm
出版社: 福音館書店
出版年: 1974年

陽ざしを感じる色使いと動物たちの動きの多様さ

ページを開くとレモンイエローの鮮やか背景に 黒いスコッチテリアと白い2羽のあひるが描かれています。
ひとつとして同じポーズはありません。
 
スコッチテリアは、
 
走ってみたり、 吠えてみたり、 眺めてみたり、 警戒してみたり。
 
あひるは、
羽ばたいてみたり、 振り返ってみたり、 話しあってみたり、 首を伸ばして走ってみたり、 のんびり歩いていたり。
 
このおはなしは「どんなかしら」と 期待に胸がふくらみます。
 

興味津々のアンガスの動きに注目する

あるうちに、アンガスという こいぬが すんでいました。 アンガスは、スコッチテリアで、 からだは とても ちいさいのに、 あたまと あしは おおきな いぬでした。
きょとん、としたアンガスの愛らしい姿。
なんでも知りたがり、 鏡をのぞいては「だれだろう」とか、
くわえて持ってこれるもの(靴)と 持ってこれないもの(ズボンの吊りひも)があるのはなぜ?とか
おもてにも関心ごとはたくさんあって、 中でも庭の境の生垣のむこうがわから聞こえてくる やかましい音が気になるのです。
その音は、
ガー、ガー、ゲーック、ガー!
とか
ゲーック、ゲーック、ゲーック、ガー!

アンガスとあひるの弾ける擬音をたのしむ

ある日アンガスにチャンスが訪れます。
表へのドアが開けっ放しになっていて、 首に皮ひもも紐を握っている人もいなかったので、 これ幸いと、表に飛び出したのです。
 
垣根の下をくぐりぬけると、 目の前に、 2羽の白いあひるがいたのです。
ガー、ガー、ゲーック、ガー!
アンガスはうなります。
ウーウーウーウーウーワン!
あひるたちは、
ゲーック!ゲーック!ゲーック!ゲーック!ゲーッ!
アンガスは追って、あひるは逃げて、 あひるが水飲み場で休んで、
またアンガスが追って、あひるが逃げて、 アンガスが水飲み場で休んで、
そして、あひるたちはなにやら相談し,
あひるたちの反撃開始です。
シーシーシーシーシーシーシュ!!!
アンガスは猛スピードで、しっぽを巻いて逃げ出します。
家の中へ一目散!!
ソファの下に潜り込んで、
そして、とけいの きざむ、 いち、 に、 さんぷんかん、 なにごとも しりたいと おもいませんでした。
 
しりたがり屋のアンガスも、
2羽のあひるの反撃に肝を冷やしたようですね。
ソファの下で、やれやれ、といった表情のアンガス。
 
でもまた少し時間がたったら、
しりたがり屋が復活することでしょう。
 

躍動感ある擬音を楽しむ

この絵本を小学校で読むときは、 繰り返される鳴き声が楽しいリズムとなっています。
読んでいる方も楽しい!!
 
子どもたちも、躍動的なアンガスやあひるの絵に 見入ってくれる見せ場、となっています。
 
ウーウーウーウーウーワン!
ゲーック!ゲーック!ゲーック!ゲーック!ゲーッ!
シーシーシーシーシーシーシュ!!!
あひるのアンガスを追う、
シーシーシー…
スピード感あふれる擬音です。
 
子どもたちは擬音大好きですよね。
 
言いたいことが、音となって弾ける時期がありますね。
好きなだけ話を聞いてあげられたら、最高です。
 
わけわからなくても、擬音で楽しさや状況が感じられますからね。
 
大急ぎで逃げるアンガスの心境、 逃がしてなるか、 と前のめりのあひるたちは迫力満点です!!
 
動物どうしのやりとりは、 つぎは、どう動くの?
そんな楽しさでいっぱいです。
予想不能な動き、 子どもたちに似ていますよね。
 

訪ねたくなる調度品のある家や水飲み場がある庭

絵本でモノクロと交互に描かれるカラーページ
アンガスとあひるも、 カラーとモノクロでは印象がことなります。
 
カラーのあひるは写実的で、 モノクロは動きがシャープに感じられます。
アンガスとあひるが走り回る庭は、とっても広そう。 柳の木の木陰にある水飲み場、そこに咲く草花、 景色はカラーが映えますね。
 
地面に落とされた影に強い日差しを感じます。
地面のレモンイエローが元気を伝えています。
アンガスがうろうろする、家の中、 花柄の壁紙がすてきです。
 
鏡や椅子、ソファのファブリックもかわいいですね。
ソファは一部しか描かれていませんが、 座ってみたいな、って思わせます。
 
調度品がそこに暮らす人々を うまく連想させていますね。
色使いもポップで軽やか、そこに行ってみたくなります。
 
好奇心旺盛でちょっとだけ臆病なアンガスに 子どもたちは、トモダチを感じることでしょう。
マージョリー・フラックの描く動物たちの絵は、 動物たちを抱きかかえた時の感触をよみがえらせるようです。
 
ご訪問ありがとうございます。 絵本選びのきっかけになればうれしいです。

 

小学生に暮らしと経済を学べる絵本!手作りと1年を実感できる『にぐるまひいて』

今は、生活に必要なものは、大抵買うことができますね。
 
作る人がいて、買う人がいます。
買う人がいるので、それを作る人がいます。
 
よく野菜を育てている人から、
季節季節に作ったものをいただきます。
 
よく知る人が作って野菜は、
その顔が見えて安心できますね。
 
なんでも手に入る時代ですが、
自分で作ったものや、作ってもらったものには愛着がわきます。
 
息子も自分で作った新聞紙で作った刀剣やレゴの作品など、
特別に大事にしていましたよ。
 
10歳ころパンケーキづくりに凝った時期があって
楽しそうに、焼いてデコレーションしていました。
 
いろんなもを手作りするのが当たり前だった時代の、
淡々とした日々と暮らしが、
端正な絵と共に描かれています。
 
この絵本は、19世紀はじめのニューイングランドが舞台です。
「人びとの生活と自然のために」
と、おはなしの前のページに記されています。
 
読み聞かせでも秋のしっとりとした時期によく読みました。
不思議と、気分が落ち着く絵本です。
 
1年生から6年生まで、
すべての学年で読んだことがある絵本です。
 
にぐるまひいて
ドナルド・ホール 作
バーバラ・クーニー絵
もき かずこ 訳
サイズ: 26.2x20.8cm
版社: ポルプ出版
出版年: 1980年

使うものを手作りして暮らしていた時代

ある家族の農場での1年間が丁寧に語られ描かれています。
とうさん、かあさん、むすめ、むすこの4人家族が、
季節にそって手仕事でいろいろなものを作ります。  羊の毛、つむいで織ったショール、娘が編んだ手袋、 ろうそく、麻、屋根板、白樺のほうき、 じゃがいも、りんご、はちみつ、ハチの巣、 かぶ、キャベツ、メープルシロップ がちょうの羽。  
暮らしに必要なたくさんの品々。
以前は個々の家でこれだけのものを作っていたのだ、 と思い起こされます。  
おはなしの始まりは、10月
 
そして牛にひかせた、
にぐるまに荷物をいっぱい詰め込んで
おとうさんは出かけます。
この いちねんかんに みんなが つくり そだてたものを
なにもかも にぐるまに つみこんだ
10日がかりで、にぐるまをひいて、
ポーツマスの市場にたどり着きます。
 
家族で作ったすべての荷物を売り、
空き箱やあき袋を売り、牛のくびきと手綱を売り、
荷車をひいた牛、
すべてを売り払います。
そして、手に入れたお金で、
暖炉に下げる鉄の鍋、娘にイギリスの刺繡針、
息子に箒をつくるためのバーロウナイフ、
家族のために薄緑色のはっかキャンディを2ポンド、
それらと残ったお金を持って、
 
家に帰ります。  
家族は、暖炉の前でゆっくりとした時を過ごします。
冬、家族はみな、またもの作りをはじめます。
 
そしてまた1年、にぐるまに積むものを作ります。
 

繰り返される暮らし営みは今も同じ

 
人の生きることそのものが淡々と綴られた叙事詩のようです。
おわりがはじまりになっています。
 
働いて作ったものをお金に変えて、また1年を繰り返す。
根本は、今もかわることはありませんね。
 
そのおはなしにぴったりな絵がクーニーの絵です。 端正な絵と色、けれど温かみを感じます。
 

季節の仕事をたんたんと

大事件は起こりませんが、
黙々と季節の仕事に取りか組む姿をとおして
1年をつくっています。
 
しずかに行われる、切り出しや、布つくり、
刺繍、ほうきつくり、ろうそくを作り、
楓の樹液で楓砂糖をつくります。
 
春には、ヒツジの毛を刈り編み物をし、農作業をする。
 
すこし前の暮らしは子どもたちにとって
おとぎ話のようで不思議な世界かもしれませんが、
めぐる季節と仕事をとおして
流れる時間を感じてくれる絵本だなぁ
と感じました。
 
ご訪問ありがとうございます。
絵本選びのきっかけになればうれしいです。

 

穏やかに見守る、きちんと話す『くんちゃんのだいりょこう』にある優しい眼差し

子どもは好奇心の塊です。
見るもの触れるも、

 

これ何?
あれはどうなってるの?
〇〇やってみたい!

 

と忙しい。

 

5歳くらいになると、
自分でかなり体も操れるようになりますし、
あれやこれや自分なりに考えるようになります。

 

そんな子ども、
そして親にもぜひ読んでほしい絵本です。

 

考えて行動することの大切さ、
それにどう対応したらいいのか、
ひとつの道しるべになる絵本ですよ。

 

わが息子も5歳の時海賊姿に憧れて、
ありったけの風呂敷やスカーフを巻き付けて衣装にし、
自分で作った弓矢や剣を身に着けて、
そこらじゅうを駆けまわっていましたっけ。

 

くんちゃんのだいりょこう

ドロシー・マリノ 作
石井桃子 訳
ページ: 35ページ
サイズ:  25.8 x 18.8
出版社: 岩波書店
出版年: 1986年

 

くまの親子の会話に注目!きちんと話すことの大切さ

森にすむ、くまの家族のおはなしです。
淡々としずかな会話がみられる絵本です。

 

(ネタバレしますが、絵本は絵を見ることで成立する本なので、
 詳しく知りたくない人は次の項目へ)

 

表紙はくまのくんちゃんが、
木の枝にとまっている鳥をみあげています。
枝は裏表紙に連続して木が立っていて、
たくさんの鳥がいたことに気づきます。

 

くんちゃんと鳥は、
目線があっているので何か会話している様子。

 

画面三分の二が青い空が描かれており、
お話の広がりを感じさせます。

 

見返しには、森の中を散歩するくんちゃん親子。
おとうさんを先頭にやや離れておかあさん、 そしてまた少し離れてくんちゃんがいます。

 

3人(びき?)とも目線はあちらこちら、
一緒に散歩はするけれど、 それぞれが森の散策を楽しんでいる感じがします。

 

お話は見返しのシーンの延長で、三人が森の中の川辺を
「ふゆごもりのきせつに なったね」
と散歩しています。

 

少し離れて歩いていたくんちゃんは、 鳥と話をして、あたたかな国へ渡っていく鳥を見送るのです。

 

〇〇したいという子どもに、親はどうする?

くんちゃんはそれを見て、おとうさんとおかあさんに
「ぼくも みなみのくにへ いっていい?」
と聞きます。おかあさんは
「くまは ふゆは ねむるのです」
といいます。

 

けれど、一度だけいってみたい、 という必死のくんちゃんの様子をみておとうさんは
「やらせてみなさい」
と、いうのです。
「だが、くんちゃん、かえりみちを
 よくおぼえておくんだよ。 あのおかのうえの 大きなまつの木を
 めじるしにしてね」

丘の松の木で、行ったり来たりする

さっそく、くんちゃんは勢いよく走って丘へ登っていきました。
丘のてっぺんの松の木でたちどまり、 振りかえるとおかあさんが手をふっていました。

 

おかあさんに、さよならのキスをしなかったくんちゃんは、 かけおりてキスをして丘をのぼりました。

 

それからは遠くに見える鳥を見て、双眼鏡がいる、 湖を見て釣竿がいる
喉が渇いてきて水筒がいる、 南の暖かい国へいくなら麦わら帽子がいる
と次々に必要なものを取りに帰っては、丘を登り、 そのたびに、松の木で止まり振り返るのです。

 

そのうち、たいそうくたびれて、
あくびが出たくんちゃんは、
「りょこうにでるまえに うちにかって すこしやすんでこよう」
と、おとうさんおかあさんのいる家にもどり、ベッド入って眠るのです。
おとうさんはそとからかえってきて
「かえってきたようだね」 「かえってきました」
ふたりは、そうなるであろうことを、わかっていたようですね。

 

子どもは冒険だいすき、でも臆病でもある

はじめてこのお話を読んだときは、
なにか物足りない感じがしました。

 

ただただ優しいおかあさんおとうさんと、
思いつきで好き勝手するくんちゃん。

 

でも、なんども読むうち、はて?

 

思いつきで好きなことができるのが子どもだし、 危ないこと以外余計な口出しせず、 好きなことをさせて見守っている両親って、
子どもにとっても、 すごくありがたい親なんじゃないかしら、と。

 

おとうさんがくんちゃんに、帰り道を忘れないで、 おかの松の木を目印に、と送り出します。
くんちゃんにとって松の木は、 自分を待ってくれている両親(安心できる場所)と、 行ってみたい南の国(未知のあこがれの場所)との、
境界だったのではないでしょうか。

 

子どもたちはそれを繰り返して
だんだん南の国へ行くようになるんですね。

 

何度も戻ってくるくんちゃんに必要なものを差し出す、 優しいおかあさん。

 

おとうさんも初めから、 くんちゃんにはまだ南の国へ行くのは無理かな、 わかっていて「やってみなさい」といい、 子どもの言い分を頭ごなしに否定するのではなく、 自ら体験させ納得させているようです。

 

思いのまま行動するくんちゃんは、 おとうさんおかあさんの大きな手のひらの上だからこそ、 好き勝手できるのですね。

 

そしてそれができるのも、 子どもなればこそ!なのです。

 

以前は読んで物足りなさを感じた絵本は、 今では幸福感を味わえるとびっきりのおはなしになりました。

 

ご訪問ありがとうございます。
絵本選びのきっかけになればうれしいです。

 

うさこちゃん=ミッフィーの誕生『ちいさなうさこちゃん』

日本では、ミッフィーの名で親しまれている うさこちゃんです。

 

キャラクターとしてのミッフィーちゃんは知っていても、
絵本のうさこちゃんを知らない方も多いのではないでしょうか。

 

それは、もったいない!!
ぜひ、うさこちゃんのおはなしを子どもたちと楽しんでください。

 

ちいさなうさこちゃん

 

ディック・ブルーナ 作
石井桃子 訳
ページ: 28
サイズ: 16x16センチ
出版社: 福音館書店
出版年: 1964年
 

子どもがはじめてであう、最良の絵本

 
このシリーズは「子どもがはじめてであう絵本」 と題されています。
日本の翻訳版は、 2000年には第100刷版が発行されています。
 
半世紀以上にわたって、読み続けられている絵本です。
最初のページをめくると、
右ページには、表紙と同じ落ち着いた青色でタイトルがあり、
左ページにうさこちゃんがいて、
その下に、
なまえ           を書く欄がもうけてあります。

 

あなたの絵本ですよ、 とうさこちゃんが、出迎えてくれているようですね。

 

手持ちの絵本をみると、 息子も、ちゃんと名前を書いています。 たどたどしいひらがなで これは何歳のときだったかしら、と。
おそらく小学校へ上がる前、 5歳か6歳だったのでしょうか。 2歳半からなんども読んだ絵本です。

 

読んで心地よいリズム、眺めて笑みがこぼれる

 
天使の知らせで、 うさこちゃんが誕生するおはなしが、 家族のようすと語られます。

 

おおきな にわの まんなかに かわいい いえが ありました。 ふわふわさんに ふわおくさん 2ひきの うさぎが すんでます。

 

とうさんはふわふわさんといいます。
この呼び名を聞いた時、
なんてカワイイの!

 

と子どもに読みながらワクワクしていました。
そして、おくさんが、ふわおくさん。

 

声に出して読むとわかりますが、
七五調のリズムのように、読むことができて、 話す方も、聞く方も、実に心地いいのです。

 

翻訳は石井桃子さんです。

 

戦後の児童文学を牽引してきた素晴らしい方です。
その名調子は、本当に素敵です。

 

こんなふうに、
  • あたまは こっくり こっくりこ
  • じきにおめめも ふさがりました。
  • しずかに さよならいたします。
どこにでもある、いつでも使う言葉が、 この絵本にのると、優しい響きをまとうのですね。

 

同じ表情なのに感情がわかる不思議のワケは能にあり

登場する人物やものは、 ほとんど正面から描かれています。
ふたりの違いは微妙な顔のラインと、口の形

 

おとうさんのほうが うさこちゃんのバッテンの口に横線がたされて描かれています。

 

顔には目と口だけなのに、 お話の内容で様々な表情に見えるから不思議でなりません。

 

色は朱がかった、線のと、 紙のの六色のみで構成されています。

 

バックの色は四色のいずれかが必ず塗られています。 現実やそのイメージから塗られているようです。

 

その時の出来事や登場する人物に合わせて 色が選択されているのですね。

 

一方人物のみの場合は、 その時の感情や気分をあらわしているように思えます。

 

さらに、
簡潔な文章によって 読み手に登場人物の表情や感情を、 うまく想像させるようになっているのです。

 

同じ表情といえば、 能における能面もそうです。
変わることのない、
面であらゆる感情や表情を伝えています。

そして謡で物語る
うさこちゃんと能の思わぬ接点です。

 

揺らぐ線はゆっくりと引く、ブルーナの感情が込められています。

 

最初のページには窓が開いた、 赤い屋根の家が描かれています。

 

最後のページにも同じ家が描かれていますが、 窓は閉じられています。

 

開いて、閉じる。
おはなしはおわりましたよ、と 子どもたちに静かに伝えています。

 

また、全体を通して読んでみると青と緑の明度が高くないせいか、 子どもの絵本にしてはむしろ落ち着いた印象を受けます。

 

また作者のブルーナは絵を描く時、
線をゆっくり、ゆっくり引くのだそうです。 線というより点を重ねて線にしているよう、 下書きした線をなぞるように。

 

線がわずかにゆらいで見えるのは、 その書き方によるものだからなのでしょう。

 

原画展を見に行ったことがありますが、
世界各国で翻訳されており、
また、年代によってうさこちゃんの顔かたちも変わっていて、
いろんなうさこちゃんに会えてうれしかったです。

 

石井桃子さんの訳は、 優しいリズムで読んでいると気持ちよくなります。

 

石井さんが主人公を「うさこちゃん」としたことで、 日本のうさぎの子になったように思います。

 

ご訪問ありがとうございます。 絵本選びのきっかけになればうれしいです。

 

『ピーターラビットのおはなし』自然のありのままを学ぶ小さな絵本

青い服を着たうさぎの「ピーターラビット」

 

その愛らしい姿を、食器や雑貨などで、
多くの人が目にしているのではないでしょうか。

 

キャラクターとして知られた存在にもかかわらず、
意外にそのお話を知っている人は少ないのではないでしょうか。

 

 

それぞれのおはなしの主人公は猫やねずみ、キツネにカエル、
どれもよく知る動物たちです。

 

小さな手にすっぽり収まるサイズは、
子どものために書かれた本であることがわかります。

 

小さい絵本で絵も小さいので、
おはなしだけ、
4年生から6年生に読むこともありました。

 

シリーズの絵本の中には、
第2集 6『こわいわるいうさぎのおはなし』
など、数分で読み聞かせられる絵本があって、
2歳半らいから楽しめるおはなしですが、
時間があまった時など、2冊目として読むことがあります。

 

小さい絵本なので、児童がみんなぎゅっと集まって、
見入るのも、楽しい体験です。
小さいからこそ、
余計に見ようとしてくれているようでしたよ。

 

ピーターラビットのおはなし

ビアトリクス・ポター 作
いしい ももこ 訳
ページ: 55
サイズ: 14.2x10.6cm
出版社: 福音館書店
出版年: 1971年

 

「ピーターラビットの絵本」シリーズとして、
日本では1971年に発行されました。
3冊セットで第7集まで出版されていて、
21のおはなし があります。

 

『ピーターラビットのおはなし』
第1集 1番目のおはなしです

ポターが描くピーターの世界を一緒に探検しましょう

このシリーズに描かれる動物の姿は、
実に写実的で、いきいき動きまわっています。

 

動物たちや自然をずっと丹念に観察し続けてきた、
ポターらしい絵本です。

 

絵本としては55ページとかなりのボリュームです。
見開きで必ず片側が文章とそして対となる挿絵の構成になっています。
挿絵はページ前面に配されてはおらず、
多くはその3分の2ほどのスペースで枠もなく
優しい色彩で白い紙に浮き出たように描かれています。

 

この絵本に書かれた挿絵の数は26枚になります。
見開いた時の文章も多くて14行ほどで少ないと4行程度です。
読んでみると、
挿絵と見事に対応した文章が、
リズムよく展開していきます。

 

ポターの描くピーターラビットの世界は実に不可思議です。

 

人のように当たり前に衣服を着用する動物たちは擬人化されているようですが、
その世界のみで完結しているわけではないように思われます。

 

そのお話には人間も介在してきて、重要な役を演じてさえいます。
通常、擬人化された世界ならば服を着て話をしようが、
人間と同じような生活様式をとっていても不思議と感じません。
その世界がそれで閉じているのですから。
けれどポターの世界はどこか違っているよう感じられるのです。

 

おはなしに登場するのは、4ひきのうさぎたち

『ピーターラビットのおはなし』は、
大きなもみの木の巣穴に住む、
おかあさんうさぎと4ひきの小さなうさぎたちのある日のおはなしです。

 

うさぎたちの名前は、
プロプシーにモプシーにカトンテールにピーター
ある朝、おかあさんは子どもたちをこんなふうに送り出します。
「さあ おまえたち、野はらか 森のみちで あそんでおいで。
でも、おひゃくしょうのマグレガーさんとこのはたけにだけは
いっちゃいけませんよ。
おまえたちの おとうさんは、あそこで じこにあって、
マグレガーさんのおくさんに肉のパイにされてしまったんです」
だから気を付けるようにと。
のパイにされたおとうさん、なんだか妙にリアルです。
この一文を読んだときピーターラビットの世界は私にとって、
お話の世界ではなく現実の世界になりました。

 

平然とそれを語るおかあさんうさぎも聞く小うさぎたちもリアルです。
ピーターたちを送り出したおかあさんは買い物へでかけます。
買い物かごにかさ、頭巾をかぶり赤い肩掛け、すごくおしゃれです。

 

さて、プロプシーたちはいいこでしたから、
森でくろいちごをつんでいました。

 

ピーターはいたずらっこでしたから、
いちもくさんにマグレガーさんの畑にでかけ、
木戸の下からもぐりこむのです。

 

レタス、さやいんげん、はつか大根を食べ、
胸がむかむかしたピーターはパセリを探しにいきます。
(パセリは胸やけに効くんでしょうか)
ピーターはその時、
きゃべつの苗を植えているマグレガーさんに遭遇します。

 

たがいにびっくりするマグレガーさんとピーター

 

必死に追いかけるマグレガにーさんを、なんとかかわすピーター。
途中に上着は脱ぎ捨て、靴も脱げていました(靴もはいてたんですね)。
水の入ったじょうろに隠れたり、やっとのことでマグレガーさんから逃れます。

 

途中ですずめの声に助けられ、
ねずみや白い猫、池には金魚など農場の動物たちが描かれています。

 

ひとりで心細くなったピーターは上着を着ていない姿で、
まったく普通のうさぎに見えます。

 

やっとのことで出口を見つけ森に逃げることができたのです。
くたくたになって巣穴に戻ったピーターは横になって眠ってしまいます。

 

その晩おなかの具合が悪いピーターはかみつれを煎じた薬を飲み、
プロプシー、モプシー、カトンテールはおかあさんが買ってきたパンを食べるのです。

 

これでお話は終わります。

 

いたずらっ子・ピーターの行動の理由とは

おかあさんは、ピーターがマグレガーさんの畑に行ったことを知りません。
ピーターも畑で危ない目にあったことを、兄弟やおかあさんに話しません。

 

ピーターは、2週間で服を2枚もなくしたということから、
今日のようなことが以前にもあったということです。

 

ピーターがおかあさんに黙っているのは、
畑にいってはいけないといわれたのに行ってしまったからでしょうか。

 

ダメといわれた場所で危ない目にあっては、
やはりそのことをおかあさんには言えませんね。

 

心配かけるし、叱られてしまいます。
ではピーターはなぜダメといわれた畑へいったのか。
やっぱり「たいへんないたずらっこ」だからでしょうか。

 

ダメということをしてしまうのは子どもの性でしょう。
また、危ないことは怖いけどやってみたいことでもあります。
でもおかあさんには心配かけたくはない、そんな子ども心が感じられますね。

 

これを現代に当てはめることは難しいでしょう。
ですが、そのキモチは今の子どもたちの中にもあるのかもしれないと、
いたずらっ子ピーターをみて思いました。

 

小さな秘密(経験)を少しづつ足しながら、
子どもたちは成長していくのかなぁ
と。
 
さて、お話の終わりのほうで、逃げる時に脱ぎ捨てた青い服と靴は、
マグレガーさんの畑のくろなきどりを追い払うための、かかしになりました。

 

つまり青い服をきたうさぎは、いたのですね。
子どもたちに食事の支度をするおかあさんうさぎの姿、
ポターの世界は、うさぎたち動物の世界を人間に置き換えたのではなく、
人間が動物の世界に行った姿を描いているように感じられるのです。

 

青い服はその「物的証拠」といえるのかしら、と思うのでした。

 

現実のような現実でないような、
不思議な世界の住人である、
ピーターたちの世界。

 

おはなしを読んでからは、
ウサギをみると、青いを着た姿を思わず想像してしまうのです。

   

作者の魅力を伝える映画

作者はビアトリクス・ポターは英国人です。
「ミス ポター」という映画で彼女の生涯がえがかれています。
この映画で人となりがよくわかります。
英国の湖沼地帯と自然が美しく、
とてもいい映画でした。

 

ご訪問ありがとうございます。
絵本の解釈は個人的なものです。
絵本選びのきっかけになればうれしいです。

 

『まよなかのだいどころ』◆架空の世界の楽しみ方

『まよなかのだいどころ』は
『かいじゅうたちのいるところ』
『まどのそとのそのまたむこう』とともに
センダックの3部作といわれる絵本です。

『かいじゅうたちのいるところ』は絵本の王道的な作りであり、
極限までセリフをそぎ落とし描かれています。

一方『まよなかのだいどころ』は、
セリフもリズミカルでミュージカルをみるようです。

3歳くらいから小学2年生くらいまで、よく読みました。


読み聞かせでは、リズムで楽しみ、
膝の上では、ゆっくり絵の細部を味わえます。

まよなかのだいどころ

モーリス・センダック 作

ページ: 40ページ
ザイズ: 28.2x21.4cm
出版社: 福音館書店
出版年: 1982年

『まよなかのだいどころ』で起こっていること


ふとんのようにみえるパン(ケーキ)の飛行機に乗り、 ミルクのポットを頭にかぶり、得意顔でご機嫌なミッキー。


星空をバックに賑やかな街並みとパンつくりの材料が並ぶ。 看板の同じ書体がひとつもない文字が特徴的です。


タイトルの『まよなかのだいどころ』の文字がおどります。

ベッドに寝ているミッキーは、


ドーン ドサン ズン パン バン


騒がしい音に、 うるさいぞ しずかにしろ!


ベッドからくるりと落ちながら パジャマは脱げて裸ん坊に

 

おりたところは あかるい まよなかのだいどころ


同じ顔したコック帽をかぶった男の人が3人。

見事な体躯で、みな鼻の下にちょび髭をたくわえています。

コックさんたちは、ミッキーをミルクと間違えて、 ミッキーを粉といっしょにかき混ぜて…


真夜中の台所の背景は、表紙と同じです。


裸のミッキーはオーブンで焼かれる途中に逃げ出して、
パンの衣装に身をつつみ、 今度は水からパンをこねだします。


こねて、たたいて、かためて、のばす


できたパンの飛行機でだいどころの天の川へ、 ミルクをとりに行きます。


そして、ミルクの巨大ビンに飛び込み、 パンはとけて、裸ん坊となって、 コケコッコーと叫び、


転がり落ちて、自分のベッドへ。

ベッドから落ちてはじまり、落ちておわるおはなしです。


絵本だからいい『まよなかのだいどころ』のよさ

さて、かなり詳細に絵本を文章にしてみましたが、 この文を読むと、支離滅裂…ですよね。

ですが、絵といっしょにみると実にたのしい!!

・ミッキーの表情やしぐさの愛らしさ
・背景が夜空、ビルが並ぶふしぎな台所
・三つ子のコックさんのちょっと不気味だけど、ユーモラスなミッキーとのやりとり

この絵本は、
コミックのようなコマわりで描かれている場面も多く、 ストーリーが進みます。


吹き出しのようにセリフがあります。 マンガの手法ですね。

おはなしの流れがスムーズになって、 場面転換もたくさんあるわけです。

文章だけではなんのことやら、ですが、 絵本ではとびきり面白くなるのです。


絵本でおこる架空世界への記号は、絶対にありえないこと


まよなかのだいどころでは、 ありえないことがたくさん起こります。


・同じ顔のコックさんが3にん
・裸で飛び回るミッキー
・ミルクと間違えられて、こねられる
・オーブンで焼かれ、飛び出す
・パンの飛行機で飛ぶ
・だいどころのあまのがわへミルクをとりに行く
・牛乳瓶に飛び込む
・たくさんの同じ顔…


それは架空世界の記号だと思います。


現実で双子以上の、 同じ顔の人を見るのはまれですからね。


いやいや、オーブンで焼かれるなんて… と思いますか?


中途半端な表現よりは、


絶対ありえない、

 

これが肝心です。


極端な表現だからこそ、ワクワク・ドキドキするんですね。



知らないうちに進んでいる時間の行方

 

こねて たたいて かためて のばす


ここはお気に入りのセリフで、 パン作りの楽しさが伝わってくる場面です。


いつも朝起きるとほかほかのパンがあって、 そのパン(ケーキ)はこうして真夜中に作られているってこと。

 

ミッキー どうも ありがとう これで すっかり わかったよ ばくらが まいあさ かかさずに ケーキを たべられるわけが

 

 
さいごのページにかかれている文です。


真夜中というのは子どもにとって未知なる世界。


知らない間に進んでいる、
なにかが起こっている、

そんな世界の不思議を垣間見たいと思うのです。

すべての子どもたちにおすすめです。

眠っている間に、


こんな夢みてるかもしれないよ


って、びっくりさせたいのです。

 


*絵本では【ケーキ】とあるのですが、

 表現が混合してますが、絵本の楽しさは変わりません。

ご訪問ありがとうございます。

絵本の解釈は個人的なものです。

絵本選びのきっかけになればうれしいです。

こころが落ち着くしかけが随所に◆『おやすみなさいおつきさま』は眠るまえに読む絵本

眠る前に絵本を子どもといっしょに読むのは、
昼間あわただしく過ごす大人にとっても安らぎ落ち着く時間です。

 

そんな時におすすめなのがこの絵本。
その不思議なしかけに大人は気づくでしょうか。
きっと子どもたちの方が先に発見するでしょう。

 

おやすみなさいおつきさま

マーガレット・ワイズ・ブラウン 作
クレメント・ハード 絵
せた ていじ 訳
単行本: 36ページ
出版社: 評論社 発行年: 1979年

 

まずは、みどりの部屋に注目をじっくりながめて鑑賞する

(ネタバレですから、楽しみにする方は、この項目とばしてくださいね)
  鮮やかなみどり色と朱色の暖炉のある部屋。 その窓から見えるおつきさま。 絵本は鮮やかな色彩のページとグレーの見開きが交互に配されています。 グレーの見開きでは、「おやすみ」とよびかけるものが大きく描かれ、 カラーの見開きは部屋全体が描かれています。 この絵本の驚きはカラーの見開きのはじめとおわりでは、
へやの明るさがまるで違います。
初めてこの絵本を読んだとき、
だんだんと暗くなっていく部屋の様子に、実は気づきませんでした。 部屋の明るさに気がついた時のショックをよく覚えています。

しずかに進む時の流れを感じてみる

お話は、ひとつひとつのものたちに「おやすみ」を告げて進みます。
カラーのページは、最初明るく夜空は藍色で星が瞬いていますが、 次第に部屋はほのかに暗くなっていきます。
ふたつある大きな窓の左窓から月がみえはじめ部屋に月明かりが差し込みます。 夜空は青く輝いています。 子うさぎはベッドで目を閉じ、
ゆりいすにいたうさぎのおばあさんは姿を消しています。
部屋は人形の家の明かりだけが灯されて、お話はおわります。
おやすみ そこここできこえるおとたちも
「きこえるおとたち」にも
おやすみをいうのは、とても新鮮でした。

 

最後のページからは暖炉の炎の音や、
澄んだ星空の音さえ聞こえそうに思われます。

 

そしてなんとも薄暗くも安らぎを感じる部屋。
部屋にある「おやすみ」をしたものたちが、
子うさぎと眠りについたと感じます。

 

おやすみを告げていくモノたちのストーリーを想像する

この絵本をながめていると、
次々にいろんなことを想像してしまう。
不思議だったのはベッドサイドの丸テーブルに置かれ、 電気スタンドに照らされた
「くし と ぶらし おかゆが ひとわん」
おかゆ食べたの? くしとブラシでみづくろいしたあとで? 具合が悪かったの? 風邪ひいて寝ていたのかな? ぜんぶ食べることできなかったの?
  いろんなことを想像してしまいます。 てぶくろが干してあるから、

 

季節は冬かしら?
暖炉に火もおきてるし、
うさぎのおばあさんが毛糸を編んでいるし、 窓のそとの夜空もたいそう澄み切って見えるからね。

 

壁にかけられた三枚の額に入った絵。 それもみんなかなり大きい絵だし立派な額装。

 

この家の主はきっとお金持ち?
ベッドのそばに虎の皮の敷物があるもの。
それとも画家?
浮かんだ赤い風船は、昼間お祭りにいったのかな。

 

それで風邪ひいちゃったとか?
うさぎのおばあさんが編んでいる緑色の毛糸はセーターかな。
マフラーにしては幅が広すぎるもの。

 

ベッド脇の引き出しの上には、黒電話と本が一冊。
本はこの絵本「GOODNIGHT MOON」。

 

なんという遊び心。 子うさぎもやっぱりこの絵本で眠るんですね

おわりに。雅子さまもオバマ一家も愛読書

皇室の雅子さまが子ども時代に読んだ絵本として、
話題になったこともあります。

 

アメリカのテレビドラマERで、子どもたちがベッドに入り、
この絵本が読まれているシーンを見ました。

 

オバマ大統領家族にも、多くの人に親しまれて愛されている絵本です。

 

ご訪問ありがとうございます。
絵本選びのきっかけになれたらうれしいです。

 

ネコの数を数えてみたい『100まんびきのねこ』自己アピールの方法とは

NHK-BSの番組に
「岩合光昭の世界ネコ歩き」という番組があります。

 

ネコと世界の風景、暮らし、
生活の中のネコの様子、性質など。
成り行きで見ることがあって、
見ているとこれが、おもしろいのです。
ネコのしっぽだけ、目の動きだけに注目したり、
壁や木からおりる姿だったり、
寝ているだけの姿とか、
野生を残していることが、しぐさに見えたり、
実にいろんなネコがいるものだと、
感心してしまいます。

 

どのネコもわが道を行く、
って感じです。

 

ネコって不思議な生き物です。

 

この絵本にはたくさんのねこが描かれています。
とにかくすさまじい数の猫が登場します。

 

白や黒や灰色、まだらやトラ模様といろんな柄の猫が描かれていますが、 モノクロだからこそ猫の量(数)と質(形・柄)が、 圧倒的に迫ってくるのだと思います

 

小学校でも1年生、2年生、3年生によく読みました。

 

たくさんの猫に「うわーっ」と
歓声があがることも。

 

身近なネコのおはなしは、
小さな動物をいつくしむ心も養います。

 

100まんびきのねこ

ワンダ・ガウグ 作
いしいももこ 訳
ページ: 32
サイズ: 26.8x18..cm
出版社: 福音館書店
出版年: 1961年

 

はじまりは、昔話のように

  むかし、あるところに、とてもとしとった おじいさんと、 としとった おばあさんが すんでいました。
わたしたちには、聞きなれたフレーズですね。

 

おはなしは、ガアグの創作なのですが、 どこか古のおはなしかと親しみをもって読み進むことになります。

 

大きな数が示すのは、数の表現のおもしろさ

ふたりだけでさびしい暮らしのおじいさんとおばあさん。 猫が1匹いたら楽しかろうと、おばあさんがいいます。

 

そこでおじいさんが、猫を1匹捕まえにでかけるのです。
丘を越えて谷間を通って長い間歩き、 とうとう、どこもかしこも猫だらけの丘につくのです。
  そこにも ねこ、あそこにも ねこ、 どこにも、かしこにも、ねこと こねこ、 ひゃっぴきの ねこ、 せんびきの ねこ、 ひゃくまんびき、1おく 1ちょうひきの ねこ。
このフレーズは、 お話が進むにつれて幾度となく繰り返される 象徴的なものになっています。

 

タイトルは「100まんびきのねこ」ですが、 本文で「1おく 1ちょうひきのねこ」とあります。

 

ですが、「100まんびきのねこ」の方がしっくりと
しますよね。

 

ものすごい数をしめす記号としての
100まん、であり、
1おく、1ちょうなのです。

 

ものすごくたくさんのねこ、とか
ありえないほどのねこ、
というより
100まんびきのねこ、
のほうが、たくさんいるように感じます。

 

細かな絵の隅々までながめつくす

猫の丘へたどり着く道のりは見開きで、 うねる曲線が、谷や丘、流れる雲、山々の木々や草草を 細かな線で密度高く書きこまれています。

 

右手の方へ歩いていくおじいさんがいて、 家から歩いてきた小道もちゃんと辿れます。

 

雲のまわりに帯状の細かな線は、風の道のようにもみえます。
そして猫の丘。 びっしり並ぶ猫の顔の大群。
おじいさんのまわりには立って
踊っているような猫もいます。

 

それぞれが気ままにいろいろなポーズをとっている猫たち。
その数に圧倒されます。

 

選ぶ基準とはなんでしょう?

おじいさんがその中から1番きれいな猫を連れてと、
猫の品定めをはじめます。

 

まずは白い猫を拾い上げますが、 すぐ白黒の猫が目につきます。
さらにふわふわした灰色の猫まっくろの猫、 茶と黄の虎の子のような猫と、
あたりをみまわすたびにきれいな猫をみつけて、
知らぬ間にそこにいる猫みんなを連れて帰ることになるのです。

 

あらあら。

 

さあ帰り道が大変です。何百万もの猫の大行列。

 

途中、池のそばで
  「にゃお、にゃお、のどが かわいたよ」と ひゃっぴきのねこ、 せんびきのねこ、 ひゃくまんびき、1おく 1ちょうひきの ねこが いいました。
どの猫も、ぴちゃ ぴちゃ とひと舐めずつすると、 池の水はなくなってしまったのです。

 

その後、「おなかがへった」と野原中の草もなくなってしまうのです。
おじいさんはこの時、考えなしに猫を全部連れて帰ります。
きれいな猫がほしい、というおばあさんの望みを叶えたかったのでしょう。

 

次々とかわいい、きれいな猫を見るうち
「1ぴき」はぬけ落ちてしまったのですね。

 

なにかを選ぶ時、
デザインに目をとられサイズを間違えたとか、
案外思いあたります。

 

100万匹のねこを連れて帰ってきたおじいさんに びっくりするおばあさん。

 

おばあさんは、こんなにたくさんの猫にごはんはやれない、 といいます。おじいさんときたら
「ああ、それには きがつかなかった」
「どうしたら いいだろう」
そして、しばらく考えたおばあさんは、
「どの ねこを うちに おくか、ねこたちに きめさせましょう」 「それが いい」
とおじいさんは、猫たちに聞くのです。
「おまえたちの なかで、 だれが いちばん きれいな ねこだね?」
すると猫たちは、
「ぼくです」「わたしです」
と自分が一番の猫だと、けんかをはじめて大騒ぎになります。

 

家の中に逃げ込んで様子をみているふたり。 しばらくすると静かになり外をのぞくと、猫が1匹もいなくなっているのです。
「きっと、みんなで たべっこして しまったんですよ」 「おしいことをしましたねぇ」
とおばあさん。

 

ところが、すみっこに
皮ばかりで痩せこけた小さな猫がいたのです。
この猫は、自分が一番きれいだと言わなかったのです。

 

だからだれにもかまわれず生き残ったというのです。
おじいさんとおばあさんは、 その猫の世話をしてだんだん可愛らしい、 まるまるとした猫になるのです。

 

消えちゃった猫たち、ちょっと可哀想…
これは、むかしむかし のおはなしですから、
  理不尽さや不思議はおはなしのスパイスと思いましょう。  

せかいじゅうでいちばん、ということ

自分が一番きれいだと
自己主張し争った猫たちは、 互いに食べあって消えてしまいます。

 

おじいさんたちにとって、 残りものには福がある、結果になっています。

 

食べあって1匹を残していなくなった猫。
この1匹を残すためにも、 100万匹というとてつもない数の猫を登場させる必要があるのでしょう。

 

数はその世界をその世界らしく形にする重要な要素です。

 

10匹や100匹では、このお話は成立しないのでしょう。
100万というありえない数の猫だから、 食べあって消えてしまうこともあり得る、と納得できるのです。

 

最後の見開きでは、おじいさんとおばあさんは、 ふかふかになった猫とともに過ごす日々を得て満足そうです。

 

丸テーブルを挟んでふたりともゆり椅子に腰かけ、 おじいさんはパイプをくゆらせ、おばあさんは編み物をしています。

 

おばあさんの毛糸玉が床に転がっていて、 じゃれる猫がいます。おばあさんは、
  「このねこは、やっぱり とても きれいですよ!」
といい、おじいさんはこう返すのです。
  「いや、 この ねこは、せかいじゅうで いちばん きれいな ねこだよ。 わたしには、ちゃんと、 わかるんだ。 だって わたしは、 ひゃっぴきの ねこ、 せんびきの ねこ、 ひゃくまんびき、1おく 1ちょうひきの ねこを みてきたんだからねぇ」
そしてもう一ページめくると、丸まって眠っている猫の絵。

 

ガアグの描く猫はどれもかわいらしく、
生き生きしています。

 

この絵本の見返しには、
地色が黄色、朱色一色で猫が描かれています。

 

本文のモノクロに対して、
じつに目に鮮やかです。

 

パターンは2つ。後姿で振り向いている猫と、 2匹の猫がバスケットのようなものの中で、 頬よせあっている猫のシルエットが、 丸いモチーフと草木をあしらったパターンで、
見開きいっぱいに描かれています。

 

ご訪問ありがとうございます。
絵本選びのきっかけになればうれしいです。

 

帰るべき場所がある喜びを実感する『あくたれラルフ』理解者がいる安心感

色鮮やかな絵本はながめているだけで心が浮きだちますね。
ご紹介する絵本は、とびきりカラフル!!
 
絵もおはなしも思いっきりデフォルメがきいています。
その突飛な場面がホントだったら、楽しい、に変わる
そんな絵本です。
 
就学前の子どもたちから小学校3年生くらいまで
幅広く読み聞かせできます。
 
「なまごみねつ」に罹ってしまうラルフ、
この「なまごみねつ」に3年生などは食いついてきますね、

 

どんな熱なの?と

 

訳は石井桃子さんです。
実直に、わかりやすく、空想しやすく
絵の邪魔にならない、いつもながらすてきな翻訳です。

 

あくたれラルフ

ジャック・ガントス 文
ニコール・ルーベル 絵
いしい ももこ 訳
大型本: 46ページ
サイズ: 23x21.4cm
出版社: 童話館出版
出版年: 1995年

にぎやかな部屋でのあくたれになってみる

ひまわりとチューリップのにぎやか壁紙が印象的な部屋。 とてもモダンな印象を受ける絵本です。色も多彩で明快、床や壁など大きな面は水彩で塗られているのか、 色むらが絵にリズムをもたらしています。
 
吊り上った大きな目、口も大きく、 ひげはピンと長くのびて毛並みもちょっとゴワッとしていそうな猫のラルフ。
まさに「あくたれ」を絵にしたよう。 けれど不思議に憎めない愛嬌のあるキャラクターになっています。
 

あくたれだけど憎めない、家族の温かいまなざし

いたずら大好きラルフを見守る家族の眼差しは温かです。
仕方ない猫だなぁ、といったところでしょうか。
基本的に「あくたれ」より「すき」が勝っている様子がわかります。
 
サーカス場でのひと騒動、 セイラに見つけてもらったラルフは、
帰る場所があることに安堵します。
 
そして最後にエビを頬ばりながら、 ほどほどの「あくたれ」が
許される場所にいられる幸せを味わっているのでしょう。
 

にぎやかな部屋で想像できること

ラルフのお話と絵は、ユニークな言葉とともに
この絵本らしさになっています。
 
人物や動物、草花、建物・家具・調度品にいたるまで、 そのポーズや動きなどすべてがデフォルメされて描かれておおり、 動物もバランスが崩れているように見えます。
 
けれど不思議に違和感は感じられません。
あのラルフを描くなら、背景や小道具も、ラルフ仕様。
 
それが絵本全体を貫いて描かれていますね。
 

カラフルな中にスキという気持ちをこめて

色使いもとにかく派手
一つの場面に少ない時でも十色、
多い時は三十色以上が使われています。 このカラフルさがこの絵本のわくわく感になっています。このお話は冒頭の
あくたれでも、セイラは、ラルフが すきでした
につきるのですね。
 

時には思いっきり子どもを自由にさせてみましょうか

息子が子どもだったころ、びっくりしたことをいくつか。
 
3歳、雨の中を、裸で駆けまわる
4歳、雪の中私をさがして、1度しか行ったことがない場所へ一人でやってきて、肝を冷やした
5歳、ブロックのレゴが好きで、何時間も熱中
3歳、ブナ林に行くとスイッチが入ったように駆け回りはじめた
4歳、新雪が降ってその雪を思いっきり頬ばってニッコリ
4歳、タンポポの綿毛飛ばしをはじめ、綿毛の中に埋もれるくらいまでやってた
3歳、夏、祖父と蝉取りに出かけたら小さなかごに20匹ほど捕まえてきた
5歳、シャボン玉を飛ばしていたが、そのうち地面にシャボン玉ドームを作った
6歳、ホットケーキのデコレーションに凝って3日連続作った
7歳、あやとりにはまり、15段梯子までつくる
9歳、枝雀落語の「代書」のDVDを見て涙を流して笑い転げた。
(枝雀落語のあるだけのCDを録音。3年間晩ごはんの時と寝ながら聞いていた)
 
ラルフほどのやんちゃはしませんでしたが、思い出すと笑えます。
ご訪問ありがとうございます。
絵本選びのきっかけになればうれしいです。

 

五感で感じる秋をあじわう『きんいろのとき』はハロウインに読みたい

秋は彩豊富な季節ですね。
空の色や景色もどんどん色が変わっていきます。
 
紅葉で色が変わっていく楓をみたり、
空の水色が空気が冷たくなってクリアになっていく、
そして、大好きなカボチャやサツマイモをほおばる、
そんな秋が大好きです。
 
きんいろのとき
アルビン・トレッセルト 文
ロジャー・デュボアザン 絵
えくに かおり 訳
大型本: 24.8 x 19.8cm
出版社: ポルプ出版
出版年: 1999年
 

秋色満載の絵をたのしむ

表紙を彩るのはハロウィンのカボチャに代表される秋の色、小金色。
両手に抱えたカボチャが豊かな秋を象徴しています。
 
見返しにも線画で描かれた収穫の数々。
右ページには秋のさまざまな景色。
 
左ページには額のようにまわりをとりかこむモチーフの絵が描かれ、
その中に文が書かれています。
 
額に描かれるのは、
輝く麦の穂の、黄金色
森の中のどんぐりは、ベビーピンク
りんごの収穫を大きな荷台に積み込む様子が描かれる、
夜の家がシルエットで浮かぶ、グレー 月夜の真っ青な空に踊るカボチャのおばけは、ピンク
 
色彩がクリアで明るい印象、黒の線と面が際立ちます。
どのページも豊かな色の饗宴がみられます。

丁寧につづられる日常の情景描写

 
おはなしは、遅い夏から始まります。
自然を五感で感じて、綴られています。
 
秋へのゆるやかな季節の流れが、
収穫の畑で、ちゃぐ ちゃぐ ちゃぐ、かた かた かた
楽しい音とともに、耕運機が忙しそうに動いています。
 
子どもたちが行きかう森の中は、
野ネズミやリスがあわただしく秋の実をついばみます。
 
家のまわりや庭には、
ユキヒメドリやゴジュウカラが収穫の後にあらわれます。
そして家の中、
大きな四角いテーブルに真っ白なテーブルクロスを整え、
準備に賑わいます。
 
10人もの人が描かれ、それぞれに忙しい、感謝祭なのです。
 
この絵本の副題は、「ゆたかな秋のものがたり」。
静かに流れる時を絵本とともに過ごせます。
 

おわりに。カボチャは栄養満点、万能野菜

収穫の喜ぶは万国共通なのだと、
絵本を読んで、あらためて思いました。
 
淡々と綴られる情景から秋を十二分に感じられます。
 
カボチャは近年のハロウィンで、
すっかり秋の食材のイメージですが、
夏の間もぐんぐん育っておいしくいただける野菜です。
 
お惣菜にも重宝しますし、
スイーツならパイやプディングにしても、
とにかく使い道に困ることはありませんね。
 
ご訪問ありがとうございます。
絵本選びのきっかけになればうれしいです。
 

『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』はひとりで何でもやりたがる時期に読んでみたい

子どもの頃、汽車を見ると必ず手を振りました。
とても親近感をもてる、大きくて力持ち、
たのもしい乗物です。
 
今なら新幹線でしょうか。
電車好きはいくつになってもやめられないよう。
 
アメリカが舞台の機関車が主人公のロングセラー絵本です。
 
大きな絵本なので読み聞かせにも最適でした。
小学1年生や2年生に読むと、目をキラキラさせていましたよ。
 
いたずらきかんしゃちゅうちゅう
バージニア・リーバートン 作
むらおか はなこ 訳
ハードカバー
サイズ: 30.6x22.4cm
出版社: 福音館書店
出版年: 1961年
 

力強いパステルで描かれる機関車に乗った気分になる

パステル画のような陰影で描かれた迫力ある大判絵本です。 どの場面を切り取っても躍動感あふれる人物と景色があらわれます。
特にきかんしゃ、ちゅうちゅうが疾走するするシーンは 迫力満点です。黒の濃淡で描かれた絵は蒸気機関車を よく伝えています。
吐き出す煙がもくもくと描かれ 昼と夜のコントラストも余計に際立って見えます。 文字の配置が線路?煙?のようにうねっていたり 斜めに行頭がそろっていたり、 場面ごとにリズムが感じられます。

ひとりならもっといいことあるぞ、は本当か?

黒くてピカピカの機関車ちゅうちゅうは、
いつものように小さな町から大きな町へ客車をひいて、
行き来していました。
 
ある日、ふと自分ひとりならもっと早く走れて、みんなの注目も得られる、と
ひとり走り出すのです。
 
自由に走り回るちゅうちゅう、
ぶつかりそうになったり、跳ね橋を飛び越えたり、
大きな操車場に迷い込んだり、道(線路)に迷ったり、
しまいにぼろぼろになってきて、薄暗いところで止まってしまいます。
 
心配した機関紙たちが、最新の記者でちゅうちゅうを探索、
無事に連れて帰ることができるのです。
 
ちゅうちゅうがあれこれやってみて、 最後に自分なりに考えます。
好き勝手にやってもいいことはさほどなかったな…
いつものように喜んでもらえる、いつもの仕事をしようと
最後に、優しい煙を吐きながら夜空を落ち着いて走る姿に ちゅうちゅうの満足感が見えました。
 

翻訳は『赤毛のアン』の村岡花子さん、装丁や文字配置も注目

見返しは優しいパステルカラー。 街全体が柔らかに広がっています。
 
そのコントラストも魅力です。
翻訳が『赤毛のアン』の村岡花子さんです。
息子が子どもの頃たくさん読んだに気が付きませんでした。
作者のバージニア・リーバートンさんのデビュー作です。
機関車好きの長男のために書いた絵本で、アメリカでは1937年に出版されています。
バートンさんは『ちいさいおうち』や『せいめいのれきし』で日本でもファンの多い作家です。
 
日本は1961年が初版ですから、半世紀以上、
長く読まれている絵本ですね。
ご訪問ありがとうございます
絵本選びのきっかけになればうれしいです。

 

『ちいさなヒッポ』こうありたい親子の信頼関係

カバの大きさはいつ見ても圧倒されます。
いつも、なんて大きいんでしょ!!
と。
 
息子が子どもだったころ、
動物園に行くことが、何度かありました。
象も大きいですが、足も長めで、目線が上にあるせいか、
カバほど、大きい!という印象を受けないのです。
(もちろん大きいんですが)
 
カバは目線が平行にあるせいなのか、
目の前にたつと、自然と後ずさりしてしまいます。
 
子どもの目に、あの大きさは、
どんなふうに映っているんでしょうね?
 
ちいさなヒッポ
マーシャ・ブラウン 作
うちだ りさこ 訳
ページ: 36
サイズ: 23.8x23.6cm
出版社: 偕成社
出版年: 1984年

 

ヒッポは英語でカバのことです。
原題は『HOW HIPPO!』。
 
大きなカバの親子のおはなしで、
子どものカバが、ちいさなヒッポ、なんですね。
 
目を引くのは木版画で描かれた絵です。
使われている色は、
主にカバの濃紺と、背景とカバの口の中の赤、
そして背景のや植物のオリーブ色のほぼ3色です。
 
どの色もかすれて淡い色合いとなって、
カバのように大きな動物を描いても、
場面が重くなりません。
 
カバの開いた口の赤が、その大きさをよく表していますね。

おやこに通じるだいじなことばを持つこと

おはなしは、
カバのおかあさんの背中にのったヒッポの姿からはじまります。
生まれた時から、おかあさんの側を離れたことがないヒッポです。
 
すべての見聞きするものが珍しいヒッポです。
ある日、ヒッポがカバの言葉を覚える時がきました。
「グァオ、ヒッポ」と、まず
おかあさんが ほえてみせます。
「グッ グッ! グァオ!」と、
ヒッポが くりかえします。
「グァオ、こんにちは!」
「グッ グァオ、おんにちは」
「グァオ、あぶない!」
「グッ グァオ、あぶらい」
「グァオ! たすけて!」
「グァオ たっけて」
「いいかい、ヒッポ、グァオが
とても だいじなのよ」
ヒッポのたどたどしさから、幼さが伝わりますね。
 
おかあさんの側にいながら、
生きる術をいろいろ体験しながら教わっていきます。
 

大事なことばが役立つとき

ある日、大人のカバたちが眠っているときに、
ヒッポは、ひとり遊びに出ます。
 
そこで、ヒッポは静かに近寄ってきた、
ワニに襲われるのです!!
しっぽを噛みつかれて引き落とされそうになったその時、
「グッ グッ グァオ!
たすけて!
とヒッポは叫びました。
そこへあらわれたおかあさんカバの勇猛なこと。
 
ワニの胴をガブリくわえて、ほうり投げました。
カバの口のなんと大きいこと!!
 

「グァオ!」は母と子をつなぐことば

 
助かったヒッポにあらためて、
どんなときでも「グァオ」叫ぶように、さとされるヒッポ。
最後にようやく
「グァオ!おかあさん!」
とちゃんと、いえるようになったヒッポです。
 
親に対する絶対的な信頼感と
子どもを絶対に守りたいという母心が感じられます。
 
絵本を見ていると、
 
砂地で重なり合ってひなた水に浸って眠る、
涼しいひぐれになってから動き出す、
食べ物さがしに夜に活動する、
 
など、カバの生態がきちんと描かれています。
小学校の1年生、2年生に読みましたが、
「グァオ」のヒッポの言い間違える部分に、
子どもたちから笑いが起こる絵本です。
 
自分はあんなふうに、間違えない、
ちゃんと言えるぞ、と。
 
子どもの成長を感じさせてくれる絵本でもありますね。
ご訪問ありがとうございます。
絵本選びのきっかけになればうれしいです。