深読み!海外名作絵本100

発表から25歳年以上読み継がれている”これだけは読んでおきたい”海外の名作絵本の数々。 読み聞かせ歴15年、のべ9000名をこえる子どもたちに絵本を読んできました

『星座を見つけよう』子どもと一緒に楽しむ星の絵本

星一つ残して落つる花火かな  酒井抱一

いつの時代も星は人々に詩をもたらしてきたことがわかります。

 

 

星座を見つけよう

H・A・レイ 作

草下英明 訳

出版年: 1969年4月

出版社: 福音館書店

 

本の内容紹介から

あなたは、星や星座の名前を、どのくらい知っていますか? 昔からの方法で星と星を結んで作る星座はとてもややこしいものです。でも、H.A.レイが、とてもわかりやすく、イメージしやすい、独自の結び方を考えてくれました。
また、星の名前や明るさ、宇宙での距離のあらわしかた、春夏秋冬、季節ごとの星図など……語りかけるような調子でわかりやすく描かれています。ほじめて星空に親しむお子さんから、大人まで、宇宙のしくみの基本が、楽しく理解できます。

出版社からのコメント

昔ながらの方法で結ばれた星座は、その名のイメージとかけ離れたものも多く、ピンとこなかった経験がある方も多いと思います。おおぐま座、うしかい座……この本の星座は、H.A.レイさんが考えだした、独自の線で結ばれているため、名前と形がぴたっとつながります。
また、星座の話にとどまらず、星に名前や明るさの違いがあることや、宇宙の広がりについて、惑星についてなども、わかりやすく掘りさげています。

1969年の初版、手持ちの絵本は2006年で73刷です。
本当に長く読まれ続けている絵本です。

絵本といっても72頁というボリューム。
「福音館の科学の本」は読書対象者が、
小学校中級からおとなまで、とあるように
幅広い年代に面白くまたわかり易く書かれています。


作者は「ひとまねこざるシリーズ」のH.Aレイです。
ゆかいなジョージのおはなしとは違って、詳しく丁寧な解説。
ページの隅に小さなこどもたちがページをめくる案内をしてくれます。
彼らがつぶやくセリフがこちらの気持ちと重なります。

 

北斗七星にはじまり全天星図まで、星空を楽しむ本です。



 

『カエルのバレエ入門』伝統、型、表現、筋肉

これはなんといっても、カエルの優雅な姿を描いている
クリントン・アロウッドに拍手です。

カエルの真剣・大真面目な表情と
華麗なポーズが最高にキュートな絵本です。


 

カエルのバレエ入門

ドナルド・エリオット 文

クリントン・アロウッド 絵

 

出版社: 岩波書店

出版年: 1983年3月

 



黒一色で描かれた絵は、とにかく線が細い。
極細密線画。
黒くみえる部分もベタでぬらず、線を書き込んでいます。

冒頭に「はしがき はじめに」があり
おわりに「ちょっとまじめな解説」がありますが、
それ以外の目次は、


第1部 ポジションと動き
五つの基本ポジション
 第1ポジション 第2ポジション 第3ポジション 第4ポジション 第5ポジション
バーおよびセンターでおこなうポーズとパ
 プリエ アントルシャ グラン・ジェテ パ・ド・シャ カブリオール パ・バロネ アティチュード 
 アラベスク デヴロッペ
パ・ド・ドゥ
 ピルエット アラベスク・パンシェ グラン・ジュッテ プティ・バットマン アティチュード 
 バ・ポワソン

 

第2部 カエルのバレエ団 
 終幕のあいさつーブラヴォー! プリマ・バレリーナ 


基本、右ページにカエルのポーズの絵があり、左ページにポーズの解説が書かれています。
右ページの絵の下に書かれた文のおかしいこと。
例えば、
第1のポジション あほづらはおまけです

 

第3のポジション …できるだけ肥らないようにしなくてはいけません
プリエ      こればかりということはないにしても、熱心に練習しましょう
パ・ド・シャ   人生でできるだけ大きな音をたてずにおりることを心がけてはどうでしょうか
カブリオール   …軽い、いたずらっぽい、かわいい動き

 


アティチュード  ある感情や態度を表現する

 

アラベスク・パンシェ おたがいの信頼と調和がなければいけません

なんとも、言い得て妙、本当に。



最近、バレエの世界コンクールで日本人が多く受賞するニュースを嬉しく聞いています。
身体の芸術的表現は日本人には、向いているのでしょう。もちろん内的表現も。
繊細緻密な表現力を必要とする、芸能(能、狂言、歌舞伎)が日本には多くあります。  
型を身につける素養もあるように思います。

バレエには、音楽と物語と舞台美術と衣装とスタイルとがあり、
その優雅さに憧れ、
10代はバレエ漫画(アラベスク、SUWAN)に夢中、
20代はバレエ公演を観まくり、
30代は数か月バレエレッスンに通い、
40代は映像鑑賞専門

50〜60代はYouTubeそして再び舞台鑑賞


40代にこの絵本でバレエへのワクワク感を思い出したのでした。

最後になぜカエルか。

やっぱりハリのある手足の曲線の美しさでしょう、
と勝手に解釈シテマス。


『つきのぼうや』カタチで楽しむおはなし

つきのぼうや
イブ・スパング・オルセン 作
やまのうちきよこ 訳
出版社: 福音館書店
出版年: 1975年10月
 


 

 

縦33.5㎝、横12.7㎝
絵本としてはかなり変形なサイズが目をひきます。
開くとそのわけがわかります。
 
まず、見返しが印象的。
雲間から見える満面の月、薄暗がりの中、月を見上げる人、ネコ?、舟…
月明かりに照らされる地上に影が落ちて、
お話の明るさと対照的な印象さえ受けます。
ですが、月を見上げる気分はこうした気分、のようにも思えます。
そして、最初と終わりの見返しは構図が逆、
さらにおつきさまのポーズも変わって、
お話とリンクしています。
 
上から下へと視線が移る絵本です。
絵も文も、細長い構図におさまっています。
 
絵は表紙同様の心地よいブルーの背景が、ほぼ全ページをしめ、
空、街、海と場所が変わっても、
ずっと続いている感じを与えています。
 
 
お話は、
 
おつきさまが池に映ったおつきさまを見つけ、
つきのぼうやに、連れてきてほしいと頼むのです。
そしてはじまる、つきのぼうやの冒険。
 
空の高いところから低いところ、
地上に近い高いところと低いところ、
水の中の浅いところから深いところ、
そして見つけたつきのともだち、水の中でキラキラ光っていた手鏡。
それを持ち帰って、おつきさまは大満足なのです。
 
 
 

『ほしになったりゅうのきば』七夕の夜に読みたい絵本

赤羽末吉さんの迫力ある絵が魅力的な大型の絵本。

 

 
ほしになったりゅうのきば
 
君島久子 再話
赤羽末吉 画
出版社: 福音館書店
出版年: 1976年12月
 
 
 
表紙からして竜が可哀相に思えるくらい、主人公のサンは強いのです。
中国の民話をもとにしたおはなしは、夜空の星の天の川にまつわる壮大なもの。
 
二匹の竜の兄弟喧嘩から天は破けてしまい、
なんとかしようとサンは、繕い物が上手いクマ王の娘を嫁にして、
空へと向かう。
 
とにかくどのページも絵が見事です。
3人の娘に求婚にいく場面は、軽やかな線と明るい色彩で、
音楽が聞こえてきそう。
 
絵本の大きさがおはなしの内容に合っています。
 
天を修繕にいく場面は、人は小さく描かれ見開きで、
より天の広大さが迫ってきます。
 
この季節、冒険とロマンと広々とした気分になれる絵本です。
 
 
 
 

 

『ちびくろさんぼのおはなし』こんなことがあったらおもしろい

この絵本の楽しさは、その奇想天外さ。
 
なんといっても、トラがとけてバターになってしまうのですから。
 

 
 
ちびくろさんぼのおはなし
 
ヘレン・バーナマン 作
なだもとまさひろ 訳
出版社: けい書房
出版年: 1999年6月
 
 
 
とらたちは はしって はしって
はしりつづけ とうとう
すっかりとけてしまいました。
きのまわりに のこったものは
とけた ばたー(いんどでは「ぎー 」といいます) の
いけ だけでした。
 
4頭の頭のとらたちに次々と、
赤い上着、青いズボン、紫の靴、緑の傘を取り上げられて
意気消沈するちびくろさんぼ。
 
ですが、ジャングルで1番を争って
バターになってしまう、という顛末。
 
はじめて読んだときは驚きました。
 
もうひとつ驚いたのは、
そのバターを使っておかあさんのくろまんぼが作ったホットケーキ。
 
くろまんぼが27枚、くろじゃんぼが55枚、
そしてちびくろさんぼが169枚、食べました。
 
合計251枚、そんなに作れないでしょう、
なんて、ツッコミをひとりで入れてましたね。
 
小学校でこの絵本を読むと、
ホットケーキの枚数を計算しだす子どもたちがいました。
 
このおはなし、
ちびくろさんぼ はジャングルへ
作ってもらった服を着て出かけただけなのです。
 
無駄な争いをせず ( トラにはかないそうもないですし)
傍観していただけ。
 
読むたびにみんなホットケーキを食べたくなる、
そんな絵本です。
 
 
この小さな絵本は掌にのるサイズですですが、62ページあります。
日本ではじめて発売されたのがこのサイズです。
絵本読み始める2歳半の子どもたちが手にすると、自分の本と思うことでしょう。
 

 

『川はながれる』はじまりを考えてみる

川の流れをみて思い出した絵本が、まさに「川はながれる」です。
 
 
川はながれる
アン・ランド 文
ロジャンコフスキー 絵
掛川 泰子 訳
出版社: 岩波書店
出版年: 1978年11月
 
自然を観察する眼差しが遺憾なく発揮されています。
派手さはありませんが、木々や草花、石や動物そして川が、きちんと描かれています。
 
生まれたばかりの川を眺める森の住人たち
雨が降り膨れ上がる川
その流れは町にも
海を見つけにいく川
 
 
はるかかなたの さむい北国、
その山おくの マツの木の森で、
ゆきがちけ、 こおりがとけて、
ちいさな川が生まれた。
 
 
これははじまりの文ですが、
川が生まれるものであることに気づかされます。
 
あらゆるものにはじまりと終わりがある、
小さな川と旅することで、世界が広がる、
そんなことを感じる、絵本でもあります。
 

『ふわふわしっぽと金のくつ』異国の行事をたのしむ


 
 
 
ふわふわしっぽと金のくつ
デュ・ボウズヘイワード 文
マージョリー・フラック 絵
 
出版社: PARCO出版
出版年: 1993年7月
 
 
この絵本、春のこの時期にいつも思いだします。
表紙のうさぎたちと柔らかな春色に、ほっとします。
 
キリスト教を信奉する国のお祭りのひとつであるイースター(復活祭)。
キリストが死後3日目に復活したことを記念し、
春の訪れを感謝するお祝いなのです。
 
春分の日の後の満月のつぎの日曜日がその日です。
イースターにかかせないのが、
お話の主人公でもあるイースターバーニーで、
幸運を呼ぶ卵を配るうさぎです。
 
うさぎは、春になるとたくさん子どもを産むので、
生命や多産の象徴、卵は復活の象徴と言われているのです。
 
この日はゆで卵に絵を描いてプレゼントしたり、
うさぎの形をしたりチョコレートやキャンディを食べたりして、
楽しく過ごすのだそうです。
 
おはなしは、
子どもたちに幸運を呼ぶ卵を届けるイースターバーニーになれるのは、
世界中のうさぎの中から5匹だけなのです。
 
ふわふわしっぽのお母さんは言います。
「賢くて、思いやりがあって、すばしっこい子になりなさい。そうすれば、いつかきっとイースターバーニーになれますよ」
 
その選ばれたうさぎを目指す、いなかうさぎの女の子、ふわふわしっぽも思います。
「おとなになったら、わたし、イースターバーニーになるの。いまに見てて!」
 
時は過ぎて、大人になったふわふわしっぽは、結婚して
21匹の赤ちゃんが生まれます。
子どもたちには、お掃除、料理、ベッドメイキング、洗濯、洗い物、お裁縫、歌と踊り、庭仕事、絵を描くことなど、
家のいろんなことを振り分けたのです。
 
そんなふわふわしっぽは、長老に見込まれて、
見事イースターバーニーに選ばれます。
 
卵を配り続けるうさぎたち。
くじけそうになりながらも、長老に助けられ
仕事をやり遂げます。
そして、子どもたちの待つ家に戻ります。
タイトルにある、金のくつ、は
長老がくれたもの、空高く舞い上がることができました。
 
 
 
さて、もう40年ほど前ですが、
一緒に仕事をしていた人の家にお邪魔した時、
壁に絵が描かれた卵が10数個飾られていました。
アクリル絵の具でしょうか、綺麗に発色してラメを使っていたのか、
照明が当たるとキラキラしていました。
 
アメリカに留学していたこともあり、
アメリカ時代の友人が作ったというその卵が、
イースターエッグでした。
ゆで卵ではなく、中身を穴を開けて出して、殻に描いていましたね。
この絵本をはじめて知った時にこのことを思い出しました。
 
 
 

『ムーン・ジャンパー』だれもがこんなふうにしてみたくなる

なんとも、しっとりとした空気が感じられる絵本です。

ただただ生きる喜びを感じられる、そんな絵本です。


 
 
ムーン・ジャンパー
 
ジャニス・メイ・ユードリー 文
モーリス・センダック 絵
谷川 俊太郎 訳
 
出版社: 偕成社
出版年: 2014年10月
 
 
 
 
おひさまは、くたびれている。そらから
うとうと ねむりかけた おかへ おりてくる。
 
はじまりの文。
くたびれたおひさま、という表現に笑ってしまいます。
 
ある夏の夜、
青白く輝く月に向かって子どもたちが、ジャップするのです。

青々と茂る、芝生の広がる庭で、
月を見上げる子どもたち。
男の子が2人、女の子が2人。
 
木に登ってみたり、でんぐり返しをしてみたり、
走りまわって、ジャンプして、
届かないおつきさま。
 
お話のなかで、おつきさま大きくなって、
より神々しさを増してゆく。
 
おかあさんに時間ですよ、と呼ばれて、
おつきさまと夜の時間との戯れる時は、終わりです。
寝床につく子どもたち。
 
おつきさまは、そらの うみを わたってゆく。
4にんは ねむって、 あしたのおひさまを ゆめみる。
 
おわりの文。
月と遊び、おひさまを待ちわびて、
明日に向かって生きる子どもたち。
 
そこに見えるおつさまを、触れそうに思って、
手を伸ばしたことを、ふと思い出します。
見えているのに届かない、不思議。
 
センダックの絵は、とても繊細。
芝生がひんやりと湿っている、
月の光はほのかにオレンジがかって見えたりもするのです。
樹々の肌や枝や葉の一枚一枚が月の光を浴びて輝いています。
 
裸足で駆け回る子どもたちの飄々とした姿が、
なんとも愛おしいのです。
 
 
 
詩人谷川俊太郎さんの訳。
センダックの絵本を訳したのはこれが初めて(のはず)。
 
この絵本が作られてのは1959年ですが、
日本語訳で出版されたのは、2014年です。

 

『海べのあさ』世界は輝いていると知る

きらめき・・・
はじめてこの絵本を読んだときの第一印象。
 
 
海べのあさ
ロバート・マックロスキー 作
いしい ももこ 訳
出版社: 岩波書店
出版年: 1987年7月
 
サリーと妹のジェイン、おかあさんとおとうさんの4人家族は、海辺のそばに暮らしています。
 
 
ある朝、サリーは目をさまし、かけぶとんのかげからそっと外をのぞきました。
~きょうは、おとうさんとバックス・ハーバーへいく日だったののです!
 
こうして始まった1日。
サリーは歯が生え変わる年頃、ジェインは2歳くらいでしょうか。
ジェインの世話をやきながら、グラグラの歯を気にします。
サリーははまぐりをとっているおとうさんの元へ。
 
海辺の景色と動物たちの様子が生き生きと描かれています。
ミサゴ、アビ、アザラシ、カモメそしておとうさん、
みなに「歯が抜けかかっているの」とふれまわります。
 
おかあさんに、歯が抜けるのは、大きな子になるしるし、まくらの下に抜けた歯を置いて、
すると願い事がひとつかなう、といわれたから。
その嬉しさがあふれ出ています。
 
おとうさんに大きな口をあけてグラグラの歯を見せようとしますが、
なんと歯がなくなっています。
途中、海藻に滑ってしりもちをついたりしていましたからね。
 
さて、家に戻ってから、サリーとジェインとおとうさんはボートで出かけます。
モーターが壊れておとうさんは手で漕ぎます。
 
バックス・ハーバーにはいろんなお店があります。
ボートのモーターを修理し、抜けた歯のあとを大人たちに見せて、(なぜか男のひとばかり)
チョコレートアイスクリームを食べて、食料品とミルクのびんにつめてもらって、
帰途につくのです。
なおったモーターを勢いよく響かせて、
おかあさんのハマグリのスープができている家へ。
 
すべての場面がいきいきと輝いて見えます。
彼女たちの見る世界が輝いているからなのでしょう。
 
大判の絵本で、色もブルーブラック、1色ですが
海は光って見えます。
人やモノ、自然、あらゆるものが動いているようです。
 
 

 

『ぼくはきみできみはぼく』子どもの目線を知りたい時に読む絵本

この絵本に描かれる子どもたちのなんと楽しげなこと。

細く繊細な線、くるくると踊る線、
子どもたちの姿がとにかくたくさん描かれています。
 
あるページでは、6人がしぐさを変えて10のパターン、
どのポーズも弾けています。
子どもの世界で子どもはこんなにも楽しく過ごしていたっけ、
絵本の中の子どもたちを見ていると、思い起こされます。
 
 
 
 
ぼくはきみできみはぼく
ルース・クラウス 文
モーリス・センダック 絵
江國香織 訳
出版社: 偕成社
出版年: 2014年10月
 
 
クラウスの文は、詩であり、物語になり、芝居をし、会話する。
 
最初ページ、
このこは いま ともだちを
まっているところ
まっていて もっと
まっているの
 
野はらに積んだ花を手に、広い空の下で微笑んでいる女の子。
いっつもふたり、なにするのも真似をする男の子。
おおきくなったらうさぎになるの、という女の子は、
大人の女のひとになるまえにね、とわかっている。
 
友だちが子どもたちには不可欠なのだと、
絵本の子どもたちをみて思うのです。
それと同じくらい、一人の時間も大切なのだと、
やはりこの絵本の中の子どもたちを見ていると思うのです。
 
丘に手を後ろ手にしておひさまをみている男の子。
 
いいおひさまだな
いいいえだな
いいかわだな
ぼくがいるおかも
きこえているとりのうたも
ぼくのあたまのなかのおはなしも
 
右ページには男の子と鳥とお日様と家と月の物語。
 
こんな楽しい詩はいかが。
 
まぬけ
 
あなたはまぬけ
わたしはちがう
あなたはまぬけ
わたしはちがう
まぬけまぬけまぬけまぬけ
あなたはほんとにまぬけなまぬけ

 
最後のページは すきの うた
 
あのこが すき  だって
あのこは わたしが すきなの だって
わたしたち すきどうしなの
 
だって
だって
 
ーほら、これがそのダンスー
 
だって、そうなんだもん!
 
こんな世界にいきている子ども時代を大切にしたいと、
すてきな絵本に出会うと思います。

上記は、大地の芸術祭の作品「チョマノモリ」はこの絵本とイメージが重なります

 

『すばらしいとき』自然を体感する素晴らしさ

 
すばらしいとき
ロバート・マックロスキー 作
わたなべ しげお 訳
出版社: 福音館書店
出版年: 1978年7月
 
 
 
夏の気配が場面いっぱいに感じられる絵本です。
表紙からして水辺にヨット、夏になるとページをめくりたくなります。
 
湾に小島の連なる避暑地、夏の景色が雄大に語られています。
女の子が2人、水辺を、林の中を、海岸を、
ボートの上で、夜の湖で、大空を見上げて、
 
自然はなんと豊かでしょう。
お話の始まりは雲が動いて、雨が降る瞬間を見事に表現しています。
 
〜くものかたまりが 顔をみせるーー
ほら、こちらにちかづくにつれて、
ゆっくりと ふくれあがってくる。
くもは、そのかげで 山をくらくし、
つぎつぎと 島をくらくする。
とうとう
この島のおまえたちまで
かげのなかにいれてしまう。
おまえたちは、
湾をよこぎって ふりだした雨を
ながめてたっている。
 雨は、どんどん ちかづいてくる。
ほら、百万の雨脚の音がきこえるだろ。
もう、雨つぶがおちるのがみえる。
水の上に…
 年へた岩のみさきの上に…
  やまももの上に…
    くさの上に…
     いきをひそめてごらんーー
 
おまえたちの上ににも 雨が ふりだした!
 
 
海に落ちる雨の音が聞こえてくるようです。
 
 
 
子どもの頃、
雨が降る中を歩ていて、雨が降っているところと降っていない境界をみたい、
と思っていました。
大人になって、
車を運転しているときに、黒い雲の下に黒い霧のようにみえる雨の
その中に入っていくとき、ワクワクしました。
 
面で描かれたマックロスキーのパステルカラーの淡い世界が、
柔らかい夏を表しています。
水着の少年少女もどこが涼しげ。
 
夏休みにもいろいろあるものです。
はじめて読んだ時、そんなふうに感じました。
休暇に対する考え方や、大げさの言えば人生の過ごし方の違い。
 
 
お話の後半は、嵐が来るのに備える様子から、
嵐の夜をやり過ごし、
嵐のよく日を楽しむ様子が描かれます。
そして、夏のおわり、一家は島を去る日が来たのです。
 
波と空を
ようく みておくんだよ。
海の潮の香りを
ようく かいでおくんだよ。
去っていくこの場所のことを かんがえると、
すこし さみしいね。
でも、 これからいく場所のことを
かんがえると、すこし うれしいだろ。
しずかに
思いめぐらすときだーー
 
どこにいたんだろう、ほら、
はちどりたちは
あらしの さなか。
 
こうして、お話はおわります、61ページと読み応えのある1冊。
じっくりじっくり味わいたい、そんな絵本です。
 
 

 

「名馬キャリコ』活劇でスカッと爽快になる

はじめてこの絵本をみたとき、
まるで映画のよう、と思いました。

 
名馬キャリコ

バージニア・リー・バートン 作

せたていじ 訳

出版社: 岩波書店

出版年: 1979年11月

 


ところははるか、西部のサボテン州に、その名をキャリコとよぶ名馬がおりました。みめ美しくはありませんが、あたまはめっぽうきれましたし、足のはやさは、とびきりでした。

とはじまります。
おはなしは痛快な勧善懲悪ストーリー。
牛を盗み出して、捕まって牢屋行、脱獄して、また悪さを働きますが、
キャリコの活躍で事なきを得、悪さはすまいと回心するスチンカー。


あれよあれよとおはなしは二転三転、
悪党のすごみやスチンカー一味が憎めないキャラクターですし、
最後は心を入れかえて、大団円。


全58ページ、1ページに正方形2コマか1コマの長方形に、
小気味よく絵が続きます。
全てモノクロというのも、モノクロ映画を観ているようです。


絵が黒の単色に対し、背景の色はどんどん変わります。
黄土色、肌色、灰緑、橙色、グレーピンク、鮮やかピンク、若草色、明るい黄土色、
どの色もシックな感じです。

リズミカルな動き、馬の躍動感、雲や雨、土煙などデザインが洗練されており、
風景の奥行や距離感が見事、登場人物がいきいき動いている絵本です。

 


本のサイズも小さ目、天地16.5㎝、幅20.5㎝ほど。

本は小さい方が集中してできるものです。

 

前後の見返しに全ページがフィルムのようにならんでいます。
扉が映画のタイトルのようですし、余分なものが一切ない装丁が清清しい。

 

おはなしも絵も、スカッと爽快な気分を味わえる1冊です。

 

『うさぎのみみはなぜながい』何事も理由を考えてみる

 これは、メキシコがまだナオワの国といった時代の、
おおむかしの物語です。
 そのころすんでいたメキシコ人は、みな、わたくしたち日本人そっくりの人たちで、
アステカ文化という、たいそう高い文化をもっていました。


うさぎのみみはなぜながい

北川民次 作

出版社: 福音館書店

出版年: 1982年7月

 


中表紙に上記のような、まえがきがあります。
作者の北川民次はメキシコに暮らして絵を描いてきた人です。

絵本の題名どおり、うさぎのみみが、なぜ、長くなったのかを
物語っています。

うさぎは山の神さまのところへでかけ、お願いします。
ちっぽけなからだしか授けてもらえなかったために、
もりの仲間にいじめられ、ころされてしまう、
もっとからだを大きくしてください、と。
神さまは、
「よし。では、おまえがとらと、わにと、さるとを、じぶんの てで ころして、
その かわを もってきたら、おまえの ねがいを かなえてやろう」といわれました。


無理難題に途方にくれながらも、うさぎは森へ出かけて行きます。
そして勇気と知恵で、見事その難題にこたえたのです。

「かみさま。おおせのとおり、とらと、わにと、さるとを、わたしじしんの てで ころして、
かわを とって もってまいりました。
 かみさま。どうぞ はじめの おやくそくどおり、わたくしを もりの なかで いちばん おおきな けものに してください」
かみさまは しばたくのあいだ、だまって じっと、このちっぽけな うさぎを みつめておられました。それからしずかに こういわれたのです。

神さまは、うさぎのことをちいさくこしらえたが、すばっしっこく利口に作ってやった。
だから三匹に勝つことができたのだと。
この上、大きなからだをさずけたら森中のけものを殺してしまうに違いない。
だから願いを聞き届けるわけにいかない。
「~しかし、せめてひととこだけでも、おおきくしてやろう」
そうして、神さまはうさぎの両方の耳をつかんで遠い遠い大地の上を投げ出されました。

そのときから、うさぎのみみは あのように おおきく ながく なったのです。


最後のページは、耳の長くなったうさぎのやさしげな姿。
それまでのうさぎの姿は、ちょっと怖い・・・
三匹に勝つために戦闘モードだったのでしょう。

絵は黄色がベースとなって茶色、濃いグレーの4色使い。
カラーとモノクロが交互に現れる絵本によく使われる様式。
森の木々や様子、動物が異国を感じさせる造形です。


神さまの裁量はいかが。
うさぎは長くなった耳を気にいったのでしょうか。